Mission,1 ポチを捜索せよ!
「う〜ん。 今月もやばいわね〜」
「あぁ? やばいって‥‥‥前に金入ったばっかじゃねぇか。 なにに使ったんだよ華奈〜」
ある事務所でソファーに腰かけている女の子、水代華奈とその向かいのソファーに寝転がりながらマンガを読んでる男、神矢聖希が話している。
「はぁ? あんたの今読んでるその【ナマコ】とかいうワケのわからないマンガといま舐めてるチュッパチャップスの衝動買いのせいで全部消えたわよ!」
「それはしょうがない。 自然現象だ。 我慢しろ」
「自然現象じゃないわよ。 あんたふざけてんじゃないわよ! だいたいこのご時世に【なんでも屋】ってなによ! 馬鹿じゃないの?」
「うるせぇな〜。 この就職難の時代に仕事なんて選べるかよ。 それに俺はいまナマコを読んむのに夢中なんだ。 黙っててくれ」
「あんたねぇ‥‥‥。 それより仕事来てなかったっけ?」
「あぁ? その辺に依頼用紙あるだろ」
聖希はめんどくさそうに机の上を指差す。
「依頼用紙って‥‥どうせただのメモじゃない。 あ、あった。」
「なんて書いてある?」
「え〜っと、【黒猫のポチ】の捜索ね。」
「黒猫のポチ? 猫か犬かどっちかにしろよな〜。 写真あるだろ? 見せろよ」
「う、うん」
華奈は聖希に【黒猫のポチ】の写真を渡した。
「こ、これは‥‥‥黒猫っていうより黒豚だな‥‥‥よっぽどいいもん食わせてもらったんだなコイツ」
「それより早くしないと! 今日の午後5時は飼い主が来るらしいわ」
「なにぃぃ!? それを早く言えぇ!」
今の時刻は午後の2時。 3時間で一匹の猫(?)を探すのは至難の技だ。
「よし、行くぞ!」
「で、どの辺にいるかわかってんの?」
「知らん。 片っ端から探す!」
聖希はなぜか自信満々で出ていった。
「はぁ‥‥‥」
不安そうな華奈もそれに続く。
「華奈〜。 見つけたか〜?」
『まだよ。 どこにいるのかしら』
聖希、華奈は携帯電話で連絡を取り合いながら猫を探していた。
『あと2時間ね‥‥‥』
「もう1時間たったのか。 やばいな〜。 この依頼ミスったら来週のナマコ買えねぇよ」
『大丈夫よ。 買わせないから』
「それは無理だ。 嗚呼!ポチ発見!」
『え? マジ?』
「おい! すぐ来い! じゃ」
『えっ? あんたど‥‥‥ブツッ』
美奈はケータイをしまうとため息をつきながら聖希を探しはじめた
その頃、聖希は‥‥‥
猫を追い掛けていた。
「おるぁぁあ! 待ちやがれクソ猫がぁぁ!」
「ニャー」
「ニャー。じゃねぇよ! おとなしく捕まれゴルァ!」
「ニャー」
「おりゃぁぁ!」
聖希は決死のダイビングキャッチを試みるがアッサリとかわされてしまった。
「マダマダダニャ」
ポチは得意気に聖希に向かって吐き捨てる。
「ぐっ‥‥‥なんで喋れんだコイツは‥‥‥」
「ニャ?」
不意にポチの体が浮いた。 いや、持ち上げられた。
「お待たせ〜☆」
「チッ‥‥‥遅せぇよ華奈」
「聖希がちゃんとした場所言わないから結構探しちゃったわよ‥‥‥」
「そうか。 まぁそんなことはどうでもいい。 帰るぞ」
「うん♪」
【なんでも屋事務所】
「でもこれで報酬手に入るね」
「ニャー! ニャー!」
「そうだな。 って暴れるな豚!」
「キシャー」
「ぎゃぁぁぁあ!? ひっかくなテメェ!」
「クスクス‥‥」
時刻は4時50分。 なんとか約束の時間に間に合った。
〈ピーンポーン〉
「お? 依頼人かな?」
「あたし出るわ。 ポチ押さえといてね」
「イエッサー」
華奈は玄関へ行き、ドアを開けた。
「こんにちは。 先日依頼した者ですけど‥‥‥」
そこにはスーツを着た女性が立っていた。 年は聖希や華奈より少し上ぐらいか‥‥
「お待ちしておりました。 こちらへどうぞ」
「はい。 あら、神矢さん。 どうも〜」
「あぁ、染井さん。 今日はどうしたんスか?」
「やだわぁ、ポチの捜索頼んだの私ですよぉ〜」
「そうだったっけな〜? じゃあこの豚早く連れてってくださいよ。 ひっかきまくりなんだもんなコイツ‥‥」
「豚じゃなくて猫なんですけどね‥‥‥。 私のことはひっかかないのにねぇ、このコは」
「そうなんスか。 それより捕まえるの結構大変だったんだから報酬はずんでくださいよぉ?」
「ふふっ、わかってるわよ。 でも神矢さんでも大変だったなんて‥‥‥力使わなかったんですか?」
(‥‥‥力!?)
