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幕間 : 休日




"遥か彼方より"。


私が過去に"束縛"されていようとも、あなたへの想いは"明瞭"です。


あなたの"計略"は自身の死を騙し、時代の波に埋もれる"歴史"の中では、記録は溶けてあなたの"黒剣"しか残らない。


あなたからの"贈り物(きおく)"に"暗雲"が立ち込めようとも、私は"現在いま此方より"あなただけを見つめます。




 ◇   ◇   ◇




フィストリアの話を聞き終えた時



流石のルーカスも驚きを隠せなかった。



「皇女だったとはな……それに、不老不死か———」



「やっぱりまずいですかね……」



フィストリアはこんな人外を受け入れてくれるのか心配になる。



ルーカスはそんなしゅんとなった愛らしい様子のフィストリアに笑って返す。



「なにもまずいことなんてないな。血筋的にも、父上は何も言わないだろう。それに時期にもちょうど良い。」



フィストリアはルーカスの言葉に安心するのと同時に疑問を浮かべた。



「……時期にもちょうど良いってどう言うことですか?」



フィストリアはかつてのルーカスの計略と同じことを今のルーカスも言うのではないかと、言葉が震え、涙ぐむ。



ルーカスは口を開く。



「つまり、俺が黄金の果実を手にして、君と同じように身体を変えてしまえばいいということだ。」



「フィストリア、君は身体が修復されているだけに過ぎないのだろう?君の意思を汲むことにはなるが、俺は君とこれからの3年だけを生きることを選ぶくらいなら君と永遠を生きたい。」



フィストリアはルーカスの覚悟に胸を打たれ涙が溢れる。



「あなたは、もう……何でそんな辛い方を選ぶんですか…」



そう言いながらもフィストリアはルーカスがこの言葉を言うために時間を超えたのではないかとも思えてくる。



フィストリアは微笑みながら自分の答えを告げる。





「ええ、ルーカス…あなたと共にならいつまでも……」





その答えを聞き、ふいにルーカスは、起こしていた体をフィストリアに近づけて、口付ける。



ルーカスの突然の行動に頬を赤く染めてしまう。



そんな様子の彼女がただただ愛おしかった。







 ◇  ◇  ◇







翌日、ルーカスは回復した体でフィストリアの居室を訪れていた。



「おはよう、フィストリアもう朝だぞ。」



そう言葉をかけると寝台の中で女が身動ぐ。



「うぅん、ルーカス?」



彼女は朝に弱いようだ。ルーカスは今まで知らなかった彼女の一面に微笑みながらフィストリアの髪に触れる。


相変わらず美しい白い髪は、朝の冷たさに包まれていて触れているだけで心が満たされていくように感じる。



寝ぼけた様子の彼女はふいにルーカスに抱きつく。



「ふふ、ルーカス、ようやく来てくれたのね。うれしい。」



随分と積極的な彼女の頭を撫でながら彼女が完全に目覚めるのを待つ。


いつもより明らかに言動がふわふわしていてる。


フィストリア自身から愛を囁いてくれるのはどうにも心臓が揺さぶられるような感覚になる。



4ヶ月間でずっとこんな日を思い描いていた。


魔族に幻覚を見せられた時のことが概ね現実になったことを嬉しく思いながらフィストリアを撫でていると、彼女の意識がはっきりしてきたようだ。


彼女の顔がみるみる紅くなる。



「なな、ルーカス!?いつのまにか来てたんですか!」



そう言いながら素早く離れるフィストリアにルーカスは返答する。



「昨日、フィストリアが俺を呼んだんだぞ。明日は治療後の慣らしのために城都に出ませんかってな。」



「それは、言いましたけど、こんな朝早くから来るなんて思わないじゃないですか。」



至極真っ当なことを言うフィストリアにルーカスは苦笑する。



「すまないな、君に早く会いたいと思ったんだ。」



フィストリアがルーカスに愛を告げた昨日、ルーカスはフィストリアを連れて国王の元を訪れた。



ルーカスが彼女を妻にすると言った時、あの厳格そうな国王はなにも否定しなかった。


ルーカスは愛する者を妻にでき、王族にとっては強力な魔術師の血が王家に流入する。


父王にとっては特異で優秀な駒が死にかけで帰って来て、回復すると再び特異な動きをしたのだ。


少々迷惑をかけてしまったが、このこと自体は相互に利益があったのだ。



そうしてフィストリアを妻にすることを概ね確約したルーカスはフィストリアへの愛が溢れんばかりであった。



「もう、仕方がないですね、ささっと着替えちゃうので少し、外で待っていてください。マーシー呼んできてもらえますか?」



ルーカスはその言葉を聞き入れ、マーシーを呼びに行った。


彼女は今までと違う2人の様子から何かに勘付いたらしくにやにや笑っていた。


マーシーを連れて戻ってきた後ルーカスはフィストリアの居室の中で彼女の髪が結われるのを見ていた。



マーシーがフィストリアの支度の手伝いをしている間城都で見られる珍しい光景の話をし始めた。



「ルーカス様、フィストリア様、知ってますか?最近、王都で流星群が見られるらしいですよー。なんでも、今回の流星群は黄昏時に見られるらしいんですよ。早い時間なので私もお城から見れますねー。」



