魔王
支配魔術というのは良いものだ。
余に人々から裏切られることのない平穏を与えてくれる。
余の祖先は旧帝国の皇族であった。
奴らは愚かにも歪んだ上層部で自分たちの権力を保持するために裏切られ、そして裏切り続けた。
その結果が旧帝国の滅亡だ。
嘆かわしいことだ。
その過去より"裏切り"は余の一族が根底から恐れるものだ。
そのため、我らは人々を、臣下を、魔族を、支配する。
余は帝国において完全な存在であった。
誰も余を揺るがすことはできない。
そう信じていた。
それを揺るがす存在が現れたあの日までは……
白き髪、青き瞳の女———
奴は余の支配をも逃れた。
今までそんな存在は居なかった。
ある日、不意に思い出した。
旧帝国の不老不死の女の話を……
奴も似た容貌をしていたのでは無かったか?
奴の話は余の血筋にしか残っていない。
旧帝国からの血筋である、余の血にしか……
余は奴に完全性を見た。
その魔術の腕、その容貌、その力———
完全性とは余が心から願っていたことだった。
奴を手に入れるためになら余は全てを賭けて見せよう。
それこそ、この大陸、この帝国ですらも———
◇ ◇ ◇
「ククク…全て、覚えているぞ。」
◇ ◇ ◇
余は生まれながらの皇帝である。
———余は魔術で父親を排した。
今の時代の王は果実の成熟まで近いにも関わらず、随分と腑抜けているようだ。
旧帝国の血筋とはとても思えない。
すでに余は皇帝として統治にあたっている。
全ては余の掌の上だ。
余は懐かしい冠を用いて、帝城中の上層部を完全に支配した。やはりそうだ。この冠に抗える者など存在しない。
余は齢六つにして皇帝として君臨した。
一度帝国を統べた余の知見に及ぶ存在はこの時代、あの女しか存在しない。
支配の手を再び帝国中に伸ばす日も近い。
大陸の争いのために、余は国民の人口を増やすことを目指した。
果実が実るまで、22年だ。まだまだ間に合う。
この時代には余以上に支配魔術を極めた者は存在しない。
思わぬところで果実も手に入りそうだ。
余は願う。
『己を誰も否定できない完全な存在に仕立て上げること』
そのためにはあの女の力が必要か。
奴に支配を掛けた時、完全な支配まではならなかったが、"記憶に混濁"を覚えさせることが出来た。
不老不死というのが本当であればぼんやりとした記憶のまま、今もフラフラと生き続けているのだろう。
次こそ完全に支配してくれる。あの女の力は大陸においても脅威だ。
◇ ◇ ◇
それから数年が経ち、ある日、支配した魔族の長老が興味深い話をしていた。
魔族や魔獣の祖は魔術の力と融合した人間や獣だったのではないか。
そんな仮説だ。
確かに魔族と人間はあまりにも酷似した見た目をしている。
此奴らの傲慢さは世代交代によって力を持って生まれることが当たり前となったからなのか?
———融合、か。
思えば、支配魔術も魔術の力を浸透させ、操っているのだ。
それも擬似的な融合ではないか。
ともなれば人工的にも魔族を生み出すことも可能なのではないか。
余は研究を重ねることにした。
成功の暁には数体の幹部を造り、魔族を統べさせるのも良いやもしれん。
◇ ◇ ◇
———余は成功した。




