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幕間 : 金の獅子






男は人生を戦いに捧げて来た。




男は剣士として生きて来た。




男は戦場で死ぬのだと思っていた。




しかし男は生き残ってしまった。




黄金の果実とやらを求めて争う人々。




男は帝国に仕え、戦争で人々を切り続けた。




その中で得たものはあまりに少ない。




むしろ失ったものの方が———多いくらいだった。




黒髪の男はちょうど数ヶ月前のことを思い起こしていた。






 ◇  ◇  ◇





黒髪の男には戦友がいた。




その戦友は黒髪の男が最初の戦いで出会った男だった。




その男はほかの誰も知らない、何故か自分しか知らない存在だった。




不思議と戦場でしか会えない男。




その男は自分に付いてくるほど剣の才能に溢れていた。




奴の名前はレオ。




男よりも意志が強い、金色の獅子のような男だった。




男はそんなレオに身を委ねていた。




あいつが逝ったのは帝国が最後の戦争と称した戦いだった。




果実を求める戦い……




最後の戦いは帝国対西の強国だった。




男たちは再び戦場で出会った。




男とレオは最後まで共に戦っていた。




最後の最後、男たちは西の強国最強と謳われた将軍と対峙した。




「残りの将軍はお前だけだ。」




男は将軍に言い放つ。




「くくく、まだ、我らが王は生きている。それならば諦めることなどできるわけが無かろう…」




将軍の言うようにこの将軍がここで2人を足止めしている間に王は逃げている。




「貴様をここで足止めする…それが我の最後の戦いよ!」




「それなら、僕たちはお前を倒して先に進むだけだ!」




レオが叫ぶ。




こうして男と将軍の戦いが始まった。




戦いは終始、男が優勢だった。




西最強と謳われた将軍でもこの男の剣術には敵わなかった。




その剣術の腕前は真に大陸最強であった。




しかし、経験で上回っている将軍は男が見せた一瞬の隙を逃さず剣を叩き込んだ。




レオは剣を弾かれ「くっ…」と声を上げる。




その隙を逃さず将軍はレオに剣を振り下ろす。




レオは下から剣を振り上げる。




男はその様子を自分のことでありながら自分のことでないように見えていた。




レオの……男の剣は長い戦いで疲労が溜まっていた。




将軍の剣の軌道をずらすことは出来ず、折れてしまった。




そして将軍の剣はレオの肩から胴体を切り裂いた。




ふいに戻った男の折れた剣の鋭い断片が将軍の喉元を抉り、血の糸が空へ散った。




レオに声をかける。




男にレオは答える。




「ふふ…僕もヘマしちゃったね……守れなかったことを、気に病んだらいけないよ…元から僕たちは2人で1人なんだ。それでも、君が僕を忘れる頃には……君は剣士として最優の座に君臨することになる。確信しているよ。」




男は涙を流しながら答える。




「忘れるものか…俺はお前と戦場を生きて来た時間の方が長いんだ。剣が、折れなければ、お前は……俺が剣を途中で変えていれば、お前は…」




男は後悔してもしきれない感情が溢れ出す。




「君はだめだめだね……1人じゃなにも出来ないのかい?……僕たちは表裏一体……1人の君だといずれ限界が来てしまう………そうだね……それなら愛する人を見つけなよ……一生を自分の隣で…生きてくれる……そう、誓ってくれる人を……」




男はレオの忠言に耳を傾ける。




もう彼が話せる時間も少ない。




「君を1人にしてくれないほど愛してくれる人を見つけなよ…それはきっと……僕がいなくなることで孤高の最強となる君の心を……温めてくれる……」




「いなくなるなんて言うなよ。まだ、間に合うかもしれないだろ。」




「ふふ、自分のことは自分が一番よくわかるものだよ。……さよならだ。」




そう言ってレオの意識は暗雲に沈む。




男は手を伸ばす。




しかし、その手は空を切った。




こうして男は1人になってしまった。




その後のことはよく覚えていない。




感情のままに周囲の敵兵を薙ぎ払っていた。




男の肩から胴にかけてはレオと"同じ傷跡"が残っていた。




———そして戦争はいつのまにか終わっていた。





 ◇  ◇  ◇





帝国は西の強国を倒したことで大陸唯一の国となった。




男の傷は治るまでに2ヶ月を費やした。




男はその後、戦場でのこれまでの功績から爵位が与えられることになった。




男は大陸最強の名をほしいままにした。




しかし、男は喜ぶことはできなかった。




この称号はレオと共に得たかったものなのだ。




男には皇女が降嫁されるらしい、皇女は選ばれている途中らしいが、それに伴って男は公爵家当主となった。




しかし、男は喜ぶことはできなかった。




全てを忘れるためにいつものように剣を振るう。




それでもレオとの思い出は剣を振っている時の方が思い起こされた。




『この苦しみはどう振り払えばいい?』




男は問いかける。




その言葉に応えてくれる者はもういないにも関わらず。




———今の彼は"折れた剣"そのものであった。





 ◇  ◇  ◇





そんな日が続いたある日。




男は皇帝から呼び出された。




皇帝の目の前には黄金に輝く果実があった。




皇帝が言う。




「其方の力が無ければこの帝国が大陸唯一の国家にはなれなかったやも知れぬ。それほどまでに其方の力は強大だ。其方の功績をワシからも讃えよう。よくやった。…そして、其方に報酬を与えようと思う。」




