第9話 生体モニタリング装置
家に帰って来た。
怜奈さんも自室に戻って、着替えだ。
「それよりも……」
僕は、生体モニタリング装置を見た。
パソコンに繋いで、今日のデータを確認する。
「血圧も心拍数も正常値内なのか……」
全力疾走したけど、心拍数はそれほど上がっていない。
時間的に、入学式の前……。少し噂された時の方が、悪い。
「魔力を使えば、身体的に強化できる? 人間を超える動きは出来なかったけど、魔力次第では、可能かもしれない?」
僕が、モンスターになった可能性……。
背中が冷える。
「それと、腕に巻いていたのだけど、ベルトが切れかかっているよ」
生体モニタリング装置が、壊れかけている。
筋肉も大分育っているらしい。丸太とは言わないけど、腕が大分太くなった気がする。
細マッチョって言うのかな?
「……。もう必要ないよな。いや、邪魔だな」
そう言えば、腕立て伏せなんかのトレーニングをしても通知は来なかった。
試してみるか。
僕は着替えてから、腕立て伏せを始めた。
ちょっと、余計に力を入れてみる。そうすると、ベルトが切れた。
廊下が騒がしくなる。
ドアを開けて、怜奈さんが入って来た。
「相馬さん!? ぎゃあ~!?」
「あ、すいません」
汗をかく予定だったので、上半身裸で運動し始めたのが、良くなかったな。一人暮らしじゃないんだ。
Tシャツを着る。
それと、生体モニタリング装置を怜奈さんに渡す。
「ベルトが切れてしまいました。予備ってないですよね?」
真っ赤な顔した、怜奈さんが無言で受け取ってくれた。そのまま、部屋を出て行く。少しすると、針と糸で応急処置を施されたベルトが、戻って来た。
「今日はそれで我慢してください。明日、病院に行きましょう」
「お願いします」
こうなると、生体モニタリング装置の異常ではなかったか。
僕の体の方が、異常なのかもしれない……。
◇
夕食を済ませて、自室に戻る。僕の入学式は、明後日だ。
準備は整っている。
することがないので、メタルスライムを見た。
使い終わったプラスチックをあげてみる。水槽の底まで届けてあげると食べ出した。
「お前は、本当に動かないよな……。喰う時だけだ」
「きゅぅ~」
返事をしてくれるようになったか。
餌を与え続けたかいがあったかもしれない。
金魚にも餌をあげる。パクパクと嬉しそうに食べているな。
「金魚がモンスター化しないのは、不思議なんだよな~」
まだ、詳細は分からない。
メタルスライムは……、本当にスライムなんだろうか。
◇
次の日に、病院に行き医者と面談を行う。
「生体モニタリングを外したい?」
「はい、僕も高校に通うことになりますので。家政婦さんの許可がないと外出できなくなる状態ですし、これからは何時も傍にいてくれる訳じゃなくなりました。まだ必要なら、GPS機能だけでもOFFにして貰えないでしょうか」
医者は考えてくれる。
その後に、診察を受けたけど、ずっと考えているな。
怜奈さんは、後ろを向いて、僕の肌を見ないようにしている。
「ふむ……。いいだろう。病気が完治したとは思っていないが、ここまで健康的な肉体を見るとね。私も不要だと思うよ」
医者が僕の筋肉をポンポンする。
看護師は、顔を真っ赤にして凝視してるんだけど。中学生の上半身裸を見て、面白いのかな?
「ちょっと待ってください」
怜奈さんが、反論する。やっとこっちを向いてくれたか。
「万が一を検出するんですよ? 何度も危険を知らせてくれたのに」
「高校に通うほど健康になった人に、つける装置ではないんですよ。でもどうしてですかね、全ての数値が正常値だ。成長期とはいえ、短期間でこんなに変われるなんてね」
少し言い合いになったけど、怜奈さんが折れた。
過保護過ぎるよね。
さて、これで夜中に出かけてもバレないぞ。
◇
夕飯を頂き、深夜まで待った。
「明日は、僕の入学式だ。短時間だけ試してみよう」
僕は、一人で家を後にした。
近くの広場に向かう。公園だな。シェルターの入り口もある。
感覚を研ぎ澄ませる。
「きゅぅ~」
いた、スライムだ。
色は……、普通だ。
「どうして、ここにいるんだ? もしかして、僕が引き寄せているのか?」
「きゅぅ~」
意思疎通は……、できないか。
スライムをそっと抱きかかえる。
ここで、音を拾った。鳴き声?
