表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界来訪譚  作者: yu-ki
13/14

13話 前へ

前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまいました…。

ゆっくりと続きを書いていくつもりなので、どうかお付き合い頂けると幸いです。


ちなみに、私の小学生時代、学校で兎と亀を飼ってましたね。とても可愛かったのを憶えています。

あの後、俺は穴を掘った。大人一人ががすっぽりと収まるほどの大きな穴を。

最初は、そこらへんにある瓦礫で穴を掘り始めた。どれだけ時間がかかったとしても良いと思ったのだ。しかしその途中で、彼女が倒れていた家の壁に大きめのショベルが立てかけてあるのを見つけた。

そして俺は、そのシャベルを使って、穴を掘った。彼女のお墓となる大きな穴を。

多分、一時間くらいかかったと思う。

その後、俺は彼女を抱え、穴の中へゆっくりと寝かせた。髪を整え、手は胸の前で組ませて、脚はまっすぐに。

そうして、彼女の姿を綺麗にした後、その上から土をかけていった。彼女の身体は、徐々に徐々に隠れていく。

気が付くと、俺の目の前には、少しこんもりとした土の山が出来ていた。俺は、シャベルを地面に突き刺し、手に着いた土を払う。これだけでは少し寂しいなと思った俺は、庭の脇に生えていた綺麗な花を摘んで、彼女のお墓の前に供えた。

そして、彼女の墓の前で手を合わせ、祈った。

「……よしっ」

しばらくの間、祈った後、俺は小さく呟き、彼女の墓を後にした。

俺はしっかりと前を向き、自分の家へと歩を進める。勿論、すべてが吹っ切れたわけではない。だが、俺がいつまでも落ち込んでいたら、彼女が悲しむように思えたのだ。それと、いつまでもあの場所に留まっていたら危険な気がした。

彼女を殺したあの犬、あの化け物が、一体だけという保証はどこにもない。それに、あそこには濃い血の匂いが漂っている。あの犬ではないにしても、他の何かが引き寄せられても不思議ではない。

そういう理由で俺は、少し駆け足で我が家へと戻った。

「風呂入りたいけど、水出ないんだよなぁ…」

家に着くなり、俺の口からは愚痴がこぼれた。さっきの戦いで汗もかいているし、返り血も浴びてしまっている。いつもなら、一目散に風呂に駆け込んでいるところだ。

「諦めるしかないか…」

俺はそう言いつつもお風呂場へと向かった。だが勿論、風呂に入るわけではない。体を拭くためのタオルが欲しいのだ。

「よいしょ」

俺は、外枠がゆがんだことで少し硬くなったお風呂場のドアを開け、脱衣所にある棚を探った。

「あったあった」

そして、綺麗なタオルを見つけた俺は、父さんの部屋に寄り道してから、キッチンへと向かった。寄り道をしたのは置きっぱなしの鞄を取りに行くためだ。

「よい…しょっと」

キッチンに着いた俺は、肩にかけていた重い鞄を下し、床に置いた。そして、手に持っていたタオルをキッチンのシンクに置き、鞄から一本のペットボトルを取り出す。

「もったいないけど、しょうがない」

俺はペットボトルの蓋を開け、シンクに置かれているタオルへと水をかけていく。その後、ある程度の水気が残るようにタオルを絞る。そうして出来上がった濡れタオルで汚れた顔や体を拭いていく。

「…はぁぁぁ、すっきりする」

汗や血で汚れていた肌がきれいになっていき、煩わしかった不快感が徐々に消えていった。

「服も着替えないとな」

俺はそう言うと、自分の部屋に向かった。そして、動きやすそうな服を選び、それに着替える。その際に、拭き切れていなかった汚れをすべて拭き切って、すべての不快感を消すことは忘れなかった。

そして、着替え終わった俺は再びリビングへと戻り、次に何をするかと頭を悩ませた。

「…やっぱり、茜が心配だな」

俺の頭に浮かんできたのは、気絶する前に通話していた茜のことだった。通話では無事に避難できていると聞いたが、今の状況がどうなっているかは分からない。それに加え、さっきの犬のこともあるし、なんとなく嫌な予感がする。

