邂逅
2人は昨日案内された応接室に再び来ていた。
「エリアスの婚約者であるシャーロット女王候補は今はもう引き継ぎの段階で、戴冠ももう近いらしい。」
「…それは、結構忙しい時期に来ちゃいましたかね。」
という会話をしていると2人の男女が入ってきた。
男の方は知っている、エリアスだ。
女の方はルーカスもフィストリアも初めて会う人物だった。
肩までの比較的短い金色の髪、瞳は相手を呑み込むような深いみどり色だ。
女はカーテシーをしてから口を開いた。
「ごきげんよう、お二方。わたくしはシャーロット、このフラクタル王国の第一王女でございますわ。」
彼女の挨拶の後ルーカスたち2人も軽く挨拶をして、世間話をする。
主な内容は、引き継ぎの件やエリアスとの結婚の予定の話、プライオとの戦争の話、そして、北東の小国の話。
北東の小国はもはや実質的な北の大国の属国となっていることは南や東では常識である。
北の大国が東の大国との間に緩衝となる国を作りたいという理由で残っているだけの国なのだ。
「それで、北東の小国に何かあったのか?」
ルーカスの質問にシャーロットが答える。
「そうですわね、なんでも魔族を大陸中に放っているという話ですわ。それが、北の大国からの指示なのかは未だ調査中ですけれど…」
エリアスがここで口を挟む。
「そう言えば兄さん、プライオとの戦争でも魔族が糸を引いていたんだったよね?何か国のことを言っていなかった?」
ルーカスはエリアスの言葉で戦った魔族グラヴィティアの事を思い出す。
死闘を繰り広げた相手が何を言っていたか。
奴は確か———
「あの魔族は魔王に仕える4柱の1柱と言っていたな。俺もろとも自爆しようとした時に、あいつはその魔王とやらへの忠義を叫んでいたと思う。」
その言葉にフィストリアは顔を顰める。それに気づいたルーカスが「何か知っているのか?」と聞くと彼女は答えた。
「魔王って、200年くらい前に北の大国に生まれた暴君の名称ですよ。その時大陸にいた9割以上の魔族を国宝で支配していたと思います。確かあれはそれを成し遂げたのが高齢だったので寿命だか、病だかで死んだと聞きましたが。」
そう言う彼女の知識に、シャーロットは驚いたのと同時に違和感を感じたようだ。
自分の膨大な記憶にない記録…
彼女は契約の国の女王になるために各国の歴史から何までを記憶してきた。
それでも150年以上前の記録はどこも少なくなっている。それは戦争で記録が燃えてしまったのが主な原因だ。
特に昔の北の大国は情報が外に出ないように人や物の出入りを完全に統制していたはずだ。
彼女は自身が口をつけていたカップをおろす。
「………フィストリア様。妙な事をお聞きしますが、フラクタル王家の祖先をご存知ですか?」
フィストリアはそれになんの迷いもなく答えた。
「?…ええ。フラクタル家は旧帝国と同盟を組んでいた王国で大陸では最も古い王国だったと記憶していますが。」
フィストリアにとっては何気ない答えだったがそれはシャーロットが限りなく真実に近づく答えだった。
「フィストリア様、旧帝国と言いましたね。それはつまり300年前…そんな昔の記録は帝国亡き今の時代、我が王家しか知らない。そんな古い事柄を『まるで自分の目で見たかのように』語れるなんて。妙ではないですか?」
ルーカスはカップに伸ばした手が一瞬固まった。
それはフィストリアが隠していた事実に限りなく近づく言葉だったからだ。
凍ってしまったような沈黙が部屋を包んでいた。
否定しようとしたルーカスより、先にフィストリアが口を開いた。
「ええ、見てきましたから。」
とシャーロットの言葉を遮って言うフィストリアにルーカスは驚いて彼女の方を見る。
相手には荒唐無稽な話に思われるかも知れない。それでもそれは隠してきた真実なのだ。
「……言ってしまって、良いのか?」
「大丈夫ですよ。2人ともあなたの家族になるのでしょう?それならいずれ言っておかないといけない事です。」
