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異世界来訪譚  作者: yu-ki
3/12

三話 最後の日常

3話目です。

「えーこうして2054年に始まった第3次世界大戦は、世界中を巻き込み、10年もの間続いた。この戦争が終わる頃には世界中がボロボロだったそうだ。そこで”世界の復興”を理念に掲げて設立されたのが、全世界統合政府、通称WUG(ワグ)だな。まぁ、なんというか、皮肉なことに人間は、世界中がボロボロにならないと手を取り合えなかったというわけだ。あ、おい、そこ寝るな。もうちょいで終わるから頑張れ、な」

 先生に注意され、ビクッと体を震わせる生徒。それによって小さな笑いが起こり、彼は恥ずかしそうに頭を掻く。それを見た先生は話を戻した。

「で、えーと。そうそう、ボロボロになった世界は幸か不幸か、やっと手を取りあったわけだ。WUGのおかげもあってか、その後、20年間は戦争が発生しなかった。一度も、どこでもだ。…これを歴史では、”奇跡の20年”と呼ぶ。まぁ、20年と言ってるわけだから、21年目には戦争が起っちゃったわけだな。結局、人間というのはそう簡単に変わらんっていうことだ」

 いち教師がそんなことを言っても良いのだろうか、と考えながら、俺は先生の話を聞き流す。

「で、そこを境に、WUGを脱退して独立を宣言する国が現れ始めた。かくいう我が日本も独立して、日本皇国となり、今に至るというわけだな。あ、多分、ここらへんテストに出るからなー、というか出すからなー」

 いつも通り、少しだるそうに授業をする社会科の先生。そんな歴史の授業を聞きながら窓の外を眺めていると、学校の外は薄く夕焼け色に染まっていて、今日という一日が終わっていくのが感じられる。

キーンコーンカーンコーン―

「お、今日はここまでか、じゃ号令ー」

 授業の終わりのチャイムが鳴り、挨拶をした後、先生が教室を出ていく。これで今日の授業は全部終わった。教室にいる生徒たちは次の予定へと移っていく。部活があるもの、遊びに行くもの、残って勉強するもの、委員会の仕事があるもの、予定は人それぞれ。今日の俺はその中のどれでもなく、ただ単純に家に帰るだけ。いつもだったら、敦やほかの友達と遊びに行ったり、買い物に行ったりすることもあるのだが、今日に限っては真っ直ぐ家に帰る予定だ。

 俺は教室を出ようと思い、荷物を片づけ始める。机の上に置かれた教育用タブレットの電源を切り、鞄にしまう。教科書や参考書などはこのタブレットに集約されていて、荷物はもっぱらこのタブレット一枚。あとは、運動着やその他の細かな私物くらいのものだ。荷物を片付け終わった俺は、鞄を肩にかけ、教室を出る。すると廊下に出た瞬間、後ろから誰かに呼び止められた。

「おーい、悟。金曜だし遊び行かね?」

 振り返ると、茶髪の男子がこちらを見て、軽く右手を挙げていた。

「悪い、今日は予定ある」

 俺はそいつに向かって、すまんと手を合わせる。こいつは、佐藤(つかさ)。敦と同じく中学時代からの友人で、高校デビューに成功した見た目チャラ男のイケメン野郎。中学では地味な眼鏡をかけて、髪も黒髪だったが、高校入学と同時に茶髪に染めてきた。ある意味勇者みたいなやつ。ただ、中身は中学からあまり変わっておらず、授業はまじめに受けるし、非行に走ったりもしない。しいて言えば、話し方が少しチャラくなったくらいだ。運動もそこそこできて、根がまじめで勉強もできる。敦ほどではないが女子からの人気はあるし、彼女もいる。俺、敦、こいつの3人で遊んでいるときに、俺がチャラ男チャラ男とからかうと、ただのおしゃれだと怒られる。本人的にはチャラ男になったつもりはないらしい、認めたくないだけかもしれないが。

「おっけ。じゃあまた声かけるわ」

 俺が誘いを断ると、詳しい理由も聞かず、あっさりと引き下がる。付き合いが長いとこういうのが気楽で良い。気を使って大げさに謝ったり、理由を詳しく話したり、そういうコミュニケーションも時には必要だと思うが、やはり楽なのが一番良い。