「そうと決まれば、さっそく準備だな」

次の目標は、思ったよりすんなり決まった。そして、俺はその準備へと取り掛かった。


「よし、準備完了っ」

俺は玄関で靴ひもを結び終わると、立ち上がり、気合を入れるようにそう言った。立ち上がった時の振動で、背負っているバックパックが少し揺れる。

「おっとっと…」

このバックパックの中には、食料や飲み物、サバイバル道具と言った必需品を詰め込んだ。少し荷物を入れすぎた気もしているが、重くて動けないといったことは無い。

そしてさらに、俺の腰には太めのベルトのようなものが巻かれていて、そのベルトには左右に一つずつ、何かを入れるためのホルダーがぶら下がっていた。二つあるホルダーのうち、左のホルダーには、刃渡り二十センチメートルくらいのサバイバルナイフが収められていて、右のホルダーには拳銃―所謂ハンドガンが収められている。

つまり、いち高校生に過ぎない男子がバックパックを背負い、ハンドガンとサバイバルナイフを携帯しているというのが今の俺の姿だった。それだけでも十分に異質な光景であったが、それ以上に異質な雰囲気を放っている物が、俺の肩からぶら下がっていた。

それはM4、アサルトライフルと呼ばれるひと昔前の自動小銃だった。

バックパック、サバイバルナイフ、ハンドガン、アサルトライフル。これらはすべて、父さんのシェルターで見つけた。

準備の最中、何か役に立つものが無いかとシェルターを漁っていた俺は、とあるロッカーを見つけた。少し調べてみると、そのロッカーには、異様なほど厳重なロックがかけられていることが分かった。その厳重さに怪しさを覚えた俺は、工具を使って無理やりロッカーをこじ開けた。すると、そのロッカーの中には、ハンドガン、サバイバルナイフ、軍用と思われる迷彩柄のバックパック、アサルトライフル、そして弾薬が入っていた。

ロッカーに入っていたハンドガンとアサルトライフルは、おそらく旧時代のもので、いかにも父さんが好きそうなコレクション品だった。しかし、旧時代の銃とはいっても、手入れが行き届き、とても綺麗な状態が保たれていた。これも父さんの趣味の一つだったに違いない。

おそらく、俺や妹が万が一にも触れないように、厳重に保管していたのだろう。

「セーフティ、OK。チャンバーも…空だな。マガジンも問題なし」

俺は肩にかけたM4の状態を確認し、特に問題ないと判断する。そして、次にハンドガンをホルダーから慎重に抜いて、M4と同じ確認をする。

「こっちも問題なしっと」

ハンドガンについても特に問題がないと判断した俺は、それを腰のホルダーへと戻す。はたから見れば、慣れた手つきに見えたかもしれないが、実際はそうでもない。軍人見習いとして、銃の整備は何度かしたが、実際に銃を撃ったことは無い。勿論、基礎的な知識は教えてもらっていたが、俺はまだ未成年、実技のほうは禁止されていた。

「じゃあ、行きますか」

銃の最終確認を終えた俺は、玄関のドアへと手をかけた。そして、ドアを開け、家の外に出る。

「目指すは茜の中学校」

俺はそう言って、家を後にした。そして、妹の中学校がある方向へと歩を進めた。


家を出てから、およそ十分ほど歩いた。いまのところ、順調に目的地へと近づいている。

「やっぱり誰もいないし、どこもボロボロだな…」

周囲の様子は、俺の家の周りとそう大差なかった。大半の家は崩壊し、あちこちに緑が生い茂っていた。中には見慣れない植物もあって、ここが地球ではないような、もしかしたら全部夢なんじゃないかと考えることもあった。しかし、時折、風に乗って運ばれてきた鉄の匂いが、俺を現実へと引き戻した。そして、残念なことに、皆が皆避難できたわけではないことも分かってしまった。

