2通のラブレター
初投稿です。
切ない風味な物語になっているはずです。
読んでなにかを感じてもらえたら嬉しいです。
ものすごくどしゃ降りの日の昼過ぎ、ある男が道路に落ちていた電話を拾った。
携帯電話はすでに雨水につかっていたが、壊れてはいなかった。
男は携帯のメール画面を開き、未送信のメールを見ると、メールが2通残っていた。
男は他人の携帯にもかかわらず、題名に「こちらを開いてください」と書いてあるメールを躊躇なく開いた。 そこには長い文章が書いてあり、男は一文一文を丁寧に読み進めた。
僕には同い年の彼女がいます。
いや正確には、いました。になるはずです。
別に自慢しているわけではないです。そう聞こえているなら素直に謝ります。ごめんなさい。
外見は、腰近くまで届く黒髪にモチモチとしているほっぺたをもち、あまり日に焼けていない白い肌の少女です。
一度、そのほっぺたがどれくらい伸びるのか試したのだが、ひっぱたかれました。
そんな彼女は少し普通の人と違っています。
いや、そういうと変な人に聞こえてしまうので訂正します。
彼女は、少しだけ運が悪い人でした。
ちなみに、ほっぺたが伸びるのが、彼女の運が悪い理由ではないですよ?
まぁ、僕にほっぺたを引っ張られるという経験をした。という意味では運がなかったのかもしれませんが・・・。
彼女の運が悪いという理由は雨女という事なのです。
雨女というのは、どこかに出かける時にその人がそばにいるとなぜか雨が降る可能性が高い ということで雨女と呼ばれているらしいです。
それに、うちの彼女と言ったら、半端ないくらいの雨女なんです。
どこかにデートに行くたびに、いつも雨。
それだけでなく、たまに二人きりで道路を歩くだけでも激しい雨が降る事が多々ありました。
そのためにデートはいつも、美術館とかの室内になってしまうんです。
一度、雨が降っているのもかかわらず屋外の遊園地に行ったんですが、さらに雨が強くなって乗り物が中止になってしまい無理だったという、今思い出すとただの笑い話になる思い出もあります。
さすがの彼女も、毎回毎回デートのたびに雨が降るのを気にしているみたいで、あまりデートに誘っても了解してくれないのです。
いくら天気予報で、晴れ100%といった日ですら、いざデートをすると雨が降ってしまうのです。たまにデート前日の夜から雨が降る時があります。
でも、勘違いして欲しくないのですが、僕は雨を全然気にしていません。
確かに、昔は少しだけデートのたびに雨になるので少し嫌でした。
どしゃ降りの時は家から1歩も出たくなくなります。実際それでデートを中止したこともあります。
でも、あることが分かってからは、雨の日のデートは凄く楽しみになりました。
彼女は本当に雨女でした。
彼女の気持ちがドキドキや期待、不安になった時にそれがそのまま天気に現れ雨が降ることが分かりました。
天気を見れば、そのまま彼女の精神状態が丸わかりだったのです。
そうすると、僕とのデートのたびに雨が降る理由、ときには前日すら雨が降る理由、デート中にキスをするたびに雨が激しくなる理由、全てが愛しく思えたのです。
彼女はデートが雨になるといつも落ち込んでいますが、最近では僕は雨になるたびに、どうしても頬がニヤニヤしてしまいます。
それを見ていつも彼女は不思議そうにしていますが、その理由を話すつもりはありません。
彼女はどういう時に雨が降るのか気づいていないらしく、それに気づけるのは彼氏の特権だと思います。
今後、僕以外に彼氏が出来たとしたら雨の秘密を知って、雨の日のデートを好きになってもらいたいです。
これが僕と彼女の話です。
さて、ここからが本題です。
彼女はとても優しい人で、もし僕が死んだらとても悲しむことが分かります。
それがもしデートの待ち合わせ場所に行く途中になにかに巻き込まれたとしたら、彼女はもしかしたら一生自分を責めるでしょう。
そのような事にならないように、もしなにかがあったら、その前に彼女に別れを告げたいのです。
今、このメールを開いている方、僕はもうすぐ死にます。
このメールを開いているということは、僕はあなたに携帯メールを開くように瀕死な状態ながら指示したはずです。
僕の望みはただひとつ、 もう一通の未送信メールを送って欲しい。 ということです。
そのメールには彼女宛で、
好きな人が出来たから別れて。君とは遊びだったし、迷惑だからもう連絡してこないで。