染井が不意に口にした『力』という言葉に華奈は少し驚いた
「そうそう使いませんよ」
「‥‥‥力ってなんのこと?」
華奈は聖希に問う。
「あれ? 華奈には話してなかったっけなぁ‥‥‥。 俺の家系には代々受け継がれてきた力があるんだよ。 【千里眼】って言うやつ」
「千里眼‥‥‥?」
「そ。 なんでも神に許された力とかオヤジが言ってたな。」
「ふ、ふ〜ん。 なんか信じられないわね‥‥‥」
「その力を使えば捜索なんて一発なのに‥‥‥なんで使わないんですか?」
華奈の言葉を遮るように染井が言う。 それに華奈もうんうん、と賛同する
「アレは一回使うだけでも結構体力持ってかれるんですよ。」
「「そうなんだ〜」」
「それより報酬いくらくれるんスか?」
聖希の目が$になっている。
「‥‥卑しいやつめ‥‥」
華奈は軽く聖希を睨んだ。 それに気付いたのか聖希が少しビクッ、とした。
「報酬は元の金額に1割り増してお渡しします」
「それは嬉しい! これでナマコが買えるってもんよ!」
「まだアレ読んでるんですかぁ?」
クスクス、と染井が笑う。
「いつものように読んでますよ。 聖希は」
華奈も染井と同様クスクスと笑う。
聖希は染井から報酬を受けとるとそそくさと事務所を出た
「? 聖希のやつどこ行くんだろ‥‥‥まさか!?」
前回もそうだった。 報酬を受けとったと思ったらそそくさと事務所を出て、帰ってきたと思ったらコンビニの袋一杯のチュッパチャップスと週刊少年ナマコを持っていた。 しかも報酬の半分は消えていたのだ。
(まさかのデジャビュ?)
「ただいまぁ〜♪」
そこに見るからに上機嫌な顔の聖希が帰ってきた。 手にはコンビニの袋がある‥‥‥華奈は嫌な予感がした
「おかえり聖希。 まさかその袋って‥‥‥」
「あれ? 染井さん帰ったんだ‥‥‥」
「話をそらすってことはその袋の中身はチュッパチャップスとナマコなのね‥‥‥」
「当然♪」
「‥‥‥はぁ、もういいわ。 のこりの報酬で久しぶりに外食でもしましょ」
「いや、それは‥‥無理だな」
「? なんでよ」
「見事に使いきった! でも大丈夫! チュッパチャップス500個買ってきてあるから」
「500個ぉぉ!? 2万もチュッパチャップスなんかに使ったんかあんたは!」
「なんかとはなんだ! なんかとは! チュッパチャップスはなぁ、神が与えし禁断の果実なんだぞ(意味不明)」
「禁断の果実ってのは食べちゃいけないから禁断の果実って言うのよ!」
「そうなのか? それは知らなかった」
「あんたねぇ‥‥‥!」
そのあと数時間の間、事務所では言い合いが続いた‥‥‥なぜか二人ともチュッパチャップスを舐めながら‥‥‥