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ルーカス




"遠く未来より"。


"戦友"を亡くした心を癒してくれたのは、君との"邂逅"だった。君の存在は俺にとって"救済"となり、やがて君と"信頼"を深めていった。


今、"猛焔"のような君への想いは、"闘争"を経ても、"永年"を越えようと鎮まらない。


俺の存在が"異質"だとしても、この時代で"戴冠"した者として、"新たなる戦い"に身を投じ、過去と"対峙"し、"戦乱"の世を生き抜こう。


魂を"炎影"に沈める者として。



 ◇   ◇   ◇



イザークは夜の闇を切り裂くように南本陣へ駆け込んできた。



月光に甲冑が鈍くきらめき、その瞳は疑念を確信に変えた狂気を帯びている。



ルーカスとフレオンは、丘の上で間者の襲来に備えていた。



突然現れたイザークの姿を見てフレオンは驚く。



ざわめく夜風が草を震わせ、遠く東方の山並みに霧が漂う。



二人は互いに目配せし、沈黙のうちに抜剣した。



「斬るしかないのか……」フレオンの声が低く響き、ルーカスは静かに頷いた。



二人は間合いを詰め、イザークを迎え撃つ体勢をとる。



肌を刺すような冷気が頬を撫で、夜の静寂がいよいよ張り詰めていく。





イザークは剣を構えると一歩踏み込み、鋭い横薙ぎを放った。



刃が夜風を切り裂き、草木に鋼の音を刻む。



フレオンは咄嗟に反応し、その剣先を弾き返す。



だが、経験豊かなイザークはすぐに刃筋を変え、剣の峰を打ち込んでフレオンの剣を弾く。




重苦しい金属音が響き渡り、月光が両者の息遣いを照らし出す。



「さすがは西最強の元帥……」



フレオンは技量で勝るイザークを見つめた。



イザークはすでに間合いを詰め、豪快な突きを繰り出す。



フレオンはかろうじて体を捻り、突きをかわすが、盾をかざした腕が震え、牙を剥いた痛みが走った。



暗い瞳に浮かぶ迷いはなく、ただ純粋な闘争本能に貫かれている。



ルーカスは一瞬の隙を見逃さず、疾風の如く駆け出す。



剣身を高く振り上げ、イザークの腕を狙った。



だが、イザークは長い戦場の経験で培った直感で受け流し、ルーカスを剣の柄尻で強く打ち据えた。



イザークはアルカディアを持つルーカスと真っ向から打ち合うことはしなかった。


アルカディアのことを少なからず知っているのだろう。


ルーカスの体が一瞬宙を舞い、泥と草を飛び散らしながら離される。



その衝撃音が夜の静寂をさらに深く刻み込んだ。




それでもルーカスはすぐに駆け、冷たい月夜の下で黒い瞳が蒼く煌めく。



「俺を侮るな!」



彼は剣を水平に構え、イザークへ連続の斬撃を繰り出す。



西風とともに鋭い刃が回転し、夜空へ火花を散らす。



イザークは剣を交えながらも、余裕の笑みを浮かべた。



その笑みは若き男が放つものなどではなく、戦慄すら覚える古の猛将のものだった。




フレオンが体勢を整え、再び戦列に加わる。



闇に紛れるようにして剣鞘から鋼を抜いた。



二人対一、数では勝っていても、今の二人、経験値ではイザークが圧倒的に上回っていた。



ルーカスはイザークについていけてもフレオンは遅れ気味であった。



イザークはまだ経験不足なフレオンの一瞬の構えの乱れを見逃さず、刃を叩きつけて剣を弾き飛ばす。



その刹那、ルーカスも同時にイザークの脇を狙ったが、イザークは一歩後退して刃を振り払い、ルーカスの胴に向かって蹴りを入れる。




ルーカスはそれを避けるために大きく引いた。




イザークは二人の連携を切り裂いた。




この好機を逃す男ではない。




闘気が夜風に揺れ、草原には鋭く響く金属音だけが残されている。




ルーカスとフレオンはイザークを殺さないように戦っている。




たがイザークはそうではない。




エル・メディスに害なす者と認識した南派閥の強者はこの場で亡き者にしようとしていた。




イザークは剣を弾き飛ばしたフレオンを標的にする。




ルーカスは大きく間を取ってしまったせいでイザークと少し離れている。





イザークは剣を上げて金髪の男フレオンに振り下ろそうとする。




ルーカスはその様子を見た———





男の、戦友の殺されそうな瞬間———





ルーカスは今までで最も酷く頭が痛む———





それでも彼を守るために駆ける———





右手にはアルカディアがある。





剣を突き出す。





元帥の剣を逸らすために———





アルカディアに剣が当たる。





その剣は———







"決して折れない剣だ"