皇帝が男から目の前の果実に目を向ける。




「その果実がかの『黄金の果実』だ。其方の願いを一つ叶えさせようではないか。」




男は考える。




男が欲しかったのは大切な人を失わずに済んだ未来だった。




それでも、レオを生き返らせることは出来ない。




"『願った理想はそんなに儚いものだったのか?』"




己の声が脳内で反発する。




己が望んだ理想は潰えてしまった。




それならば……




俺は、あの時の後悔を……




———払拭しよう。




男は奥歯を噛み締め、涙が溢れる。




"男は其れに願う"———




『「俺はこれ以上何も失いたくない……俺は絶対に折れない剣を……これからの辛い運命をも断ち切り、自分の大切な人を守り、自分の理想郷を得るための剣が欲しい!」』




男は叫ぶ。




ただそれだけが願いであった。




大切な人を守るための剣。




自分が成せなかった大切を守るための剣。




万物を断ち切る、自身に待ち受ける困難さえ断ち切る剣。




男の成せなかった理想を手繰り寄せるための剣。




戦場に生きる男はただそれだけを願った。




"己の不運と運命さえも断ち切る剣を"




ただただ"折れない剣"を———




男の目の前にある果実は男の願いを聞き入れたのか黄金の光をさらに煌めかせる。




余りの眩さにその場にいた者たちが目を閉じる。




次に目を開いたとき男の目の前には美しい長剣があった。




黒い持ち手と剣身、鍔は金色、鞘も同じような色合いだった。




男は涙を流しながらその長剣を手に取る。




男は不思議とその剣が手に馴染むように感じた。




皇帝は男の様子に満足そうに頷いた。




こうして最優の男は万物を切り裂き、"理想郷"を冠する黒剣アルカディアを手にした。





 ◇  ◇  ◇





次に男の人生が大きく変わるのはそれから1年後のことだった。





 ◇  ◇  ◇





男は戦闘がなくなっても癖でアルカディアを帯びて街に出ていた。




帝都には高い時計塔があった。




人のいないその塔は男が不安を覚えた時に上る所だった。




レオを失ってからは頻度が増えていた。




高い所から人々を見て、それらを守っているという実感を得ていた。




この日も男はその塔に向かう。




それがそれからの男の人生を大きく変える選択だった。




塔の頂上には先客がいた。




上りきり、顔を上げたとき、目の前にはある女がいた。




白銀の髪と深い青の瞳、そして整った容貌、男の目の前で風景を眺めていた女は絶世の美女と呼ぶのに足る人物だった。




男は一瞬で見惚れていたことに気づく。




女の方は遠くを見ていたようで男の視線に気づかなかったのは幸いだった。




男はレオの言葉を思い出す。




愛する人をつくれと言うレオの言葉。




男は彼女に魅入られている自分に気づく。




しかし、自分から声を掛けることはなかった。




一時、男はその選択を後悔する。




その後たびたび塔を上ったが、その女と出会うことはなかった。





 ◇  ◇  ◇





次に彼女に会ったのは男が帝城を訪れていたときだった。




皇帝が言っていた皇女を男に嫁がせるということ。




皇帝は皇女に伝える前に男を呼んで相性を確かめたかったようだ。




男はずいぶんと愛された皇女がいたものだと思いながら皇女が居るという部屋に向かっていた。




結婚と言っても男にはいまいちピンとこなかった。




男が今でも考えていたのは時計塔で見かけた女のことだった。




 ◇   ◇   ◇




男が部屋に入ったとき、男はその場に立ち尽くしてしまった。




『その光はある日突然目の前に現れた』




部屋の中にいたのはあの日時計塔で見かけた女であった。




部屋の中の女は男を視界に入れると口を開いた。




「父様から人が来ると聞いていましたが、あなたでしょうか?」




男は女の言葉に口を開く。




「ああ、はい。おそらく私のことでしょう。」




男は女に返答する。




「あなたの名前を教えてください。私はフィストリアです。」




美しい声音で女はフィストリアと名乗った。




男も自分の名を言う。




「フィストリア様、私はグラディア公爵家当主"ルーカス"でございます。」




「今日人が来ることは知っていたんですが、どうしてか知らないのです。あなたは知っていますか?」




その美しい顔を傾げて男に尋ねる。ルーカスはフィストリアの質問に答える。




「いや、私は知りませんね。皇帝陛下には陛下なりの考えがあるのでしょうが…」




ルーカスはしらを切った。皇帝の意思を汲んだためだ。




「まあ、良いです。あなたはそこで好きなことをしていてください。私は魔術の勉強をしていますから。」




そう言って彼女は本に集中してしまった。




ルーカスはそんな彼女を眺める。自分の視線に気づかないほど集中している彼女はただただ美しかった。




日が傾いてきた頃、フィストリアはようやく本から目を上げて男を見た。




「えっ、あなた何もしていなかったんですか?」




フィストリアの言葉には驚きが含まれていた。




実際ルーカスは彼女をただ眺めるだけで楽しかったのだ。




"彼は変化を求めてその白き彼女を目で追う。"

"ただ悲哀を拭い得る者を希って。"




ルーカスはふいに感情が溢れる。




レオが言っていたからではない。




自分がフィストリアがいいと思ったのだ。




ルーカスはフィストリアの目を見て口を開く。






「フィストリア様、愛しています。」








と、ここまでが2章となります!

かつてのルーカスの記憶…それを今のルーカスはいつ思い出すのか…


続きを読みたい! と思って頂けましたら、

是非下のボタンから評価をしていただけますと幸いです……!



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