永年
『その光はある日突然目の前に現れた』
その者は変化を求めて白を追う。
ただ悲哀を拭い得る者を希って。
◇ ◇ ◇
ルーカスは王都での凱旋を終え、国王の居室で父王と話していた。
「ルーカス———よくやった。」
国王の短い賛辞が室内に響く。
「お前ならば、無事帰ってくると思っていたぞ。今回は怪我もないようだな。」
堅苦しい挨拶はすでに済ませている。ルーカスは砕けた口調で王と話す。
「今回の戦には魔族がいなかった。関係していないと断言は出来ない。それでも戦場に魔族は居なかったおかげで五体満足で帰ってくることができた。」
国王はふいに、ルーカスの眼を見て満足そうに話す。
「うむ、お前も王としての責をよく理解してきたようだな。これで儂も安心して王位を退けれるという訳だ。」
出立する前に父王は今回の戦いでルーカスに王として、指揮官として、その器を示してみせろと言っていた。
そして、無事帰ってきたら王位を継いでもらうとも。
そんなことを思い出しながらルーカスは応える。
「王位を継ぐことは構わないが先に戦争の後片付けをしたいと思う。アルカノスの女王の件も浮遊した城のことも、まだまだ残していることが多い。」
「ああ、構わん。お前の好きなようにするといい。一先ずお前は先に休息に入れ。」
ルーカスは国王の言葉に頷き居室を後にした。
◇ ◇ ◇
凱旋の翌日早朝、フィストリアがルーカスの元を訪れて来た。
「ルーカス!終わりましたよ!」
そう笑顔でルーカスの元に現れたフィストリアをルーカスは抱きしめる。
「フィストリア!会いたかったぞ。」
その再会までのもどかしさは2人に永い時間のように感じさせていた。
ずっと会いたかった愛おしい人をひとしきり抱きしめるとルーカスは椅子に座り、フィストリアを自身の膝の上に乗せ話を聞く。
フィストリアはルーカスの行動に恥じらいながら話出す。
「なんとか、遺物の制御を取り戻すことができました。城をアルカノスに持っていって戻すかどうかアメリア女王に聞いたところ、可能ならして欲しいとのことです。ルーカスも見に行きますか?」
ルーカスはすぐに首肯をした。
フィストリアは「そう言うと思ってました。」とルーカスを連れて城に転移した。
◇ ◇ ◇
2人は『天絡の浮遊石』の前に来ていた。遺物の様子は以前と異なり、光もすこし収まったように見える。
そして、アメリア女王もその場には居た。
アメリアはルーカスを見据えると口を開く。
「申し訳ない。ワタシの愚兄の討伐までさせてしまったようだな。お主への恩も尽きないな。」
そういうアメリアは抑えることのできなかった兄や軍部の者のことを考えているようだった。
ルーカスは「いや、構わない。」とだけ返してフィストリアの方に向き直る。
フィストリアは今、遺物を制御してアルカノスの方に向かっているらしい。
ほとんど読めない魔術言語から制御に関わっている文節を読み取り解読したその手捌きは彼女の魔術師としての技能の高さによるものだろう。
本当に一ヶ月で制御を取り戻してしまった彼女は浮遊石の魔術言語から学ぶこともあったと言っていた。
「この言語はとっても古いものなんだと思います。」
魔術言語は現在1万を超すと言われているが、そんな言語には全て元となった言語があるとフィストリアは推測しているらしい。
古いものほど所謂、魔術言語の祖に近くそれだけ力も強大になる。
そう考えると、今残っているのは火力よりも簡単さや扱いやすさに重きを置いたものがほとんどなのだろう。
「過去の記録や歴史がほとんど残っていないのも昔の方が争いが激しかったから……」
彼女はそう結論づけていた。
フィストリアの様子を見て、もう少し掛かりそうと気づいたアメリアは遺物の処置について話し出す。
「そうだ、その遺物は同盟の印としてお主たちにくれてやっても構わない。ルーカス殿、アルカディアを使いこなす貴殿ならうまく使えるのではないか?」
