遥か彼方より
アクセスありがとうございます!
自分の「こんな話があれば良いな」を文章に書き出したもので私自身まともに文を書いてきた経験が少ないので、駄文となりますがお付き合いしていただけると幸いです…!
『全ての忘却の果てでも彼女を見つけなければならない』
大陸の風は古い話を運んでいる。
歴史に埋もれた男女の約束はやがて大陸に変革をもたらし、新しい時代の礎となる———
◇ ◇ ◇
大陸には300年周期で大陸の中央に聳える巨木”王樹”から実る果実がある。
『黄金の果実』と呼ばれるそれは人々の願いを叶える代物だった。
人々はその果実を求めて争い、果実を手にした者が生まれる時、大陸には一つの大国が生まれていた。
その大国は果実が腐り落ちるまでに様々な願いを叶え、発展したが———
◇ ◇ ◇
———そんな栄光も過去のこととなった頃。
その大国は内部で分裂が起こり、現在大陸では4つの大国と3つの小国が争いの準備を始めていた。
新たな『黄金の果実』が実るまで残り3年———
そんな中、南の大国グラディアの若き王子ルーカスは街で人生を変える出逢いを果たす。
◇ ◇ ◇
———それは、ちょうど日が傾いてきた頃だった。
王都の騎士詰め所には数人の剣士と、同じく数人の魔術師が集まってきていた。
その部隊を率いる男はルーカス。
南の大国グラディア王国の第一王子だ。
彼はある魔獣を乗せた荷車を引いていた。
王都付近で商人を襲っていた魔獣。
大陸に蔓延る不思議な力、『魔術』を獣の身で扱っていたそれは、サンドリザードと呼ばれる蜥蜴……体長10m以上にもなり、ここ数ヶ月王都にやってくる人を脅かしていた元凶であった。
1人の騎士がルーカスに対応していた。
「流石、王国最強の剣士であるルーカス様です。王国の未来も明るいですね。きたる大陸戦争でも素晴らしい戦果を挙げるでしょう。」
「ハハっ…そうは言っても俺は一介の剣士だ。魔獣やら、魔術師相手だと少々手こずる。」
そんなことを言いながらも傷一つ負っていない彼に騎士は苦笑する。
「残りの手続きは私共が行います。王家の援助に感謝いたします。」
騎士の謝辞を聞き入れたルーカスは、余った時間を潰すために王都へ散策に向かうことにした———
◇ ◇ ◇
「城に戻ってもいいが…午後は休暇を取ってしまったからな…」
そう呟きながらルーカスは空を見上げた。
濃い青色が空には滲み出していた。
真白な月と星々も姿を見せ出している。
今宵は美しい夜空となるだろう。
ルーカスはそんな光景を見てふと、郷愁のようなものを覚える。
「深い青色……それと、白銀……何処かで———」
そんな風に言葉を紡ぎ出した時、ルーカスは周囲の人々に注目されていることに気づいた。
第一王子であるルーカスは王家の血筋の中でも先祖返りと呼ばれる黒髪黒目の端正な顔立ちと類稀な才能を持っている。
特徴的な容姿の彼は人々の目に付きやすい。
それでいて、彼の鋭い見た目とは裏腹にとても柔和な性格をしている。
自身の力を民のために惜しむことなく使い、自ら戦闘に駆り出すことも少なくない。
つまり、国民や貴族からの信頼があついのだ。
しかし、そんな彼は婚約者もいない独り身だ。
男女ともに好かれる彼が下手に国民に注目されれば———
「ルーカス様!これ食べていってよ!」
「王子様ー!暇してんのかい?」
「ルーカス!」「ルーカス様!」「王子様!」
そんな大量の声に包まれるわけだ———
ルーカスは苦笑する。
「す、すまない!今は少し急いでいるんだ!」
そんな風に言い訳してその場を立ち去るしかなかった。
◇ ◇ ◇
人気が無く落ち着ける場所を探していたルーカスは不意に、良い場所があったことを思い出す。
