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戦友




王宮に帰った2人を待っていたのは一つしかない寝台だった。



2人は部屋の確認をせずに王都に出てしまったため帰った頃に気づいたのだ。



フィストリアはルーカスと同衾するしかないと知り紅く染めていたが、ルーカスはこれ幸いとフィストリアを連れてその大きな寝台に倒れ込む。



が、2人とも疲れがあったのかいつの間にか寝てしまっていた。



 ◇   ◇   ◇



ルーカスが目を開いた時、目の前には愛おしい女の顔があった。


ルーカスは普段と同じ時間に起きたようだがフィストリアはそうでもない。


彼女は意外と睡眠時間が長い。起きている時の膨大な情報を睡眠中に処理しているのだろう。



ルーカスは朝起きて目の前に愛おしい人が寝ているという初めての状態をしばしの間楽しむ。


しかしすぐに、訓練場に行ってみようと思っていたことを思い出し、少し悔やみながらそっと寝台を降りる。



動きやすい服装にぱっと着替えてしまうと、ルーカスは未だ寝ているフィストリアの額に口付けを落とし、書き置きを残して部屋を出た。



 ◇  ◇  ◇



———フラクタル王城内にある兵の訓練場。



そこではグラディアともあまり変わらない様子が広がっていた。


しかし、目を引く集団があった。



白い軽鎧に身を包んだ部隊。



それは女王直属の部隊、契水の小隊と言われる部隊の者たちだろう。


彼らは兵たちの中でも特出した剣術を備えており、かつ水系の魔術にも精通しているという。



ルーカスはその部隊の動きを見ていると、1人訓練に参加していない男に気づいた。


男は金髪のルーカスと同じくらいの年齢の青年だった。

その青年の立ち姿からは不思議と品性をも感じさせる。



その青年もルーカスに気付いたようでルーカスの方に近づいてくる。



「アンタ、見ない顔だけど、どこの人間だ?」



青年の問いに嘘をつく必要もないルーカスは話す。


「グラディア王国王太子ルーカスだ。フラクタルの兵士の訓練の様子を少し、見に来ていたんだ。」


ルーカスの言葉に一瞬瞠目した青年は挑戦的な目で口を開く。



「へぇ、剣術の国の王太子殿下が見ているだけで良いんですか?」



彼の王太子という言葉には棘があるように感じられた。



「ふむ、確かに契水の小隊の者と手合わせできたら良いなとは思っていたが、君が相手をしてくれるのか?」



金髪の青年はその言葉を待っていたかのように答える。


「ええ、契水の小隊副隊長フレオンが相手をしましょう、王太子殿下。」



 ◇   ◇   ◇



ルーカスとフレオンは場所を移動して模擬戦の準備をする。


準備をしていると少しずつ見物人が集まってきた。



他国の王太子とフラクタルの精鋭の模擬戦はなかなか面白くなりそうな話だ。見たくもなるだろう。



「何でもありでいいぞ。」



ルーカスは先に言っておく。ルーカスは魔術を使えないが、目の前の青年は使えるだろう。青年もそれに同意した。



2人は軽く剣を振って構える。見物人の1人がはじめの合図をした瞬間、2人はぶつかり合った。



 ◇  ◇  ◇



目の前の攻防はまるで別世界の技だ。


私だって契水の一員として自負はある———だが、それでも、王太子殿下の動きだけは理解を越えていた。


王太子殿下の剣はフレオン様が組んだ構築を瞬く間に切り裂いていく。


組んだ瞬間にどこが破綻点か見極めているんだ。


互いが互いの剣の動く先を予測しているように動く、うちのフレオン様は若いという理由で副隊長ではあるが剣の腕は隊長にも匹敵する実力だったはずだ。



なのに、グラディアの王太子殿下の方が明らかに剣の腕は上だ。



確かにあの人は前線で戦うことが多いと聞くが、それでも指揮官よりだと思っていたのだ。それでもあの人なら最前線で戦い続けても無傷で帰って来そうだと思わせられる。



