大陸の王
この大陸は何度も輪廻している———
王樹はエネルギーを溜め込み、いずれ溢れ出す。それは、人々の文明を洗い流し、自然の元に帰す浄化作用だった。
死んだ人の魂は王樹に呑まれ、大陸が浄化された後に順番に生まれ直す。
数千年の時間を経て、人々は何度も似た運命を辿る。
周囲の人間、環境が殆ど一致しているのだ、これは必然的なことだ。
しかし、世界にはこの王樹による浄化作用を知る者はいない。
———それは、不老不死の人間や、伝えていける人が存在しないから。
輪廻の中では『黄金の果実』に永遠の生を願ったものもいたが、じきに病に冒され、死ぬ。
王樹の定めた規定以上の力を持つと推定された時、その人間に発症する大陸の保護システム。
それが、ルーカスとフィストリア……果ては多くの実力者を死に至らしめた奇病ノソフォトラの正体なのだろう。
その奇病によって人は永遠などないと信じ、いつしか永遠を願うものはいなくなった。
不老不死を願っても…やがて精神崩壊してしまう。
願ったものがそれに気づくのはいつも果実が無くなった後だった。
病を治してくれ、傷を塞いでくれ、そんな願いが溢れる中で唯一永遠を得られる願いが、存在していた。
『身体を修復させ続ける』
アンバラシア帝国皇帝の願ったこの願いは、奇しくも不老不死の弱点と相殺するものであった。
身体をある地点で留め続ける。
この願いに類するもの以外で永遠を得ようとすれば何らかの規定に抵触して死を迎える。
再生させ続けるという不完全な不老不死が———
完全でない偽りの不死こそが真なる永遠を紡いでいた———
◇ ◇ ◇
「フィストリア……俺の人生をかけた推測だ。君はどう思う……?」
ルーカスはゆっくりと話した。
「筋が通っています…今までの全てが繋がったように…」
「恐らく……大陸の人間は王樹によってその生を支配されている。それが良い事なのかは俺にも……分からない。」
魂が輪廻していると言うことは人間を永遠に失わないということだ。
今回のような腐食の雨による大量の犠牲者も…いつか再び人として生を受かる。
誰も輪廻には気づかない、気づけない。
そんな無知は不幸だが…いつか幸運に思えるのではないか?
今回ではない次の輪廻では幸運に思えるんじゃないか?
また…逢えたと……
「ですが———」
フィストリアの言葉がルーカスの意識を現実に引き戻した。
「———ですが…それは、自由と呼べるのでしょうか…?」
「人々は今の時代までしか生きられない。未来がありません。」
「それに、繰り返される歴史は……約束された安息を人々に与えません。永遠に…」
「いつか人々の魂は記憶に埋もれ…擦り切れてしまうのではないでしょうか……」
「他でもないあなたのような人が———」
フィストリアはルーカスを憂いていた。
死によって安息を得られるはずだった彼を再び現世に呼び戻してしまったと。
全てはルーカスの選択だが、彼女は一抹の後ろめたさを覚えていた。
それによって今のルーカスは記憶を二つ持っている。
旧帝国に仕えていたグラディア公爵としての記憶とグラディアの王族として生きた今のルーカスとしての記憶。
魂に刻まれた記憶はある日突然思い出されることがある。
彼が西の将軍との戦いで思い出したように———
いつの日かそれ以上の記憶に埋もれ、擦り切れてしまうのではないかとフィストリアは危惧していた。
「私はルーカスを愛しています。それこそ…あなたが居れば、この大陸はどうでも良いと思えるほどに……」
「だから…あなたがいつか苦しむという可能性すらも…私は怖いんです。」
「ルーカスは今迷っていますよね……私には分かります。……なので私からは…あなたの隣に立つ者として鼓舞する言葉を贈りましょう……」
「———大陸の命運も…己の感情も…全てをルーカスの望むように。私は永遠にあなたについて行きますから。」
そう…それだけが、彼女の願いでもあった。
ルーカスは彼女の言葉に微笑み、アルカディアを強く握り締めた。
「ありがとう…フィストリア。俺は決めた———」
「俺たちで大陸における真の支配者———"大陸の王"を討伐する———」
◇ ◇ ◇
この大陸は永遠に囚われている。
それを知る人間はこの大陸には居ないが、事実、大陸に住む人間は皆、永遠の囚人である。
王樹は人の魂を溜め込み続ける。
ある一定の時間が経てば、王樹は溜め込んだ魂の量に耐えられなくなり、崩壊する。
それは大陸の文明を破壊し尽くし、全てを原初に戻す。
しかし、その輪廻の中、強い人間も居た。
何度も輪廻を繰り返すことで既視感やデジャブによって違和感を感じ、それを超えることで強くなる。
輪廻のたびに強くなっていく人が現れるのだ。
性質上これは努力家に現れやすい症状だった。
戦闘に特化した努力の天才は混沌とした時代に生まれやすい。
剣術を極めたルーカス
魔術を極めたフィストリア
この2人は言わば、大陸の特異点であった。
そして、互いに特異点となった二人は惹き合った。
二人は元から似ていたのもあるだろう———
運命は二人を引き合わせ、フィストリアに300年という魔術を極める時間を与えた。
ルーカスは二度の人生で剣を手に入れ、地位を手に入れ、剣術を極めた彼にさらなる力を与えた。
その二人の決断は大陸の行く末を決定づける判断だ。
始まりの王樹……そして、終わりを剣王に———
◇ ◇ ◇
王樹は人々に恩恵と終焉を与えていた。
樹は果実を通して人々に恵みを与える。
王が褒美を与えるように———
樹は奇病を通して人々の増長を防ぐ。
刑の執行を下すように———
運命の奴隷であっても、戦果を上げればそれに見合った対価を与える。
王に与えられた奇病はまた、王に与えられる褒美で消えるのだ。
大陸の支配者は人でも魔族でもない。
———""其れが大陸の王""なのだ———




