10話 ダンジョンのイレギュラー
◇◇◇◇◇
「だ、だからですよ!」
ダンジョンへの道を歩きながら、
イルは小声だが、叫ぶ。
「僕が、止めなきゃ…
アイツら…死んでたじゃないですか!」
…リーン様に撲殺されて!
と、更に小声で訴える。
周囲がもし、会話を聞いたなら
皆、首を傾げて信じないだろう。
雑魚デブ新人冒険者のイルと…
無能術者の華奢な少女リーン。
これが、周囲の者が知る二人の姿だ。
しかし…
「人を脳筋みたいに言いおって!」
(そりゃ、魔法職でもランク上がれば
多少なり腕力も上がるというものだ!)
と、リーン本人は
密かに心中でそう主張するが…
上級ランクの重戦士の腕力が
せいぜい、いって90値のところ
リーンは…腕力800値以上いっているのだ。
筋肉隆々戦士の腕力の十倍近くあるのだ!
控えめに言って、怪力お化けなのである。
だが、
そんな話しは、ここだけのこと。
リーンの脅威のレベルや、
その実力は知られてはならない。
もし…
二人のことを調べる者が現れたら…
もし、
正体が世間に知られてしまえば…
世界的大混乱を引き起こして
しまうからだ…
だって、
何故なら…彼らは…
「よう!イル!今日もダンジョンか?」
話しているうちに、
二人はダンジョン入り口に
到着していたようだ。
「はい!今日も
ダンジョン一層の魔物退治依頼です」
「お互い頑張ろうな!」
知り合いの同業者に声を掛けられる。
二人の秘密は内に秘め、
魔物退治へと、意識を切り替える。
ブレイブダンジョン浅層…
基本的に、初心者冒険者でも、
倒せるレベルの魔物しか出現しない階層だ。
しかも、魔物の出現頻度も
非常に低く、単体でしか出現せず…
経験値を上げる場としても
重宝している階層だった。
ただし…
ごくごく稀に、イレギュラーは起きる。
強い上級種魔物や、
複数匹同時に出現するなど…
上級冒険者しか対応できない事例は起きるが…
数年に一度くらいの稀有なケースだ。
まぁ、滅多にそんな事は…
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
ダンジョン内に響き渡るような
悲鳴が聞こえた。
「た、助けてくれ!!
じ、上位種が出現したぁぁぁ!!」
何人かの冒険者の悲鳴も聞こえる。
「え?!上位種の魔物?」
同じく、浅層に居た
駆け出し冒険者らはポカンとする。
超稀なイレギュラーが起こってしまうとは…
「バカ!呆けるな!逃げるぞ!」
上位種…
その意味を知る経験者は
慌ててダンジョン入り口へ走る。
魔物の上位種…
そのままの意味だが、
その実力は、雑魚魔物の数十倍にものぼる。
上級ランク、超ベテラン冒険者が
一匹を倒すのに、
数人がかりで…やっと倒せるかどうか…
それ程の強さの魔物が
浅層に出現するという異常事態だ。
「イル!あんた達も早く逃げろよ⁈」
知り合いの冒険者らも、
顔を真っ青にしながら走り去る。
それを見送りながら、イルは肩を竦める。
「どうします?リーン様」
周囲の冒険者が
青くなって逃げて行く中…
イルは飄々としている。
「我が杖で叩こうか…」
リーンが行きかけるが…
「ぎゃぁぁぁぁー!!」
奥から、また更に冒険者らが
逃げて来るのが見えた。
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