———不思議と声が出る。





「このアルカディアは折れることはないッ!」





ルーカスはこの時強い既視感を感じた。




なぜか口から出たのはこの言葉だった。




アルカディアは折れることのない剣だ。




それは知っているのに、何故か———剣が折れることに恐怖した。




あまりの頭痛に倒れ込みそうになる。




フレオンが立ち上がり、剣が折れて体勢を崩したイザークを取り押さえる。




ルーカスはイザークが捕えられたの確認して、頭痛に耐える。




イザークの剣がアルカディアに当たった瞬間、冷たい振動が掌から背筋へと走った。




それはただの打撃ではない———



鉄と血と古い土の匂い。



折れた刃の音。



誰かの声。



燃えさかる焔の圧。




断片が矢継ぎ早に溢れ、ルーカスの頭の中は一気に満たされた。




グラヴィティアに切り裂かれた肩のあの刺し傷が疼く。



いつかも同じ傷を受けた覚えがある。





胸の奥で、いつも側にいたはずの金獅子が叫ぶ———






「レ…オ……」






ルーカスの脳裏には膨大な量の経験が回帰していた。






「……俺はあの時からルーカスだった———」









 ◇  ◇  ◇









僕たちは表裏一体———





俺はレオだ。




そして———




レオは俺だった。









 ◇  ◇  ◇








男———ルーカスが最初の戦場であった男、レオ。






あいつとは戦場でしか会えなかった。






これが最初の違和感だったのだ。






軍が召集された時も、他の誰もレオを知っている人はいなかった。






会えるのは戦場でだけ。






今のルーカスなら分かる。






前世の自分を俯瞰して見れる今のルーカスなら……










———レオはルーカスの異なる一面だった。









最初の戦場で会ったはルーカスが初めての戦場で強い負担がかかり、当時から強力な剣士で、孤高であった自身と似た境遇の人間という一面を生み出したから……





戦場でしか会えないというのも同じ理由だ。





無意識下ではレオなんて存在は居ないと分かっていながらルーカスはそれを人生最後の時まで直視できなかった。





ルーカスとレオは文字通り表裏一体だった。





剣術の腕前が同じ程度だったのもルーカスの肩にレオが受けた傷と同じ形の傷が残っていたことも…





それは全てルーカスとレオが同一人物だということを示していた。





思えば、皇帝はルーカスを称賛したが、常に共にいたレオのことは話していなかった。






本に残っていたのは戦場が終わってからのルーカスの様子が戦友を亡くした人間に酷似していたから。






脚色も混ぜられていたのだろう。






レオが死んだ時から、ルーカス視点ではおかしかったのだ。





レオは敵将軍に斬りつけられた。





その時に剣が折れた。





剣が折れて攻撃を受けたレオ。





戻って来たルーカスはその場で将軍の首を飛ばした。





ルーカスの手が空を切ったのも———





同じ傷跡を持っていたのも———





ルーカスは言葉が漏れる。





「レオ……俺はずっと、お前と居たのか……」





全てわかった。






全て理解した。






フィストリアと出逢うことで満たされたその席にかつて誰が座っていたのか。






レオという男自身の存在。






そして、ルーカスという男自身の存在。





たまにフィストリアが見せる哀惜の瞳に誰が映っていたのか。





全て分かった。





彼女はいつの間にか気づいていたのだ。





俺が最初のグラディア公爵家当主———





俺がただの、ルーカス・グラディアという男だったいうことに———





初代グラディア公爵家当主の名は今や伝わっていない。





ただ残っているのはアルカディアを望んだ大陸最強の剣士であったこと。





それでも300年を見てきたフィストリアなら記憶の片隅に残っていたのだろう。






300年前に君を愛した男の名を———






男は———ルーカスは思わず笑いが込み上げる……





認識の外にいるフレオンやイザークのことなど今は蚊帳の外だ。どんなふうに思われていても構わない。





ただただ笑いが込み上げる。





柄にもなく涙が溢れ出る。





「くははッ、はーはッはッは!」





「俺は帰って来たぞ!」





ルーカスは手を空に伸ばす。





「300年の時を超え、俺は再び!君の元に来ていた!」





涙が溢れ出る。





「君を……見つけて、いた……」





自分の魔術によって彼女を追いかけたこと。