フィストリアはマーシーの話を聞いて興味をそそられたようだ。ルーカスとマーシーに向かって話す。



「黄昏時の流星群って、私が知っている話では黄金の果実がなる前にしか見られないらしいですよ。」



フィストリアの知識にルーカスは感心する。



「それはまた、妙なことだな。何で果実がなる前にしか見られないんだろうな、フィストリアは何か知っているのか?」



「どうやら、王樹に向かう力の集まりの流れらしいです。黄金の果実が熟れるための力を空気中から集めているのかもしれませんね。まあ、そうだったら流星とは言えないのかもしれませんけどね。」



グラヴィティアも自分の力を放出する時に光を発していた。強大な力の流れというものは光を発して流星のように見える物なのかもしれないと納得した。



果実が熟れるための力———万能と言われる黄金の果実を熟れさせる程の力に一瞬興味が湧いたが、それよりもルーカスは流星群が流れる景色が脳内に浮かんだ。



ルーカスは今日の散策の日程を組みながらフィストリアの支度を待った。






 ◇  ◇  ◇






支度をし終え、ルーカスとフィストリアは城都に出てきていた。



普段であれば目を引く2人だが今日は視線をあまり感じない。



今日はフィストリアが認識阻害の魔術を2人の周囲に張っているからだ。



今の2人は普通の恋人にしか見えない。



2人はいつも受ける大量の視線を感じずに城都散策を楽しんでいた。




「フィストリア、あれは何の店なんだ?」



ルーカスは見慣れない店に気付き、フィストリアに尋ねる。



「ええと、あれは、魔道具屋ですね。あなたに渡していたバングルや私の髪飾りみたいに魔術が組み込まれた物を売っている所のように見えます。入ってみますか?」



フィストリアがルーカスに渡した細いバングルはグラヴィティアとの戦いの後、割れてしまったが、あのバングルにはルーカスの位置を発信する魔術が組み込まれていた。


ルーカスがフィストリアに贈った青薔薇の装飾がなされた髪飾りにはフィストリア自身が状態を保存するための防護魔術を組み込んでいた。



ルーカスはそういった物品が売っているという店に些か興味が湧く。


ルーカスは首肯すると、2人は店に入って行った。



 ◇  ◇  ◇



店の外装は高級感があったが、内装もなかなか丁寧な作りだった。


2人は店に入る直前に認識阻害の魔術を解除していた。


ルーカスの王太子という身分は高級そうな店でゆっくりと見て回るのに十分なものだ。それを使わない選択肢はない。



中の店員は急に王太子が現れたように見えて驚いていたが、すぐに平静を取り戻す。



フィストリアが一つ一つ見て、魔術から魔道具について説明してくれる。



「ルーカス、今更ですけれど魔術がどういうものか知っていますか?」


彼女が説明をしたそうにうずうずしているのは魔術好き故だろう。


ルーカスが「教えてくれないか」と言うとフィストリアは膨大な情報を話し出した。



「魔術言語を文法に沿って紡ぐことで文章が力を持つもの、それが魔術です。あなたが魔術を見切ることが出来るのはあなたの眼が違和感などによく気づく眼だからですよ。魔術師が紡ぐ文章の切れ目、そこに刃を入れることで文章が成り立たなくなって霧散する。それがあなたが無意識にしていることなんです。魔術言語には実体こそないですがとなりの文字とは繋がっているんです——————」



魔術について話している時のフィストリアはいつにも増して饒舌になる。そんな彼女の話を遮らず、ルーカスは話を聞く。


フィストリアの話には確かに興味深いものが多い。


ルーカスの眼の秘密などルーカス自身意識していなかったことなのだ。



「———だから魔術言語を多く習得している魔術師は強力で、強力な魔術師は年月を経て育つのですよ。沢山言語を覚えていればそれを組み合わせて複雑にすることも、似た言語で固めて魔術を強力にすることも可能ですからね。〜とと、脱線してましたね。つ、つまり、魔道具はそんな魔術の文章を書き込んだ物なんです。」