ルーカスは夕日に照らされる王都一高い時計塔に目を向ける。
その時計塔は建国よりも前、グラディア王家が一介の貴族家だった頃に建てられたものらしい。
「懐かしいな。昔から…あの場所には何もないはずなのに…それを確認して仕舞えば何故か落胆してしまう。」
その時計塔はルーカスが子供の頃からそんな不思議な感覚がする場所だった。
そんな時計塔は今も昔も人が寄らないことで有名だ。
その理由はただ一つ。
無駄に高いのだ。
一般人の脚では登ることだけで翌日筋肉痛になってしまうほどだ。
人生で一回登って満足するような所だが、そこに登ろうという考えが生まれたルーカスは次の目的地を見据え、歩を進めた。
◇ ◇ ◇
この時計塔からは王都が一望できる。
ここより高いのは王城くらいで、国民が登れる一番高い建物と言える。
その分高い訳だが、この時計塔は魔術で補強されていて安定感は王城にも勝らずとも劣らない。
「魔術というのは便利なものだな……俺も使えたら良かったのだが……」
時計塔内の螺旋階段に足を乗せたルーカスはそう呟く。
魔術は魔術言語を書き連ねることで現象を起こすものだが、不思議と使えない人もいる。
基本は血筋によるものだと言われているが、王家の血筋であるルーカスが魔術を使えないことに一時は国が揺らぎ掛けたそうだ。
ルーカスは魔術を使えないにも関わらず不思議と魔術構築はいくつも覚えている。
そして、彼は使えない欠点を覆うほどの剣術の才能を持っているのだ。
もはや、魔術を使えないと揶揄する人間は居なかった。
それにしても、この時計塔に人はいない。
外もすっかり日が落ちて暗くなってきた。
こんな時間に時計塔を登る者も居ないだろう。
ここは王城と違い、街とも違う。
王子という身分に追われる喧騒から離れて落ち着ける場所だと感じていた。
彼はいつも通り、塔を登り切って…名状しがたい落胆を覚えながらも1人で静かに休むことになる———
———はずだった
自分の足で階段を一段ずつ上る音が響く。
普段なら下の喧騒から少しずつ離れて静かになるはずだったが、今日は違った。
上からまた別の音が聴こえる。
それは悲しい曲のようで、不思議とルーカスの心に響いた。
いくつかの弦と管、そして女声が織りなすその響きは美しい曲そのものであった。
ルーカスは初め、どこかの合奏団が演奏をしているのかと思った。
ここであれば風系の魔術で音を遠くまで運ぶことも可能だろう。
あまりにも美しい曲を奏でる者を一目見ようと段を上る速度が少し早まる。
心拍が速まる。
名状しがたい感動が胸の奥に痞える。
最後の段を上り終えた時、そこには1人の女性が居た。
普段ある落胆は……ない———
ルーカスはその人物を見て思わず息を呑んだ。
すでに日の落ちた美しい夜空を背景に、演奏をしていたのは絶世の美貌を持っている女であった。
年齢は20歳ほど…だろうか、白磁のような肌にシルクを思わせる白銀の髪、大海を思わせる蒼石のような瞳、そして小さな口にうすい赤色が映えていた。
あまりに浮世離れした美貌は人かどうかも疑わしくなってしまうほどだ。
ルーカスは王族ということもあって見目の麗しい者に多く会ってきたが、その中でも妙に一際目を引いた。
傾国の美女とも言われるであろう女は、階段を上ってきたルーカスを見て「っっ、あなたは……?」と声を出して驚いているようだった。
演奏を止めてしまったことを悔やみながらもルーカスは名を名乗る。
「俺はグラディア王国第一王子ルーカスだ。いい演奏と歌だった。名を聞かせてくれないか?」
目の前の美女はその唇を動かして答える。
「私は流浪の旅人、フィストリアです。演奏をルーカス……殿下に…お褒めいただけるとは恐縮でございます。」
