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ex1 未来へ




「フィストリアが側にいないとどうにも振るわないな。」



ルーカスはここ最近のことを思い出す。

彼にとってフィストリアは常にそばに居てくれる存在だ。


そんな彼女が居ないのは彼に若干の動きづらさを感じさせていた。


その様子を横目に見ながらフィストリアは塔から見える夜空を見上げて励ます。



「大丈夫ですよ。私はこれからずっと側にいます。もう一度も離れる心配はありません。」



そう言うと彼女は手元に青い炎を生み出した。

懐かしい彼女の魔術だ。



「ところで…あなたは自身の身体の変質に気づきましたか?」


「いや、何か変わっていたのか?」



ルーカスはフィストリアの質問に首を傾げる。

記憶を取り戻したばかりであったため自身の身体にまで気が回っていなかった。



「王樹が無くなったことで、原初の魔術言語が人々に与えられることが無くなり、魔術という存在はこの新世界から消え去りました。」


確かに、彼女の言うようにこの新世界で魔術を用いる人間は居ない。

彼女のいうように、魔術というのもかつての人々が黄金の果実に願ったことで与えられた物だったのだろう。


思えば、新世界での生活は前世界のものとは比べ物にならないほどに不便になっていた。



ルーカスの考えている顔を微笑みながら見つめるフィストリアは青い炎を絶やさずに続ける。


「ですが、私たちは使える。魔術言語を覚えていますからね。黄金の果実によってあなたの魂にあった損傷も無くなり魔術が使える。これは、私たちの身体というより世界の方が変わってしまった弊害なんですけどね。」



ルーカスはその言葉にいくらかの驚きを覚えた。

思えば確かにそうだ。魔術言語を知らなければ、魔術は扱えない。


俺がフィストリアに敵うほど魔術を扱えるようになれることは無いだろうが、それでも魔術を扱えるというのは便利なことなのだ。

使えないのと少し使えるには雲泥の差があるだろう。


しかし、彼女はそんなルーカスの考えと違う話を続ける。


「魔術を発動させる権能は王樹から与えられていたようです。なので、今の人々は魔術構築を組んでも魔術が使えません。」


「……それなら、俺たちが魔術を使えるというのもおかしくないか?王樹は大陸から消えてしまったぞ?」


王樹の上部分は崩壊してしまったが、根本はどれだけの時間が経ったか分からないが確かに残っている。そこが働いているのだろうか。


「てっきり、魔術言語を知っていれば魔術を使えるものだと思ったんだが。」


フィストリアはルーカスの疑問にも答える。



「それが私たちの身体に与えられた真の変質です。あなたが王樹を斬り伏せた時、樹に蓄えられていた力のほとんどがあなたと私に与えられたようです。」


「魂を保存していたのは魔術的なものだったので今でこそ働かせていませんが、魔術を発動させるために必要であった権能は私たちの中に確かに存在しています。」



「ふむ……俺たちはこの世界でも妙に力を持った特異点となってしまったわけか。」



二人だけが魔術を使える存在。

もしくは二人が力を与えた存在も魔術を使えるようになるのかもしれないが。



「それに、力の包容によって私たちの寿命が、非常に長くなっているようです。力の包容に耐えられるように…それこそ、王樹と同じぐらい、下手をしたら寿命なんてあるのかって感じですけど。」


「でも、長い時間に耐えられるように肉体から変質しているらしいです。今までの身体より精神的にも肉体的にも頑丈になっているのを確認しました。あなたのアルカディアくらいでないと、もはや私たちに傷すら与えられません。」


