16話 フィアロ国までの道中
◇◇◇◇◇
「はぁぁ…この森…いつまで続くんだろ?」
鬱蒼とした森を、既に数時間は歩き
ついに、イルが弱音を漏らす。
今まで世話になった町を出て、
隣国フィアロへ向かい始めたのが
日の出の時刻だった筈だ。
だが…
太陽の位置から読み取れる筈の時刻は、
幾重にも覆い茂る木々によって、
四方見渡しても辿ることができない
状態だった。
辛うじて風が吹く時に
揺れる木の葉から、光りが漏れ
微かに差し込む程度。
光が殆ど入らない木の葉の下では、
空気すらも重く澱んでいる
ようにも感じられた。
湿気を帯びた土の匂い、
木の幹のひげた匂い、
その他諸々が混じり合った
匂いが周囲に漂い、
イルの鼻を苛んでいた。
「ダンジョンのジメジメした匂いも
あんまり好きじゃなかったけど…
ここも苦手だなぁ…
早くスカッと青空の元へ出たいよ」
「贅沢だな。
迷いに迷って、何日も
彷徨うよりはいいだろう?」
前世は密林で何日も潜伏していた経験もある
リーンは、むしろ街中よりも心地よいと
ばかりに、黙々と足を進めていた。
しかし、リーンの言う通りではある。
これだけ深い森であるにも関わらず、
迷うことなく進められるのは、
地面に踏み固められた小道があるからだった。
綺麗に舗装されている…
という訳ではないが、
長年、旅人が往来してきた証なのだろう。
木々の隙間をねるように、
小道は目的地へと誘ってくれる。
ある意味、単調な旅…
とも、言えるのだが…
「僕の腹時計はお昼を
差してると思うのですよ〜!」
チラチラとリーンを振り返り、
自身の立派な腹をさするイル。
そんなイルを胡乱気に見たリーンだったが、
ため息を一つ吐いて、イルの分かり易い
要求に応じる。
「まあ、そうだな。
そろそろ昼時か?食事と休憩を取るか」
「ああ〜!やっと休める〜!」
待ってました!と言わんばかりに
イルは背負っていた旅袋を
下ろし、小道に敷き布を広げる。
「恐ろしく休憩の準備は早いな」
リーンがやっと荷を肩から下ろして
いる頃には、イルは既に
敷き布の上で寛いでいた。
「僕のこの身体…重いし、足は短いし…
おまけに筋肉もさほど付いてなくて
ひどく疲れるのですよ」
袋から取り出した水筒で喉を潤しながら、
イルはため息を吐く。
「地道に筋力を付けていくしか、ないだろうな」
リーンは苦笑いしながら、
自身の袋からも水筒と、
アーファが持たせてくれた軽食を取り出す。
チーズを挟んだ硬いパンに、
小ぶりの青リンゴを二つ。
片方の青リンゴをイルに差し出す。
「え?貰っちゃっていいんですか?」
「まだ先は長いからな。栄養を摂っておけ」
青リンゴはイルにもアーファから
渡されていた。
だが、道中でとっくに
オヤツとして食べてしまっていたのだ。
「ありがとうございます」
イルは嬉しそうに頬を緩め、
パクリとリンゴに齧り付く。
そんなイルの姿は、
まだまだ幼く、成人したての
等身大の少年そのままだった。
『まだガキだな…自分に息子がいたら
こんな感じなんだろうか』
リーンのイルを見る目は
穏やかで、成長を心底楽しみにしている…
といった感じなのだろう。
「だが…前世の記憶と意識は
けっこうな大人の筈なのだがな…?」
呟くリーンの声を聞いているのか、
どうなのか…
イルはチーズを挟んだパンを
美味しそうに夢中で頬張っていた。
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