そう言って彼女は礼をする。
「フィストリア…フィストリア……か。何処かで聞いたことが…?」
ルーカスは妙な感覚に襲われる。
それは、落胆ではない。
どちらかと言えば幸福を感じるようなものだ。
初対面の人間に何を感じているのだろうか。
ルーカスは気を取り直して質問をする。
「いや、ところで…君はここで何をしていたんだ?」
礼をして頭を下げている彼女に対してそう言葉が出てしまう。
演奏をしていただけではないか…
そんな脈絡もない言動への後悔が胸の内に滲み出した時。
礼から体を起こした彼女…フィストリアの頬には不思議と涙が伝っていた。
ルーカスは一瞬その様子の彼女に見惚れてしまう。
彼女に出逢うのは初めてのはずなのに、一瞬だけぼんやりとした、妙な…既視感を感じた。
「そう…」と彼女は言葉を洩らし少しの息を飲み込んで応えた。
「ただあなたの帰りを……」
「……待っていました。」
その意味ありげな言葉にルーカスは動揺してしまう。
心臓よりも深いところ、自身の根幹となるところを揺さぶられるような不思議な感覚を鎮めるために言葉を紡ぐ。
「それはどういう………んんっ゛…いや先の演奏…君1人で奏でていたのか?」
ルーカスは彼女の言葉を、演奏家というよりも詩人らしい世辞なのだとして振り払い、疑問を投げかける。
彼女のそばに弦楽器と管楽器が置かれているが、この場にはルーカスとフィストリアの2人しかいなかったからだ。
「ええ、そうです。浮遊魔術を用いて弦を弾き、風魔術を用いて管を空気を入れ、私は歌を歌っていました。」
その答えを聞き、ルーカスは驚く。
「随分と器用なんだな。魔術であれほどの音楽を奏でて見せるとは…。」
魔術は基本的に知識がものを言う大器晩成型の学問だ。
彼女はルーカスとは対照的に魔術において長年鍛錬を積んだに違いない。
「それにしても、先ほどの曲は良いものだったな。少々悲しい雰囲気を感じるものではあったが。」
今のは決して嫌味などではない。そういう情景が不思議と思い起こされる良い曲だったとむしろ褒めているのだ。
「ありがとうございます。ですが———あの曲はもう終曲……演奏されないんです。悲しいものが積み重なった後は、どうせなら、嬉しいものを積み重ねたいですよね。」
そう言う彼女の目にはいまだ若干の涙が浮かんでいるようにも見えた。
「私は小説でも人生でも……ハッピーエンドが一番好きなんです。私の人生においてバッドエンドなんて楽しくないですからね。」
そう言うと、ルーカスから目を逸らし、時計塔から見える王都の情景を見下ろしながら彼女は続けた。
「ふふっ———そうですね…ルーカス殿下。———私を……雇ってみませんか?」
突然の提案にルーカスもいくらか驚きながらも、返答する。
「……ふむ、突然だな。しかし、まあ君ほどの演奏家であれば、不可能ではないが……」
その答えにフィストリアは首を横に振る。
「あっ、いいえ。演奏家としてではなく、魔術師としてはどうですか?」
これも、やはり突然の提案だ。
「……実力を知らないからな…どうにも言えない。」
ルーカスは率直に答える。確かに器用さは王国の魔術師にも勝っていると見えるが、それと魔術師としての力量は別だ。
ルーカスとしては彼女を側に置くこともやぶさかではないが、いかんせん実力がなければ難しい。
「それでは、近くの荒地に行きましょう。」
フィストリアは簡単に話すがルーカスはそれに異議を唱えた。
「今からか?王都近郊の荒地といえば、俺が昼に居たところだ。それなりに離れているし、サンドリザードの生息域であまり安全とは言えない。」
彼女を心配する言葉が出るが、フィストリアはルーカスの方を向き、手を差し出した。