と書かれています。
もう僕は生きていないのですからこれからは彼女の傍にはいれません。
彼女にはこれから長い人生を幸せにすごして欲しいのです。
恋人が死んだら一生トラウマになり、恋に臆病になってしまうでしょう。そうなりやすい優しい彼女なのです。
いつまでも僕という鎖から抜け出せなくなって、恋ができないようにはなって欲しくないのです。
僕が死んでからすぐにメールを送れば、彼女と僕の接点は無くなり、たとえデートの約束をしていたとしても、他の浮気相手と遊びに行く途中で死んだと誤解してくれるでしょう。
彼女は落ち込まずにすむはずです。
むしろ浮気してヒドイ捨て方をした僕が死んで喜ぶかもしれません。
そうなれば、違う意味でトラウマになるかもしれませんが、恋人の死 よりは軽いはずだと信じています。
僕のせいで最愛の人を不幸にさせたくないのです。
もう僕の手ではどうやっても彼女を幸せにすることはできないので・・・
まことに身勝手ながらも、どうか僕のお願いを聞いてください。
もうひとつのメールを彼女に送ってください。
そして、最後にはこのメールを削除してください。
携帯を拾った男は長い長いメールの文章を読み終わった。
そのメールの最後には、一人の少年の顔写真の画像が入っていた。
制服を着ていることからおそらく、高校生なのであろう。
その少年こそが、この携帯電話の持ち主であり、そして・・・
たった今、男の目の前で起こった、悲惨な交通事故の被害者だった。
その事故とは法定速度以上スピードが出た自動車が雨でタイヤがスピンしカーブを曲がりきれなかった。運悪くそこには少年がいて、少年もろとも壁に激突した。
そこは人通りが良く、すぐに救急車を呼ぶ事ができ、救急車を待っている時間で周りの大人達が少年を車の下から救出した。
しかし少年は車に巻き込まれて致命傷をおい、すでに虫の息だった。
何度もうわ言で「メールを・・・見ろ」と必死に声を出していた。何度も、何度も。
土砂降りの中、少年は「あい・・・つは・・・こんなに・・・デー・・・トを楽しみに」と最後に口にして救急車の到着を待たずに息を引き取った。
激しい雨で体温を奪われたのが原因のひとつだったのかもしれないが、雨に打たれながらもとても安らかな表情だった。
そして、ある男が少年の携帯を拾い、あのメールを読んだのであった。
もう一通の未送信メールを開くと、少年のいう通り 彼女へ酷い別れを告げるメッセージがはいっていた。
男は指示通りにそのメールを送信するために送信ボタンに手をかけたが、なかなかボタンを押せなかった。
確かに、このメールを送れば、少年の彼女の悲しみは少なくなるかもしれない。
でも、自分が死ぬと分かっていながらも、最後の瞬間まで愛した人の事を考え、事前にこの2通のメールを残していた事を考えると、ヒドイ別れのメールを送って彼女に少年の偽りの感情を受け取って欲しくはなかった。
いっそのこと、彼女に1通目の長文メールを送り、少年があなたをどれだけ愛していたか伝えるべきであろうか?
しかしそうすると、少年の願い通りいかずに彼女はショックを受け二度と恋も出来ずに一生立ち直れなくなるかもしれない。
では少年の希望通りに、別れのメールを送るか?
それでは少年の印象が悪くなり、あまりにかわいそうだ。
この2通のメールには、とても愛情が込められていて男にはどちらを選べばいいか分からなかった。
しかし少年が死んでしまった以上、このメールを早く送らなければ彼の命を懸けた最後の愛情表現が無駄になってしまう。
早く決断しなければならない。
どしゃ降りが続く中、男は2通のラブレターのどちらを送るか迷っていた・・・・・・。
FIN
読みにくい所、理解しにくい所があったかもしれません。
その時はアドバイスをお願いします。
何度も編集できるのがネット小説の利点なのですから。
気軽に感想をお待ちしております。
もし自分があの男と同じ立場ならどちらのメールを送るか教えてもらえたら嬉しいです。
今回はいつか書きたい長編の 晴れ男と雨女の恋の話 のサブストーリーを書いてみました。 伏線好きな為、なかなか長編は完成しないので初の短編を書いてみました。
短編なのに伏線が入ってしまった事や、彼女が雨女という設定の理由はあるという事です。
少しでも気に入ってもらえたら他の作品も見てもらえるとうれしいです。
などと少し宣伝してみました。
以上です。