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愛と平穏を願う




2人は果実によって擬似的な永遠を手にしている。



しかし今、それを手放そうとしている。



逃げることは可能だろう。一時的に大陸から遠くへ転移したらいいだけだ。



だが、二人はそれを拒否した。



ルーカスはこの王樹を切り倒し、人々を、人知れず輪廻の運命から解放しようとしている。


彼が果実に願いたかった束の間の平穏ではない。


全ての元凶である果実のなる王樹を無くし、人々が果実を追う争いから自由にしたいと願うのだ。



それが、果実と戦闘を憎む、戦争の王としての決断だ。



それが永久(とこしえ)の平穏につながるとは思わないが、それでも人間は自由を手にし、未来を創造できて、死後に安息を得られるのだ。




“もう繰り返されることはない”




人が多く死ぬ戦争が起きればその分早く王樹は限界を迎える。


王樹の中心にあったのは魂を保存しておく容器のようなものだったからだ。



ルーカスとフィストリア、魔王たるアドラスのような特異点が生まれることでも早く限界を迎える。


三人のような規格外は大量の人間を一瞬にして葬ることができるからだ。



人が生まれ変わるまで魂は王樹に保存されている。


輪廻を繰り返すたびに王樹が限界を迎える速度は速くなってきているのだろう。



何度も同じような目に遭わせる運命を切り捨て、新しい時代は新しい人間に紡いでもらいたい。



ルーカスの手にはアルカディアがある。


その剣には彼の…グラディア公爵の願いが込められている。



『立ち塞がる全ての運命を断ち切り、理想郷を手にすることの出来る剣』




『「“今こそ———俺の願いが叶えられる時だ。”」』




王樹を切り倒すことで大陸にはどんな変化がもたらされるのかまだ2人には分からない。



しかし、ルーカスは自分の選択によってこの場でフィストリアを失ってしまうことが何よりも恐ろしかった。


魂の輪廻が終わるということは、失えばもう2度と逢うことが無くなるということだ。



あまりの恐怖に剣先が震えているのがわかる。



ふと、フィストリアがルーカスの手に触れる。



「安心してください。私はいつまでもあなたのそばにいます。たとえ王樹を切り伏せることで王樹と果実のなくなった新しい世界が生まれたとしても……変わりません。」



「私はもう一度あなたと出逢います。1度目、あなたが私を帝都の塔で見つけたように……2度目、私がぼろぼろのあなたを見て全てを思い出したように……」



魂に刻まれた記憶はふとした瞬間に思い起こされる事がある。



ルーカスとフィストリアの互いに執着する人並みならぬ愛情、長年の友人を失う苦痛。



これらはかつてのルーカスに強く刻まれた記憶であった。


たとえ、再び会えたとしても彼女を思い出せるか分からない。




だから、今………次があるなら———




次の自分に託す為の記憶を創る。



「王樹を伐り倒す記憶は、それはもう強く刻まれるだろうな。木を見るたびに既視感を覚えるだろうな。」



前世で生まれた村を思い出す。

何も知らない少年がある日、ただの木に既視感を感じている…そんな可笑しな光景を想像して、少し笑みが溢れる。



かつて何度も繰り返されてきた歴史。


その中で一回でも王樹は切られた事がない。


それはそうだ。有れば続いていないだろう。


それに挑むのだ。


これほどまでに凄烈な記憶はなかなか無い。



「全ては運命的に出逢います。それは私もあなたも例外ではありません。私たちが紡いできた運命は新世界に負けるほどやわではありません。」


「だから、ルーカス。お願いします。全てを切り伏せて、私たちの理想を……どうか———」



ルーカスは正面を見据える。



「大丈夫だ。全て、負える。」



大陸の人々は願う———



『戦争に絶えないこの大陸に安寧を』



それは祈りのようなもの。



二人は今、そんな他愛もない平凡な願いを背負っている。


平凡だが、難しい願いだ。



———二人はこの大陸に一つの可能性を投下する。



アルカディアの剣身に青い光が滲み出す。



ルーカスは深く正面を見つめる。


アドラスに致命傷を与えた時と同じように、集中する。



フィストリアが今まで無かったほどの魔術を組んでいる。


彼女の長い人生と今までの輪廻で積み重ねた魔術の感覚だ。


大量の魔術言語…人が生み出した数々の言語に加え、原初の魔術言語をも操ってルーカスを援護している。



今までの輪廻での出来事は思い出せないが、記憶になくとも魂が覚えているはずだ。


何度繰り返されたか分からない輪廻………


その中で自分は何度、彼女と結ばれたのだろう。


出来ることなら、これからの長い時間を彼女と生きたかったが、それは次の俺が叶えてくれるはずだ。


これは今、ここで成さなければならない。



ルーカスは目の前の王樹を一瞥する。


今や空を突き破るほどの巨木。


その巨木は今にも爆発しそうな力を蓄えている。



王樹を前にし、傍にフィストリアを、ルーカスはアルカディアを構える。



「大陸の運命が変わろうとも、俺たちは人の紡ぐ運命を信じる。」



ルーカスはアルカディアを振るう———



担い手の意志を強さに応える剣。



二人の意志はもはや大陸存亡、人類存亡を懸けた意志となっている。



その意志は何よりも硬く鋭い。



王樹に刃が通り出した———



王樹を切り裂き始める……樹の幹からは青い光が溢れ出している。

木々がざわめき、激しい揺れが二人を襲う。


ルーカスは怯まない、迷わない。




「俺たちの理想に応えろッッ!!!」




ルーカスはアルカディアを水平に振り切る。



青い光が瞬間二人に降り注ぐ———



それから身を守るために、フィストリアを守るために剣を盾にする。



それでも剣をすり抜ける光が2人を焼き尽くしていく。


痛みはない。


ただ、消えてしまいそうな感覚がするだけだ。



やがて、アルカディアが力の奔流に耐えきれなくなり吹き飛ばされた———



その時、ルーカスはフィストリアを光から庇い、抱きしめる。



終わりか始まりか、せめて、その時を彼女といる為に。




『たとえ、全ての忘却の果てでも彼女を見つけなければならない。』




いつか願ったその言葉が今際の際に聴こえる。


ルーカスは最後の時もただフィストリアのことを考えていた———








 ◇   ◇   ◇









ぼんやりとした意識の中、ルーカスは何も見えない。


先ほどのような強烈な力の奔流は感じられない。


ただ光に溢れているようだ。



「私が…離れたくないんです……」


「これは我儘……」



愛する人の声が聞こえる。



彼女の声をもっと聴いていたい。



そんな考えを了承したように彼女の心地良い歌声が響く。



その歌はいつかのようにバイオリンによる演奏は無いがそれでも構わなかった。



この歌は別れを悲しむものでは無い。



ただ世界に平穏を、そして王に愛を———



それは彼女が愛する人に贈る———



———小夜曲(セレナーデ)だった。





 ◇   ◇   ◇





俺はただ君に願う。



永遠に変わらない愛を———



同じく私もあなたに…私の王に願いましょう。



永遠に変わらない愛を———




()たちは大陸の王(王樹)に———世界に願う(願いましょう)



この永遠に終止符を———



そして、人々の歴史に始まりを———





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