「すまんな、また来週誘ってくれ」

「りょーかい、じゃあまた来週な」

「おう」

 お互い軽く手を振りながら、背を向け歩き出す。金曜日の放課後、窓から差し込む夕焼けで廊下が赤く染まっている。生徒が楽しげに騒ぐなか、廊下を歩いて、階段を降りる。玄関に着くと靴を履き替え、学校を出る。周囲には俺と同じように帰宅する生徒もちらほら見えた。校門を出て、少し歩くとモービルの停留所に着いた。俺は停まっているモービルのうちの1つに乗り込み、目的地に自宅を設定する。

 すると、モービルが動き始め、朝と同様にニュースが流れる。特に興味がない俺は、いつものようにモニターから窓へと視線を移し、代わり映えしない外の景色を眺める。誘いを断ってしまったこと、司には申し訳ないと思うが、今日はどうしても外せない予定があった。

 俺たち兄妹は一年前、戦争で両親を失った。ちょうど今日が両親の命日だ。父さんは軍人、母さんは軍属の医師、つまり軍医だった。無論、軍人という仕事の特性上、命の危険があることは重々承知していた。しかし、それはあまりに唐突の出来事だった。

 時間を遡ること一年と少し。お隣のユーラシア中央国―旧中華人民共和国が沖縄へ向けて、軍事行動を開始した。日本皇国軍はそれに対抗するため、沖縄・九州へと軍隊を集結させた。日本各地に存在する軍事基地から部隊が選抜され、それらをまとめて対中央国防衛作戦軍が作られた。俺たちの両親はその軍に加わることになったのだ。軍に所属している以上、命令は絶対だった。出立の日、両親は俺と茜にこう約束した。

『絶対に戻ってくる。帰ってきたら、みんなで高い寿司でも食べに行こう』

俺たちは不安でいっぱいだったが、両親を心配させまいと涙をこらえ、笑顔で頷き、二人を送り出した。両親がいなくなった家で、茜と二人、できるだけいつも通りの日常を送ろうと家事を二人で分担し生活していた。今思うと、何かしていないと不安や嫌な想像で押しつぶされそうだったのかもしれない。

 しかし、その2週間後―両親のいない日常に慣れ始めた頃、唐突な知らせによって両親との約束が永遠に果たされなくなったことを知った。

茜は精神的ショックで倒れ、病院へ入院した。当然俺も大きなショックを受けたが、今にも折れそうな茜を支えなければ、という思いが上回った。そんな状態で学校など行けるはずもなく、休学という形をとることになった。俺はその間、病院へと通い、茜の看病を続けた。お金に関しては、出立前の両親から数か月分の生活費をまとめて渡されていたため、特に困ることはなかった。その約1か月後、戦争は中央国の撤退、日本の防衛戦勝利という形で終結した。俺たち兄妹は、病院のテレビモニターでそのことを知り、日本の勝利に喜ぶ国民と自分達とのギャップを感じ、言い表せないような気持ちになった。

 その翌日、茜の病室へ、とある軍人たちが訪れた。彼らは俺たちの両親と同じ部隊の人たちのようだった。彼らは俺たちに深々と頭を下げ、仲間を、両親を死なせてしまったことを謝罪した。また、彼らは両親が俺たちに残した遺言を直接渡すために来たのだと言った。そして、俺には父さんからの、茜には母さんからの遺言が手渡された。

 父さんからの遺言には、約束を守れなかったことへの謝罪と俺たちを心から愛していること、これからも茜と仲良く元気に過ごすこと、が書かれていた。父さんからの遺言によって、両親の死を改めて実感させられ、涙が溢れて止まらなかった。あまり覚えていないが、茜も俺と同じように泣きじゃくっていたと思う。母さんから茜への遺言については、俺は今でも内容を知らない。聞くタイミングを逃してしまったし、おそらく父さんからの遺言と同じような内容なんだろうと勝手に思い、結局聞かずじまいとなっている。

 茜はその遺言をきっかけに以前の明るさを取り戻し、病院から退院することができた。母さんからの言葉に勇気づけられ、心が持ち直したのだろう。そうして、俺たちは以前までの学生生活へと戻っていった。そこから約1年経って、今日に至る。

 茜は相変わらず元気だし、料理も上手になった。この1年で俺の胃袋なんかはとっくに掴まれている。俺については、あれから軍人見習いとして定期的に軍の訓練・演習に参加させてもらっている。遺言を届けてくれた父さんの同僚に、無理を承知で頼んでみたところ、お前なら大歓迎だと言われ、想像よりもすんなりと受け入れられた。ただし、高校を卒業して、軍属の大学に入るまでは正式な軍人になれない規則があるため、軍人ではなく軍人見習いとして扱われている。勿論、訓練や演習だけでなく、見習いらしい掃除や武器の整備等の雑用もこなしているが、そういった時間については賃金が発生するため、アルバイト代わりにもなって助かっている。もしかしたら、戦争で両親を亡くした俺たちへの、彼らなりの気遣いなのかもしれないと思っている。

