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終焉




ルーカスはアルカディアを手に、フィストリアは黄金の果実を手に、アドラスと対峙していた。



「掛かってこいダと……?我を舐めておるのカ……まだ負けてなどおらぬぞ!!」



アドラスは右腕に雷電を纏わせ、ルーカスの元まで高速で近づく。


振り上げた剛腕は鋭い暴風を起こした。


剛腕を横に避けたルーカスは風に揉まれながらも剣を振るう。



「俺たちはここで、お前を逃がさない、手加減もしない。」


ここで二人に出せる全力を持って。


強い意志を持って振るったアルカディアは青い光を纏い、アドラスの右腕にそれを突き立てる。


その瞬間、剣は延長されたようにその剛腕を貫通した。

黒い血が辺りに飛び散る。



「グッッアアアッッ……!!」



アドラスは吠えながら右腕を横に振り、ルーカスを巻き込もうとする。


しかし、そんな腕は空を切る。



ルーカスはフィストリアと交代する。



「……元はと言えば、私が始めてしまったことですからね。あなたに終止符を与えましょう。」


そんな彼女の様子は戦場に似合わず艶があった。


アドラスの行動の原因全てをまとめて仕舞えば、彼女が傾国だったのが始まりなのかもしれない。


それこそ、ルーカスも立場が違えばアドラスと同じように破滅に向かっていたのかもしれない。



「私もルーカスに負けていられません。」


そんな妖艶な彼女が言葉を紡ぐ。

それは大陸の常識を覆そうとする言葉だった。


「黄金の果実に実際に触れて分かりました。これも"魔術構築"であると。巧妙すぎて、今の私でないとわからないと思いますけどね。」


「それが、何を意味するかあなたに分かりますか?」



アドラスはフィストリアの言葉に目を見開く。

それは、常人には考えもできない事だ。



「な、何を言っているのだ…貴様。そレは、人智ヲ超えた存在であるはずダ……!!完全性の塊で———」


醜悪な顔を更に歪ませて否定しようとしている。奴が狼狽えるのも仕方ない。

黄金の果実の神格性は大陸共通の常識でもあるのだ。



「ふふっ、驚いた顔をしていますね。果実の真実がそんなに信じられませんか?それとも、それを理解できた私が恐ろしいのですか?」



そう言ってフィストリアはゆっくりと上昇する。


魔術の根幹を知った彼女。


その両手にはたった"一つ"の円環が構築される。



「黄金の果実に刻まれた魔術言語は一つだけ。それから、私はある一つの答えに辿り着きました。300年かけた私の魔術研究の傑作……」


「今は残っていない。魔術の始まり……それこそが———この魔術言語なのでしょう。魔術とは、王樹に与えられた恩恵の一つだと……推測します。」


「後から生まれた現代の魔術言語は一万近くあります。その中でも失われた始まりの言語。」


「これだけで全ての主要四元素魔術は事足ります。古代魔術とでも命名しましょうか。最初の試験者はあなたにしましょう。」



そう微笑んだフィストリアは閉じた目をゆっくりと開く。


「アンバラシアの血を引く者…アドラス。同じ血を引く者として、私はあなたの暴挙を見逃せません!」



次の瞬間、たった一つの円環の魔術が発動する。


現代魔術の数百重にも及びそうな威力の風魔術がアドラスを切り刻む。


「グッァァ」と声を上げているアドラスには傷が増えていく。




古代魔術は強力だが、その分種類が少ない。


炎、水、風、土、四つの主要な元素の魔術しかない。

空間魔術や浮遊魔術は近代の人間の研究の結晶なのだろう。そんな人の可能性を否定するつもりも毛頭もない。




「貴様ァァ、我に一度支配された分際で…!!」



フィストリアは再び古代魔術を組み立て、炎魔術を浴びせる。

アドラスも二度も同じ目には合わない。


素早く避けながら、フィストリアに近づく。


しかし、それすらも彼女の策略だった。



彼女の手の裏で構築された炎魔術は目の前で千切れそうだったアドラスの右腕をついに燃やし尽くした。


その炎魔術も青を戴いた爆発のように見えた。




今の彼女には、どうしてここまで強力な古代魔術が継承されなかったのか、分かっている。



これは、難解すぎるのだ。



算数を知らない者に数学は理解しにくいものだ。



それと同じように…だが、それでも理解しようとした者が古代魔術言語を簡略化していった。


そして、いつの間にか簡略化されたもので事足りるようになり、古代魔術自体が廃れていったのだろう。




「グハッ…我は完全なる者ぞ……まだ負けてなるものか……!!」



勝つことに絶対の自信があった奴にもようやく、負けという不安がよぎり出したようだ。


そう叫んだアドラスは高速かつ、魔術を避けながら再びフィストリアに接近する。


