26話 貴方に会いたかった
◇◇◇◇◇
イルは老人の瞳を見るや、
驚きと、やや不満の混じった
叫びを上げる。
イルが覗き込んだ
赤い瞳には…
十字に変形した瞳孔が
かつての圧巻を彷彿させるように
イルを睨み返していた。
「あ、ア、アンタ…!!」
「無礼者が!儂の顔に触るとは!
死罪を覚悟しているのじゃろうな⁈」
老人はイルの顔を
更に木の枝で打ちつけ、
そして、
踵を返すと、リーンへ向かって飛び付いた。
「リーン様!
会いたかった…会いたかったのじゃあぁ」
老人は飛び付くなり、
リーンの胸に顔を埋めた。
胸の柔らかな弾力を
顔で受け止め至悦している
老人にイルは叫ぶ。
「こ、この…ド腐れ魔術士がぁぁ
フィアロアァァ!!
リーン様から離れろぉ!」
いつもは緩慢な動きのイルが
この時は光速か⁈…と、思うほどの
速さで、フィアロアと呼んだ老人を
リーンから引き剥がす。
「ふむ…
やはり、フィアロアなのか?」
リーンは老人をじっと見つめる。
かつての仲間…
フィアロアとは似ても似つかぬ姿。
しかし
その世界に一人しかいないだろう、
赤い瞳と十字の瞳孔…
そして、グリフォンを
攻撃した破壊力が…
真実を物語っているだろう。
「正確には…
フィアロア…では無いのじゃが…」
老人は少し俯きながら、呟く。
「正確には??
…どう言うことだ?」
イルは、首を捻る。
「儂は、
フィアロアの…コピー体なのじゃ」
リーンとイルは、
何のことだか分からず首を
傾げるが…
一人、オセはハッとする。
「あっ…!私の毛…で??」
「うむ。
魔王と対決する以前にの…
オセの毛の一本に、儂の情報を全て
組み入れた細胞を
埋め込んでいたのじゃ」
何のことか、
ますます分からないリーンとイルに
オセは自分の能力を説明した。
オセ…
魔の領域の魔獣は
フィアロアの絶対的魔力により
召喚され、服従した。
オセの能力は
魔獣としての牙や爪の
物理攻撃能力も高いのだが…
最も特筆すべきは、
変身できる、という稀有な
能力にあった。
基本は自身が
人間などに変身する能力なのだが…
フィアロアは…
このオセの能力を応用し、
オセの毛に、
自分のコピー体を合成し、
変身させる効果を施した。
「…じゃから、
この身体の本体はオセの毛なのじゃ…
儂はあくまで、
フィアロアの思考や能力の
コピーを反映した人形…じゃ」
老人フィアロアは、そう補足する。
「ふむ…
本物のフィアロアは…
やはりまだ、水晶に封じられているのだな?」
リーンの問いに答えたのは
オセだった。
「はい、
私は今まで…ずっと…
フィアロア様のお側で
封印の水晶を守護しておりましたから…」
「あれ?
でも、オセ…
どうして、離れたの?
もう守護しなくていいの?」
イルの一言にオセはハッっと、
我に返ったように、背筋を伸ばす。
「儂が…
コピー体の儂が目覚めたのも、
そこにある。
王都に危機が訪れているからなのじゃ」
そして、老フィアロアも言葉を付け足す。
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