彼女が長い時間の中で記憶が薄れたとしても…





……俺が彼女を見つける。





ルーカスはただただ願ったことを成し遂げたことが嬉しかった。





フィストリアも初めから全てを覚えていたのかは分からない。





それでも彼女は、フィストリアは300年待っていてくれたのだ。





そしてフィストリアを俺自身が見つけれた。





「よかった……今はただ…うれしい…」





彼女を1人孤独にすることはなかった。





今なら俺は果実にだって手が届く。





それは俺の理想———





彼女と共に生きる………







「ああ、フィストリア………俺は………」








ああ、全てを思い出した。







「俺は、あの時から……」






いや、俺が今の俺となってからも…






前世から……






今世でも……







『「俺はただ……君を……君だけを……フィストリアだけを………」』














「………愛していたんだ」














 ◇  ◇  ◇





『この苦しみはどう振り払えばいい?』


戦友を失った苦しみを———



『願った理想はそんなに儚いものだったのか?』


彼の理想は儚く消えた———



『その光はある日突然目の前に現れた』


悲哀の渦中でも彼女に出逢った———



『その側に立てるなら他に何も要らなかった』


そう思えるほどだった———



『だからこそ自分は次に賭けそれを願う』


彼女と共に生きるために———





 ◇   ◇   ◇





ルーカスはフィストリアのことだけを想って生きていた。




大陸のためという自身の中で燃える炎、その裏には彼女のためなら何でも捨てられるという影が隠れていた。




イザークよりルーカスの方がよほど、身を炎影に沈める者なのだ。




彼女への想い。それは彼女に出逢ってから前世も今世も同じだ。





今はただただフィストリアに会いたい。




会って抱きしめたい……





ルーカスは記憶が戻ってぼんやりとした意識をはっきりさせていく……







 ◇  ◇  ◇








フレオンによるとルーカスが呆けていたのはほんの10秒程度だったらしい。




「———イザーク元帥。お前は取り敢えず拘束してベリタス王太子に引き渡す。処遇は本国に戻ってからだ。」




ルーカスはしっかりと縄をした元帥をフレオンに連れて行かせる。




ルーカスは世界で最も愛おしい人を想う。




間者を捕まえるために飛び回っている彼女を。




ふいに気配がする。




ルーカスは顔が綻ぶ。





現れたのはルーカスが前世も今世も愛してやまない女だった。





「ルーカス。間者は捕らえて結界の中に閉じ込めてきました。」




美しい声音が言葉を紡ぐ。




ルーカスはフィストリアに告げる。





「フィストリア。俺、全部思い出したんだ。」





ルーカスのその言葉をフィストリアはすぐに理解したようで目を見開く。




「ルーカス…本当…ですか…?」




目をぱちぱちさせるフィストリアにルーカスは恭しい態度で言葉を紡いで見せる。




左足を一歩引いて丁寧な礼をする。




それはいつぞやの礼だ。




「フィストリア様、(わたくし)はグラディア公爵家当主ルーカスでございます。」




ルーカスは彼女と初めて会話した時の台詞を言う。


その時とは立場も逆だった。


その時とは互いの感情も異なる。



フィストリアもこの言葉を憶えていたのか驚愕の表情を浮かべる。




「そして、俺はグラディア王国国王ルーカスでもある。」




それを聞いてフィストリアはルーカスに飛びつく。




「ルーカス!ようやく全部思い出したんですか!」




ルーカスはフィストリアを抱きしめ、答える。




「ああ、随分と待たせたな。でも、確かに戻ってきたぞ。」




フィストリアはルーカスの目を見る。




彼女の双眸には涙が溜まっていた。




「もう…遅いですよ。……でも、大丈夫です。」




彼女は続ける。




「ルーカス、私の愛しい人……おかえりなさい!」





彼女は満面の笑みを浮かべている。





2人はしばらくの間ただただ抱きしめ合っていた。







フィストリアの名前回からしばらく空きまして、ようやくルーカスの名前回ですね。

彼の弱さと強さ、そしてフィストリアへの執着…

しっかり分かっていただけたのではないでしょうか?


続きを読みたい! と思って頂けましたら、

是非下のボタンから評価をしていただけますと幸いです……!



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