「がるぅ~」
そちらを見る。
「小型のモンスターか……。変異途中だけど危ないよな」
◇◇◇
半分モンスター化した……、元動物。原型は犬かな? そんなモンスターだ。
この街では、動物の放し飼いを禁止している。
だけど、隣接する森に野生の動物が多いので、苦労しているんだ。
「こうなっちゃうと、もう戻せないんだよな……」
可哀相だけど、処分するしかない。
それに、完全にモンスター化すると、銃器なしでは手に負えない。
僕は、まだ変異途中で動けないそのモンスターを左手で掴んで、銀色の光を纏わせた。
崩れて行く、モンスター……。可哀相だけど、他に選択肢がなかった。食肉業者も登録のないモンスターは、買い取ってくれないし。そう言えば、美味しいの……、かな?
その後、地面を崩して穴を掘り、埋葬した。
「こんな土地でなければ、もっと生きられたのにな……」
俺は、手を合わせた。
「きゅぅ~」
さて、どうしようか……。僕の腕には、普通の色のスライムが収まっている。
全力で動いてみたかったので、家から出てみたんだけど、思わぬ拾いモノをしたぞ。
結局僕は、スライムを連れ帰った。干からびて死なれるよりは、保護したい。動物に食べられると、さっきのモンスターみたいに処分しないといけなくなるしね。
◇
朝になり、シャワーを浴びる。
今日は、僕の入学式だ。
それと、怜奈さんに報告しないとな。
「あ、おはようございます。相馬さん」
「おはようございます。怜奈さん。それで、相談があります」
寸胴鍋を出す。
不思議そうな顔をする、怜奈さん。
怜奈さんが、恐る恐る蓋を開けた。
「……これ、スライムですか?」
「はい、昨夜、庭で見つけました。どうしたらいいと思いますか?」
本当は、庭じゃないんだけどね。
怜奈さんが、スライムを見て頭を抱えた。
「今日は……、入学式です。それからで……。スライム防衛隊に連絡しておきます」
「食べないんですか?」
「私が食べたら、相馬さんと同じくらいの年齢になってしまいますよ?」
怜奈さんは、若さに渇望がないみたいだ。今が一番綺麗な時なのかもしれないけど、それを長く続けたいとは思っていないみたいだ。道徳のある――人なんだろうな。まあ、年老いたら、考えも変わるのかもしれない。
一定数はいる、スライム反対派の考え方だ。昔は、延命処置すら拒否する人たちが、スライムを摂取することを推奨してしまった。今は、拡大解釈されている。
一時期、死亡する直前になってから、スライムを摂取して、財産の処分を行う人が多く現れた。死亡直前に豪遊もないだろう……と、非難の的にされていたな。
親がスライム反対派だったら、僕は資金援助を打ち切られそうだ。親子の縁を切られるのかもしれない。知られないこと、教えないことが、一番平穏だな。
「相馬さん、支度をしましょうよ」
「怜奈さんの学校は? もう始まっていますよね?」
「今日だけは、休みますよ?」
その後、言い争いになったけど、僕が折れた。入学式について来てくれるんだそうだ。学校を休んでまで来て欲しくはなかったんだけどな。
◇
学校に着いた。また周囲が騒がしい……。
まあ、予想してはいたんだけどね。二回目だし。
「あれ――姉弟かよ?」
「美男美女過ぎ。学校間違えてない?」
「母親の方が、スライムで若返ったんじゃねぇの?」
これからは、行動を共にする場合は、気をつけないとな……。
校門で写真を撮り、入学式に参加する。
クラス発表は、明日なんだとか。
怜奈さんには、ここで帰って貰う。
午後からだけでも、授業に出て貰いたい。
入学式は、数時間で終わった。教室の発表はないし、式だけなんだ?
帰路に着くけど、女子生徒がジロジロと見て来る。
今だ人の視線には、馴染めない。
タクシーを呼んでもいいけど、今日ぐらいは歩こう。
道を覚えたい。
「距離的には、3キロメートルくらいかな?」
自転車か、バスか……。歩きには時間がかかり過ぎる距離だ。
商店街を歩いて行く。
「親からの小遣いは、まだあるんだよな」
入学祝で、纏まった額が振り込まれていた。だけど、この金額は多過ぎだとも思う。
両親が会社の社長だと、こんなもんなのかな? ここは、地方都市でもあるんだし、物価が安い?
ウィンドウショッピングで、何を売っているのかを確認して行く。商店街だけでも、把握したい。
「怜奈さんは、何をプレゼントすると喜ぶのかな……。アクセサリーではないのは、理解したんだけど」
考えていると、悲鳴を拾った。続いて、警報も鳴った。
「またモンスターか? 最近多いな」
僕は、その場所に向かって走った。




