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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

砂の主従

掲載日:2026/02/21

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お、つぶらやくん、質問かい? けっこう久しぶりだなあ。どこがわからなかった?


 ――砂丘と砂漠って、なにが違うんですか?


 ああ、見た目には砂がいっぱいある場所に違いないからねえ。写真で比べたりしただけでは、非常にわかりづらいだろう。

 決定的な差は、降水量にある。砂丘は砂がよそから、風などによって運ばれてできた地形だ。この日本においては普通に雨が降るし、時期によっては植物だって育つ。

 でも砂漠は降水量が少なく、蒸発する水の量が多いからどんどん乾いていってしまう場所なわけだ。結果的に砂や礫ばかりとなってくる。

 実際に地面を掘ってみるとわかりやすくて、砂丘はある程度掘ると砂が湿ってくるのだけど、砂漠においては徹底的に乾いた砂が出てくる。オアシスなどの水場でもない限りね。

 砂丘は砂のある場所どまりだが、砂漠は気候からしてそのような状態になることを運命づけられている、といった感じか。なので湿気の多い温帯の日本においては、砂丘はあっても砂漠はないわけだ。

 ……あ、そうそう、砂で思い出したよ。先生の小さいころの思い出のひとつさ。砂をめぐって少し不思議な体験をしたことがあるんだ。

 確かつぶらやくんは、この手の話が好きだったろう? その意欲旺盛さのごほうびって感じで少し聞いてみないか?


 ちゃんと砂を従えているか?

 そのような旨のことを初めて聞いたのは、先生がまだ学生だった時分、家へ帰った際の母親からだった。

 その日は体育で走り幅とびがあってね。何度も跳んだものだから、靴の中へ砂が入りまくりだったよ。いちおう、その場である程度は落としたつもりだったんだが、しょせんは子供の認識。

 靴裏の溝とか、繊維の中にまでうずまった砂たちには気づかない。いや、気づくつもりもない、といったところもあるか。結果として、玄関のあがりかまちに腰かけるや、振動でそれらがいっぺんにこぼれ落ちちゃうわけ。玄関のタイルの上にも、靴に乗っかってきた砂ぼこりたちが、断片的にまき散らされていく。

 それを母親が見て、先生に話したんだよ。「ちゃんと砂を従えているか?」とね。


 わけを尋ねると、我々と同じく自然にあるあらゆるものは仕事をしている、というのさ。

 作用、現象などはそれらの結果だけど、酷使される事態があれば当然疲れて、消耗する。落ちたパフォーマンスのまま新たな仕事に臨めば、ミスや非効率を生むのは明白だ。

 だから、時としていたわってやらなきゃいけない。それが友人のごとき密着軸でも、上司と部下のようにビジネスライクな付き合いでも構わない。ただ一方的に使うばかりの関係なら改めておけ……とね。

 具体的には丁寧なとんぼ掛けなり、はじまりと終わりのあいさつなりといった形で、ちゃんと敬意を示せということ。

 人間同士ではたから見たら、こっけいだしこっぱずかしい気持ちもあるだろう。返事を期待できるような相手に、向かっているわけではないから。

 でも彼らが機嫌を損ねかけるときは、決まって何かしらのサインを送ってくるはず。それには反応してやるべきだと。


 このときの先生は話を聞きながら、それでも自分の恥の概念が上回ってしまった。

 世話になるのは体育のときだけだし、自分以外にも使っている人はたくさんいる。それほど大事なことだったら、学校の大人たちがきっちり行っているはずだ。

 要は先生に、そのようなことをやる筋合いはない、と結論づけたかった。そう思い込んでいたかったのさ。

 でも、それはどこまでも独りよがりだったんだよ。なにせ靴に被害をもらっているのはほかならぬ先生自身だったから。向こうは先生をご指名だったんだ。


 そのことから眼を背け続けて、一か月ほど。

 走り幅跳びの授業も最後となり、授業で提出する取り組みカードの提出も完了。これであのとき言われた「敬意」の話からまぬがれると思って、ひと安心していた。授業中にバチがあたるようなこともなかったし、と。

 けれど、その日の帰り際になって。学校を出てから、先生は何度も靴を脱いでは、ひっくり返すことになった。中へやたらと、大小の石が入り込んできてうっとおしかったからだ。

 数歩歩いて、ごろごろ、ぐりぐり、靴と靴下の間を転がり出してくる。そうして何度も石を吐き出して、気づいたんだ。


 靴底に親指の先が入るくらいの穴があいている。今朝はなんともなかったのに、両足とも同じ位置へ、同じタイミングでだ。

 気味悪さより面倒さが勝る先生は、なおも家への道を歩き続けるも、穴はどんどん広がっていく。そればかりか、石以外に細かい砂の姿も入り込むようになっていく。

 ようやく異状と認定したときには、家へ帰り着いたそのとき。もはや朽ちかけたサンダルのごとき姿の靴は、先生が手で触れるとともに、文字通り砂山と化してしまった。

 しかも事態はそれにとどまらず、先生の履いている靴下さえも、その先っちょがぽろぽろと細かい粒と化して、こぼれていくじゃないか。

 さすがの先生も声をあげざるを得ず、それを聞きつけて飛んできた母親にこっぴどく怒られてさ。さっさと砂たちへ謝れと急かされたっけ。

 いや……ほんの十秒足らずだったけれど、はっきり覚えているよ。ぺこぺこ頭を下げて謝罪する先生の目の前で、靴下は靴と同じ砂粒と化していった。

 そしてあらわになった先生の裸足。その親指と人差し指の爪も、先っちょからじわじわと、砂の仲間入りをしていってしまったんだ。

 その謝罪に満ちた十秒が過ぎると、この砂化現象はぴたりとやんだ。靴も靴下も爪の先も戻らなかったけどね。それからは、ちゃんと礼を尽くすように母親にもいわれたよ。


 ――足の爪はもう大丈夫なのかって?


 う~ん、ばっちいからここだとね。ちょっと移動してからお見せしようか……。


 ほら、かなり深爪したような感じだろう? 見た目にいびつだしね。

 だが普通の深爪とは違う、こうしてタオルとかでこすったりすると……ほうら、どんどん砂粒が出てくるだろう。

 親指と人差し指の爪、そいつはもう先生の生来のものじゃなく、砂に乗っ取られているのさ。無礼のわび料といったところか。

 これから先、礼を失すれば同じようなことが起こるやも、と母親に注意されたからね。せいぜいこの体が、自分以外のものに乗っ取られないよう気を付ける毎日だよ。

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