奴の狙いは変わらず黄金の果実らしい。



「させるかッッ!!」



急接近するアドラスをルーカスが正面から受ける。

ギリギリと剣が音を立てて、魔王の角や触手とぶつかり合う。



「退けッ小僧がッッッ!!!」



その瞬間アドラスが不意に全力を発揮して、アルカディアをルーカスの手から絡め取り地面に放り落とす。


剣は地面に突き刺さっている。


その勢いのままルーカスにトドメを刺そうと力を込める。


しかし、その巨体が一瞬の間に完全に拘束される。



「私から目を逸らしていましたね……アドラス。」



彼女が古代水魔術で奴を拘束していた。


その時ルーカスがアドラスに話しかける。



「小僧…か。お前は俺が誰なのか知らないみたいだな。」



「グラディア国王が何を言ウ……」



「アルカディア!」



浮遊石が一層強く光った。


その瞬間、己の黒剣が地面から抜け、回転しながら、ルーカスの手に戻る。



「お前は自分だけが時間を超えたと思っているようだから教えてやろう。」



「俺の名は、ルーカス・グラディア。……剣に飢えたグラディア家…その始まりの剣の王だ!!」



眼が燃えるように熱い。


青い光が、彼の瞳から溢れているように見える。


しかし、視界には何の異常もない。むしろ冴え渡っているくらいだ。



ルーカスは今、自分の思考が冴え渡るのを感じた。

かつて無い情報量に脳が破裂してしまいそうな錯覚を覚える。



ふいにアドラスを目視した時、彼は己の変質を感じた。




それは、人の身でありながら青を戴いた存在だからだろうか。




今のルーカスには拘束を解き放った奴の速度が異常に遅く見える。


奴の行動全てがゆっくりに見える。


自分の体もその速度に付いてこれている。


ルーカスはアルカディアを頭上に構える。




理想を思い描く。


多くの仲間が死んでいった戦争…そんなものが無ければ良かった———


しかし、今は悔やんではいられない———



この戦いに終止符を———




「人の理想のために散れッッ!!!!」




そうして、ルーカスは掲げていた己の願いの結晶を振り下ろした———





瞬間、辺りは青い光に包まれた———












 ◇   ◇   ◇












縦に切り裂かれたアドラスはゆっくりと音もなく落下していく。



地面に墜落した時、二人はアドラスの様子を見つめる。

奴は息はもう浅い。

ふいにフィストリアが果実に願う。



「この人の魂を修復してもらえませんか。」



果実はそれを叶えるように光り輝く。



その問いから、ルーカスも彼女がしたいことが理解できた。



彼の魂にも欠落があったと考えたのだろう。



アドラスと同じ血を引く者として話したいのか、後悔を引き出すためか。



光が収まった頃、フィストリアはアドラスに話しかける。



「アドラス…あなたは自分がしたことの重大さを理解できていますか?」



八つの目を瞬かせながらゆっくりとした口調で答える。



「我も……衰えたものだな。」



その答えは暗喩的な肯定とも取れる言葉だった。



「全ては危険因子を捕捉するために扱っていた()も…今は無く……我は凡愚へと成り下がった……」



「かつて抱いた願いは今の我に受け継がれず…歪曲し、くだらん争いの源となった……」



今のアドラスは真の魔王として暴れていた先ほどと違い、落ち着いた口調で自分をそう名状した。


それは、後悔…なのだろうか。


その目はルーカスを捉える。



「我に勝ったのだ。正真正銘の王として"貴殿に"全てを任せよう……我の大量の眼に映る光……王樹に向かうのだ。忠告をしておこう。あれは…ただの大木ではない…」



その言葉の意図について詳しく聞きたかったが、アドラスに残された時間ももう少ない。

彼の言葉を静かに聞き届けた。



「さぁ……愚かな我に、終わりを与えてくれまいか……人の身を超えて、青き光を身体に灯す、"特異点たち"よ……」



「———お前は、一体何に執着したんだ。」



ルーカスの問いにアドラスは彼の隣に並ぶフィストリアを一瞥し、目を閉じる。


彼が死に際、感じたのは"彼女を追いかけた自分は愚かだったと"ただそれだけだった。


もとより先客が居たようだ……


完全性への執着というのも、その実建前で、フィストリアへの執着と言った方が良いだろうか。



奇しくも二人の執着する対象は根底で同じだった。


だが、そんなことを彼に伝えるのは無粋だ。必要もない。



愚かな我は彼に秘密を残そう———







「フッ…それは…どうであろうな……」







それだけを言い残した———




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