それにフィストリアは正面の2人になら言ってしまってもいいと思ったのだ。
「私は旧アンバラシア帝国の第三皇女フィストリア・アス・バンシィ・アミエナ・アンバラシアです。一応、人間ですよ。」
ここで話して構わないと思えた心境の変化は、たとえ相手に何を言われても隣にはルーカスが居るという安心感からも来ていた。
「は、はぁ。とても信じられませんが———まあ、その真意は今はいいでしょう。貴女の知識は本物ですから。この話はエリアスに後で詳しく聞いてもらいます。」
そう自分を納得させるシャーロットは話を続ける。
彼女も心からは信じてはいないだろうが確かな知識欲からか一息ついてから問いかける。
「その大昔の魔王と今回の魔王って言うのは、なにか関係性があるように思いますか?」
フィストリアは一瞬の逡巡の後、答える。
「そうですねぇ、十中八九別人ですね。過去の王の異名に肖っている存在がいるのかも知れませんし、と言うかそう考えるならその存在って北の大国の王なのでは?」
フィストリアはこの時、一瞬ルーカスの事を考えた。
過去のルーカスは自分の魂を魔術によって維持保存して、妊婦の体内などで魂の抜けてしまった肉体に宿るという荒技をやってのけた。
肉体もルーカスの魂と相性が良くないといけないという制限もあるし、もしかしたら魂に欠落が生じてしまうかもしれないという危険の多い行為だった。
彼が弟に公爵家を継がせたのも相性の良い肉体の生まれやすい血を絶やさないようにするためだったのだろうか。
実際彼は魔術が使えなくなって、記憶も失っているようなのだ。昨日図書館でルーカスが本を読んでいる時に頭痛を感じていたように見えたけれど、それはきっと一瞬、記憶が混濁してしまったからなのだろう。
まあ、とにかくどうなるか分からない、過去の成功例がある訳でもない、そんなことをする人間は何かに途轍もない執着のある存在で、実際に時間を飛んで来ていると考えることは無意味なのだ。
「そうですわよね。では、そちらについてはわたくしたちで調査しておきますわ。」
南から北を探ることは大変であるから東がかって出てくれるのはありがたかった。フィストリアとルーカスはその言葉に感謝を示した。
その後4人は特にこれと言った話題はなく、世間話を続けた。
◇ ◇ ◇
その日黄昏時に差し掛かった頃ルーカスはエリアスに呼ばれて王城のバルコニーに出ていた。
「はあ、フィストリア様にそんな事が……いや、信じれないけどね?話に意外と筋が通っていたから納得しているだけで。」
ルーカスが簡単に話したフィストリアの過去話、それにエリアスは衝撃を受けていた。
「やっぱり信じられない。これをシャーロットさんにも話さないといけないのか…纏めるのが大変だよ。……全く、兄さんは昔から女の人に興味がないと思っていたけれど、興味を持った相手がとんでもないなぁ。」
エリアスはルーカスのように無条件で彼女の話を信じるようなことはしなかった。あくまで、話が本当であれば色んな辻褄が合うから納得気味でいるだけだ。
その様子のエリアスにルーカスは話す。
「俺はフィストリアを信じているし、後悔なんてしていないぞ。それに黄金の果実を手に入れる理由がまた一つ増えた。」
「本当に昔から前向きすぎるよ。」
エリアスは笑いながら話す。
そんな彼に背を向けルーカスは別れを告げる。
「エリアス、俺はもうそろそろグラディアに帰る。お前たちも元気に仲良くしていろよ。」
「はいはい、言われなくても。」
◇ ◇ ◇
「お別れの挨拶はできましたか?」
フィストリアの確認にルーカスは頷く。
「ああ、全部済ませた。」
「それじゃあ、帰りますか。私たちの国に。」と言う彼女に近づき、2人はフラクタルを後にした。
こうして短い旅行は終わり、また新しい戦いに2人は身を投じることになる。
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