 普段なら今日も訓練に行く日だが、今週末は妹とゆっくり過ごせと言われ、休暇をもらった。元々自分から休暇を申し出ようと思っていたが、大人たちに先手を打たれてしまった感じだ。そういうわけで今日は学校からまっすぐ帰って、妹と一緒にゆっくり過ごす予定だ。土曜か日曜には、両親の墓参りにも行こうとも思っている。

「何時出発にしようか...」

 墓参りの出発時間について考えていると、ふと週末の天気が気になり、モニター上のニュースへと視線を戻す。するとその瞬間、窓の外で、けたたましいほどの警報音が鳴り響いた。その音はモービル内でも聞こえるほど大きいものだった。そして次の瞬間には、モービル内のモニターからも警報音が鳴りだした。

『緊急警報、緊急警報。只今、旧WUG政府より全世界に向け、緊急警報が発令されました。警報レベルは(ファイブ)、国民の皆様は直ちにお近くの避難所、または避難シェルターへお急ぎください。繰り返します―』

「なっ⁉」

 突然の出来事に一瞬思考が止まる。日本政府からの警報であればまだ理解はできるが、旧WUG政府からの警報となると話が大きく変わってくる。こんなことは、未だかつてなかったはずだ。地震や噴火といった自然災害であれば、全世界への警報は必要ない。それにレベルⅤは最高レベルの警報で、大震災に相当する。つまり、大震災並みの被害が世界中に発生する可能性があるということだ。

「くそっ、どうなってるんだっ!!」

 少しでも状況を把握しようとビークルの窓から外を見ると、街にいる人が皆立ち止まり、空を見上げていた。つられるように俺の視線も空へと誘われ、視界いっぱいに空が映し出される。するとそこには、肉眼で確認できるだけでも数十個の巨大な流れ星が綺麗に輝いていた。

―隕石群だ。

あれらがすべて地球上に落下するとすれば、想像もできないほどの大惨事になる。

「くそっ、どうするっ」

 焦る頭で生き残る方法を必死に考えるが、次の行動がなにも浮かんでこない。軍での非常時を想定した訓練では、落ち着いて行動できていたはずだが、いざその時になると経験不足が露呈してしまう。焦りで何も考えられない状況がまた焦りを生んでしまっている。頭は真っ白で何も考えられないはずなのに、顔に数滴の汗が噴き出し、頬を伝っていくのだけは何故か鮮明に感じられる。

 負の連鎖に陥りかけていたその時、警報が途切れ、ビークルから別のアナウンスが流れる。

『緊急警報が発令されています。避難所、または避難シェルターへの目的地変更を推奨します。変更しますか?』

 アナウンスと同時に、モニターには最寄りの避難所が表示されていた。

「げ、現在の目的地と避難所はどっちが近い⁉」

 アナウンスによって負の連鎖から助け出された俺は、瞬時に次の行動を選択する。

『現在の目的地のほうが近いと判断します。現状の目的地までは残り1km。最寄りの避難所までは3㎞。また避難シェルターまでは5kmです』

 ビークルに搭載されたAIは、少し言葉に詰まった俺の質問を正確に理解し、欲しい回答をしてくれた。これによって状況は把握できた、あとは方針を決めるだけ。

『目的地の変更を実施しますか?』

 避難所やシェルターに行くのが安牌だが、隕石がいつ落下してくるのか分からない現状では、間に合わない可能性がある。加えて言えば、単なる避難所では隕石落下の衝撃に耐えられない可能性だってある。

「目的地の変更はしないっ!そのまま俺の家へ向かってくれ!」

『承知しました。現状の目的地へ向かいます』

 俺の家には父さんが作ったガレージ兼シェルターがある。下手に遠くの避難所に向かうよりは、こちらのほうが安全だと判断したのだ。

(頼む、間に合ってくれっ!)

 俺の回答を受けたモービルは少し速度を上げ走っていく。いつもとは様子が異なる街のなかを。

今のところ調子よく投稿していますが、ストックもあと少しなので、

これから投稿頻度が下がっていくと思います…。


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