アメリアの突然の言葉にルーカスはいくらかの驚きを覚えた。しかし、思えばグラディアに降るという提案を蹴っているのだ。
価値のある遺物を譲ることでグラディア側にも得があるようにしているのだ。
女王の意図に気づいたルーカスは「ああ、それならば、ありがたく頂戴しよう。」と返した。
◇ ◇ ◇
それから3人で会合代わりの雑談をしていた。
その中でも興味深かったのはアメリア女王の身体は数年前の魔術の暴発で成長がゆっくりになっているという事実だ。
とは言え女王自身、若い身体に満足しているようで寿命も精々常人の2倍程度と診断されたことで不満にも思っていないようだ。
その話には似た境遇のフィストリアも興味を示し、当時の魔術構築を教えてもらっていた。
そんな話をしているうちにアルカノス首都の上空に到着した。
◇ ◇ ◇
「フィストリア妃殿下から遺物の制御を取り戻したと聞いた時に王城があった地点周辺の人払いは済ませてある。多少手荒になっても構わないぞ。」
フィストリアは細微な調整をしながらアメリアに答える。
「安心してください、アメリア様。城の方の損傷は少なかったのでほとんど元通りにできると思いますよ。」
アメリアはそれを嬉しそうに頷く。
「ふふ、そうか。それは嬉しい知らせだ。フィストリア妃殿下、城は頼んだぞ。」
その言葉にフィストリアは頷き、最後の調整をし、城を下ろす。
微弱な揺れが城を包む。
アルカノスの国民もこの不思議な様子を遠くから見つめていた。
空気が低く唸り、城の縁からほのかな振動が筋になって地上へ伝わる。
石と鉄がきしむ匂い、落ちる土の匂い、人々の息遣いがいっせいに変わる。
フィストリアは額に汗をにじませながらも、ゆっくりと、音を立てずに、だが確かに着地した。
そうして、城は彼女の言葉通り元の場所に収まった。
アメリア女王はグラディアへの恩を国の上層部に伝えて、同盟に支障が出ないように立ち回る。
その後もフィストリアはすこし忙しそうにしていた。
いくら元の場所に戻せても地盤の歪みなどがあるからだ。
フィストリアとアルカノスの魔術師は魔術で地盤を固めて回った。これのおかげで城が傾いたり崩れたりする心配が無くなるのだ。
最後にアメリア女王は停止した浮遊石をルーカスに手渡し2人はグラディアに転移した。
◇ ◇ ◇
全てを終えた2人がようやく自分たちの国に帰ることができたの夜も遅い時間であった。
転移で戻ってきたフィストリアはすぐそばの寝台に座り込む。
ルーカスもその隣に腰を下ろす。
2人はルーカスの居室の寝台に座っていた。
今日ばかりはフィストリアも疲れを隠していなかった。
ルーカスはそんな様子の彼女を労わっていた。
「フィストリア、ずっと解析続きで疲れただろう。しばらくゆっくりと休息をとってくれ、お前にこれ以上心労を溜めてほしくない。」
いくら彼女が修復される肉体を持っているとしても度重なる苦労は精神的に重荷になる。
「ええ、もちろん。そうする予定ですよ。」
彼女も今回こそはゆったりとした休養に入れることを嬉しく思っていた。
ようやく南西の小国の件が一段落したことで2人はゆっくりとした休養に入ることができる。
ルーカスは即位と戴冠が控えていることもあってしばらく忙しい日々を過ごすことになるかもしれないが、それでも戦争よりは気が楽である。
ふいに、フィストリアはルーカスにしなだれかかる
「ねぇ、ルーカス。私とっても淋しかったんです。あなたが側に居ないことが前よりも辛く感じてしまうようになってしまいました。」
「今夜はそばに居てくれませんか?…私の抱き枕になっててください。」
フィストリアからの愛らしい要求をルーカスは承諾し2人は寝台に倒れ込む。
ルーカスは恥じらう彼女を愛おしく思いながら目を閉じた。