「そうですね。ですが私…自分で言いますけど強い魔術師なんですよ?転移魔術を使うので一瞬です。」
「っ…そうか。」と答えるルーカスはまたもや軽い驚きを覚えていた。
転移魔術と言えばかなり難しい部類の魔術だ。扱うことも制御するのも困難なものであるはずだと認識していた。
それも軽々と扱う彼女の底知れなさは一抹の恐ろしさを感じるほどだった。
しかし不思議と彼女が嘘をついているようには思えなかった。
それがルーカスの眼によるものか他の感覚によるものかは分からなかった。
◇ ◇ ◇
彼女の手を取ると瞬く間に場所は荒地に変わっていた。
「すごいな……本当に荒地に来れたな。」
「あれ?転移魔術を感じるのって初めてでした?」
「ああ、君の技量が尚のこと知りたくなった。」
幸か不幸か数十m離れたところにサンドリザードの群れが見える。
「それは光栄ですね。」
そう言うとフィストリアは早速、群れ目掛けて手を向けると、魔術構築を組み始める。
魔術構築とは魔術言語を円形に繋げて陣にするものだ。
五秒と満たない一瞬で組まれた風魔術は遠くのリザードを切り刻む。
硬いリザードの表皮は並の剣を通さない。
剣の王国であるグラディアの国宝であれば硬度と言うものは意味をなさないが、ルーカスが昼に戦った時に使用したのは少し良い剣と言った所。
彼がその表皮に数分苦戦したのは言うまでもない。
しかし、リザードはフィストリアの存在に気づく間も無く処理された。
それも加工しやすいように、部位ごとに分けて。
彼女はルーカスとて数分掛かった相手を一瞬で片してしまったわけだ。
あっという間に群れを一掃した彼女は汗ひとつかいていない。
ルーカスの方を向き、身長差ゆえ上目で見つめる。
「どうでしょう殿下。私の刃をあなた様のために使わせてくれませんか。」
———なぜ彼女はこうも自分に固執するのか。
———なぜ自分はこうも彼女に固執するのか。
不思議と惹かれる感覚は美貌だけではないのだろう。
彼女の所作、立ち振る舞い、声…その全てが美しいと思えてしまう。
今日の自分は本当におかしい。
今までこんなに人に惹かれることなど無かったはずだ。
そう思いながらルーカスは一瞬目を閉じて考えをまとめる。
「分かった。フィストリア、俺は君を第一王子直属の魔術師として雇うことにする。王国の平和、ひいては大陸の平和のために力を貸してくれ。」
実力さえあればたとえ外国からの人間でも国は許すのだ。それが今の時代で、この国の潮流だ。
その理由以外にもグラディアは慢性的な魔術師不足に悩まされている。
魔術を用いるものに魔術師をぶつけるのは鉄則だ。
今後のことも考えて必要なことであった。
———そう自分に言い聞かせた。決して自分の感情に流されたわけではないと…
ルーカスの答えを聞いてフィストリアは恭しくカーテシーをして見せる。
「ええ、私は全てをあなたに捧げましょう。」
「はぁ、そこまで固くするな。臣下もとい盟友というわけなんだ。ルーカスと呼んでくれても構わない。口調ももっと柔らかくしてくれ。」
ルーカスは苦笑を浮かべ、フィストリアを見る。
「堅苦しいのは昔から好かない性分なんだ。王族らしくないか?」
彼女は一瞬ポカンとした表情をしたが、すぐにはにかんで軽く咳払いをして声を整える。
「んんっ…いいえ…貴方らしいと言いましょうか…———分かりましたルーカス。私の殿下の仰せの通りに。」
ルーカスはフィストリアの手を取る。
誰もいない荒野にただ2人。
夜空には月が光り輝き、遠くには王樹が聳えていた。
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