「私たちどんどん人から離れていっちゃいますね。」



その言葉は少し悲しげに聞こえたが、彼女にとってルーカスが居ることの方が圧倒的に幸運だ。


互いの愛情は執着に似ている。

それこそ、互いの存在があれば、他には何もいらないくらいに。


彼女の度重なる説明にルーカスはその情報量に酔っていた。


「フィストリア、君のほうが先に記憶を取り戻していたと思うのだが、今までそれの検証をしていたのか?」


ルーカスの言葉にポカンとした様子のフィストリアはふいに笑いだした。



「ふふ、まあ、それもありますが他に情報を得ることができた時があったんですよ。」


「これらの情報は旧世界であなたが王樹の力の奔流を受け切ったあとに私が魔術を用いて解析した結果なんですよ。」



「俺が倒れた時……というと、君が歌を歌っていた時…だろうか?」


ルーカスはあやふやな記憶を手繰り寄せる。


「そうですよ、あなたが前に立って力を受けすぎて倒れてしまったので、半分を私が引き受けて、その力を用いて世界中の人々を最後に再創造に巻き込みました。」


「これは、私の我儘なんですけどね。」


「前回でせっかく仲良くなった皆と逢えないのは少しだけ、淋しいと思って。」


彼女の我儘………それは、彼女の記憶にあるように今の時代に辿り着くような道を創ること。


知っている人たちも同じような立場の者として産まれるのだろう。


勿論、王樹が無いことによる大きな変化は起こっている。

彼女の我儘はあくまで、前世界で失った仲間たちと再び会うために道を整えるだけのものだった。



それにしても、やはりただの人間が受け切るには王樹の力は大きすぎたのだろう。最後の輪廻が始まる直前。

身体が崩壊してしまう前にフィストリアが2人の肉体と魂を崩壊から保護してくれたのだ。



「結局、大陸の文明は王樹によって崩壊させられてしまいましたが、魂魔術を用いて、王樹に貯められていた魂に大陸に住んでいた人々の魂…その全てを保存して今に至ります。」


「…輪廻されたということは、王樹を斬り伏せてからまた、数千年と過ぎているのか?」


ルーカスの気づきにフィストリアは苦笑する。


「あはは、そうなんですよね……。でも、人間の可能性というのは凄いですね。私たち、驚くほど同じ運命を辿りましたね。」


「そうだな。」そう言ってルーカスは笑う。



フィストリアがした道の整備のおかげか。

運命の強制力と言うべきか。


前世界と同じように帝国は西の強国を打ち倒し、今や大陸最強の国となっている。



あの戦争を最後に争い事は起こっていない。しばらくは平和な時代が続くだろう。



黄金の果実が無くなった今、帝国の滅亡が起こるのかは分からないが、変わったとしてもそれは人の可能性が生み出した結果なのだろう。



「ふむ、運命の強制力があると言うなら、300年後のグラディアはどうなるんだろうな。前回は俺が転生したから良かったものの。俺が居なかったらエリアスだけだったんじゃないか?」



ふいにルーカスは危惧する。

彼の魂魔術は胎児の時に魂が宿らなかったかつ、ルーカスに適した肉体に転生するものだった。


ルーカスが今回転生しなければ、300年後のグラディアの長兄は不幸にも死産となり、男系王族は彼の弟だったエリアスだけになってしまう。


そうなるとフラクタルとの友好関係も浅くなるし、色んな影響が現れてしまいそうだ。



「それじゃあ、もう一度ルーカスは転生しますか?」


「いや…それだと、またフィストリアを置いていくことになるじゃないか。」


フィストリアが珍しく妙なことを言ったことにルーカスは困惑する。


しかし、彼女は愛らしくそして悪戯そうに微笑む。


「ふふ、安心してください。私たちが王樹の力を得たメリットは何も身体が丈夫になることだけじゃないんですよ。」


「今の私なら、魂魔術による転生までの期間を自由自在に操れます!!」



とても自信満々に答えたフィストリアにルーカスも笑みが溢れる。



「せいぜい離れるとしても1ヶ月くらいのものです。記憶を持ったまま転生だって可能ですよ。」


「くくっ、そうか。まったく……安心した。君を1人にすることは2度としたくないと思っていたんだ。」


「言ったでしょう。私はあなたの側に居ると。あなたが側にいないと不安で押しつぶされてしまいそうです。」


そんな冗談のような本音を言い合えるのも、今出逢うことができたからだ。


「もう一度、私を王妃にしてくださいね。前回はせっかくグラディアの皆さんに挨拶までしていったのに無かったことにされちゃいましたから。」


「ふっ、確かにそうだな。結婚式だって挙げれず仕舞いだったしな。」


「本当にそうですよ!まぁ…私は、楽しみは後に取っておく派なので構いませんが。」


ルーカスは、そんな愛らしい彼女の願いをこれからも叶えて行きたいと考えていた。



「さあ、これからどうするかな。」



ルーカスの呟きにフィストリアが微笑みながら答える。



「300年後の事もですけれど、それまでは前回できなかったことをして行きましょう…!!」


「ああ…そうだな。幸運なことに俺たちにはほぼ無限に時間があるんだ。ゆっくりと行こうじゃないか。そのための身体の変質でもあるんだ。」



黄金の果実が無くなり、かなりの人格者が集まっていた300年後の時代は平和な時代になるだろう。



「俺たちの願った平穏が訪れたのか。」


「そうですね。まぁ、その代わり私たちにはまだまだ波瀾万丈な人生が待っていますけど。」



「フィストリアと一緒ならそんな日々も楽しめるだろう。」


「それもそうですね。」



そう言って2人は遠く未来を見つめていた。




こっちの方が最終話らしかったですかね……



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