あの人はフレオン様と同じくらいの年齢だというのに…



……不思議と歴戦の猛者のようにも感じる。



それに王太子殿下の眼がやばいのか……フレオン様の魔術を悉く無効化している…



こんなの意味不明すぎる。剣の腕でも勝てないのに魔術を使おうとしたら無効化される。



一対一なら、桁違いの魔術師でない限り負けることは無さそうだ。



王太子殿下は南東の小国での戦いで怪我を負ったと聞くが本当なのか怪しく感じてしまう。



こんなのが戦場に居るグラディアがただ恐ろしかった。



 ◇  ◇  ◇



模擬戦はルーカスの勝利で終わった。


グラヴィティアとの戦いで受けた傷はすでに癒えている。

そして、彼はグラディア王国で文字通り最も強い剣士である。


そう簡単には負けない。


とは言え、ルーカスは剣の腕では負けない実力を誇っているが魔術が使えない。先制で魔術を使われていたら後手に回っていたかもしれない。



そんな事を考えながらルーカスはフレオンに手を差し出す。



フレオンも手を差し出し握手をする。


手を離した時フレオンはルーカスに向かって改めて挨拶する。


「王太子殿下、私は契水の小隊副隊長であり、フラクタル王国王子フレオンでございます。」


フレオンはルーカスに告げる。


ルーカスはフレオンの急な自己紹介にすこし驚きながらも納得する。



立ち姿から高貴さが滲み出ている事にも合点がいったのだ。



大国の王族たちはそれぞれが強さを求めて優秀な血を集めている。この若さで副隊長を任されている優秀さはそこからも来ているのだろう。



「なんだ、そうだったのか。それなら敬語なんて使わなくてもいいんだぞ。じきに戦友となるのだからな。」



よく聞けば彼の敬語には慣れを感じられない。普段はこんな話し方をしないのだろう。


フレオンはその言葉に反応してルーカスを見る。



「そうか、まあ今のところそうかも知れないな。そう言うならオレはアンタに対して敬語は使わない。それと、アンタが次にこの国を訪れた時、そん時にもう一回模擬戦をしてもらうぞ。忘れるなよ。」



「ああ、構わない。」



あまりに口調の変わったフレオンに微苦笑しながらルーカスフレオンの向上心に感心して答える。


その後もルーカスは少しの間兵士の訓練を見ていたが誰も模擬戦を挑んでくる者は居なかった。



 ◇  ◇  ◇



ルーカスが部屋に戻った時、フィストリアは起きて魔術理論の書物を読んでいた。


湯のでる魔道具でいつもと同じように汗を流したルーカスはフィストリアの元に近づく。



「あっ、ルーカス。おはようございます。訓練場はどうでした?」


「なかなか、悪くなかった。それにフラクタルの王子にも会ったぞ。」



フィストリアはそれにいくらか驚いたようだ。


「そっか…この国は女王制ですからね。優秀な王子を兵士として使う事に抵抗もなさそうですしね。というか、あなたの国ぐらいですよ、あなたが強いからって王太子を前線に送るなんて……」



フィストリアの言葉にルーカスは苦笑してしまう。その言葉は的を射ていたからだ。



「まあ、これからは私があなたのそばに居るので前のような怪我は絶対にさせませんけどね。」



そう意気込むフィストリアは本当に愛らしかった。



「それは光栄だな。しかしそうは言われても、俺も君を守る剣士で居たいと思っているんだ。これからも腕を磨く事を厭うつもりはない。」



ルーカスの言葉にフィストリアも微笑む。


その時、フィストリアは思い出したように口を開く。



「あっ、そうでした。あなたの弟さんがルーカスが帰ってきたら連絡を入れて欲しいと言っていましたよ。どうやらシャーロット様の時間が空いたらしいです。挨拶に行きましょう。」



「そうだったのか、それなら早めに向かったほうがいいな。」



2人は手早く準備をすると近くの者に連絡を入れ、昨日案内された応接室に向かった。




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