フィストリアの魔術の説明に続く魔道具の説明が短すぎて笑ってしまいそうになるがルーカスも理解できた。


「つまり、強力な魔術師は強力な魔道具も作れるということか?」



「ええ、その通りです!よくできました。」



手を合わせてルーカスを褒めるフィストリアは本当に魔術が好きなのだと思わせる。彼女は魔術を学ぶことも、教えることも好きなのだろう。


だからこそ300年精神崩壊せずにいられたと言うべきなのだろうか。


そんなフィストリアと魔道具を見ていてフィストリアのお眼鏡にかなった物があったようだ。



「ルーカス、見てください!」



フィストリアがルーカスに見せた物はバングルだった。

彼女はバングルと何か縁があるのか、彼女が気にいるものはそういったものが多い。


ルーカスは彼女に問いかける。



「いったい何の魔術が組み込まれてたんだ?」



フィストリアは嬉しそうに答える。


「これ、治癒魔術が組み込まれているんです。それも、結構効果強そうなんです。」



フィストリアは続ける。



「これすごいですね。私と同じくらい治癒魔術の巧みな魔術師が作ったんでしょうね。」



フィストリアは300年近く魔術の腕を磨いてきていたのだ。そんな彼女が認めるほどの治癒術師が作ったという魔道具を見つけた彼女はすぐさま会計をしに行く。


治癒魔術の使い手は西の大国の術師に多い。


もしかしたら西の国の関係者が作成した物なのかもしれないとルーカスは考えていた。



そうして、楽しんでいる彼女をルーカスは微笑んで眺める。


長い間孤独だったフィストリアが長い時間を超えてきて良かったと思えるくらいに、今は甘やかしたいと思っているのだ。



 ◇  ◇  ◇



魔道具屋を出た彼女は買ったバングルに防護魔術も加えてルーカスに向き合う。



「ルーカス、良ければ……このバングルを受け取って欲しいと思ったのですが…」



フィストリアが恥じらいながら言う。



「私が前に贈ったものは即席の物でしたし、あなたを監視しているみたいだったんですれけど、それでも無くなったら無くなったで、あなたも私からの贈り物を身につけていて欲しいと思ってしまって……」



ルーカスは彼女の可愛らしい考えに「光栄だ。」と短く首肯する。



腕に再びバングルがついた時ルーカス自身も彼女からの贈り物という事実に顔が綻ぶ。



魔道具店を出る時に認識阻害を施し忘れていた2人のその様子は国民に見られており、その仲睦まじい関係は翌日、王都を巡る記事となった。



しかし、もはや2人はそれを知らずにその後も王都を散策した。



 ◇   ◇   ◇



そして黄昏時が近づいてきた頃、2人は王都で1番高い時計塔に来ていた。


いつ来てもここに人は居ない。


流星群が見えると言ってもこの高さの塔を登る気力が湧くのはごく少数なのだろう。


ここからは王樹も見えるし、流星群も見えやすいだろう。



2人が静かな時間を過ごしているうちに流星群が流れ始める。


「ルーカス、流れ始めましたよ。」



フィストリアは空を指差す。



青い光の溢れる筋となって暗くなり始めている王樹の方へと流れていく。


この世界の青い光には人智を超えた力が込められているのだろう。


何本もの筋が2人の頭上を流れている。その様子は確かに幻想的だった。



「あの青い光が王樹に向かう力の流れだとしたら『黄金の果実』ってのは一体、何なのだろうな。」



ルーカスは青い光を眺めながらそんな疑問を口にする。



「果実の歴史は本当に何も残っていないですからね。一体いつからあったのか…そういう歴史は戦火に呑まれて消えちゃいました。昔はかつて大陸に居た神が人々に与えた祝福だとか、強力な魔術師が生み出した奇跡の樹木なんだとか言われていました。」



フィストリアがアンバラシア帝国時代の知識をルーカスに振る舞う。



どれが本当かそれを確かめる術はないが…


これからの時代…黄金の果実の争奪戦となる戦乱の時代で各国に伝わる歴史を知っていく機会もあるかもしれない。



これからの戦争のことを考えるルーカスは少し感傷的になり、フィストリアの手を強く握る。



「なぁ、フィストリア、前と正反対のことを言うことになるんだが、これからの戦い、俺の側で俺を支えてくれないか?」



ルーカスはフィストリアにプライオと戦う前に言っていたことと正反対のことを話す。



「お前の体質を知ったこともあるが、お前が紡いできた人生の中で得た魔術知識や経験を俺の側で生かして欲しいんだ。」



「それに、」とルーカスは一息つく。



「———君と離れたくない。」



フィストリアはルーカスの提案に静かに頷く。



「ふふ、もちろん、構いませんよ。私が魔術の腕を磨いてきたのはあなたのためでもありますから。私が今まで得た全てと、これからの全てを、私はあなたに捧げましょう。」



そう言ってからフィストリアは妖艶に微笑む。



「その代わり、あなたも私に全てを捧げてくださいね。」



ルーカスはそんな艶やかな様子のフィストリアに答える。



「それでフィストリアが手に入るなら安いものだ。」



暗い空の中、青い光が静かに王樹に落ちていく。2人だけが塔の上で寄り添う。



フィストリアも拒まない。








青い光の煌めく下で2人は唇を重ねた。


世界は止まったように温度だけが感じられた。






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