「ふぅ……ちょっと休むか」

体力的にも精神的にも少し疲れてきた俺は、周囲を見渡し、休めそうな場所を探す。

「お、ちょうど良さそうなとこ見っけ」

俺は、腰かけるのにちょうど良さそうな瓦礫を見つけた。そして、周囲の安全とその瓦礫の安定性を確認した俺は、荷物を足元に置いて、そこに腰かけた。

「んっーーーーふぅ」

バックパックを背負っていたからか、肩が少し凝っている。俺は、前に後ろに何度か肩を回して、凝りをほぐした。次に俺は、バックパック横のポケットに入れておいたペットボトルを取り、キャップをひねる。すると、パキッという軽い音が鳴り、蓋が開いた。そして俺は喉を鳴らし、失った水分を補給していく。

「ぷはっ……やっぱ、運動した後の水は美味いな」

俺はそう言いながら、ボトルのキャップを閉めて、バックパックへと戻した。

「スポーツドリンクならもっと美味かっただろうけど、こんな状況で水を飲めるだけでもありがたいと思わないとな」

そんな文句を言いながら、瓦礫から立ち上がった俺は、先を急ごうとバックパックを背負おうとした。しかし、俺はその直前で動きを止めた。

―パキッ

微かにだが、音が聞こえた。それは、細い小枝が折れるような音だった。

俺は瞬時に振り返り、ホルスターからハンドガンを抜き、スライドを引いて、構えた。すると、そこには一匹の兎がいた。

「なんだ…」

兎かと安心しかけたが、あの犬を思い出し、最大限の警戒態勢に入る。兎との距離は、おそらく5mから10m。兎もこちらを警戒しているのか、じっとこちらを見つめ、動かない。

じっと目を凝らすと、その兎の足元には折れた小枝が見えた。さっき聞こえたあの音は、あの兎が小枝を踏んだ音だったのだろう。そう思った俺は、再び兎へと視線を戻そうとした。しかしその瞬間、兎が地面を蹴り、こちらに駆け出した。俺が一瞬視線を外したことを感じ取り、その隙を狙ったのだろう。

「くそっ!」

凄い速度で距離を縮めてくる兎を見て、俺は焦りながら標準を合わせ、ハンドガンの引き金を引いた。だが、その引き金は微動だにしなかった。いや、正確にはわずかに動いたが、それ以上は微動だにしなかったのだ。

(しまった、セーフティ…)

そう、俺は事前にかけておいたセーフティを解除し忘れていたのだった。そうして、自分のミスによって窮地に立たされた俺は、急いでセーフティを解除する。そして、再び標準を合わせようとした。しかしその時には、兎は目の間まで迫っていた。

俺は撃つことを諦め、横に跳んだ。攻撃よりも回避を優先した。咄嗟の判断だった。なにせ俺の頭には、あの犬の攻撃が鮮明に記憶されている。小さな兎とは言え、どんな攻撃が来るか分からなかったのだ。

そして、俺は地面を転がった後、急いで銃を構えなおした。

すると、そこには宙に浮いた兎の姿があった。正確に言うと、額にあった小さな角が瓦礫に突き刺さり動けなくなった兎が、必死に手足をバタつかせ、角を抜こうとしていたのだった。

普段であれば一生懸命な姿に可愛らしさを覚えるところだが、攻撃された当事者としては、瓦礫に入ったひび割れにしか目がいかなかった。

「あ、あぶなかった…」

俺は額にかいた脂汗を拭いながら、呼吸を整え、爆速でリズムを刻んでいる心臓をなんとか落ち着かせた。一方、俺のことをビビらせた当の本人はと言うと、

「ヴゥー!ヴゥー!!」

兎とは思えないような唸り声をあげて、もがき続けていた。威勢はすさまじいが、瓦礫に突き刺さった角は微動だにしていない。どうやら、思ったよりもしっかりハマっていたようだった。

「これ、どうしよう…?」

その姿を見た俺は、一瞬絆されそうになるが、頭を振ってその感情を振り払う。

「いや、ダメダメ。こいつはあの犬と同類、化け物なんだ。決してかわいいペットとかじゃない。……ちらっと首輪が見えた気がしたけど、気のせい気のせい」

俺は独り言をぶつくさと言いながら、覚悟を決め、身動きの取れない兎の頭めがけて銃を構えなおす。

「…すまん」

俺は兎に向かって形だけの謝罪をした後、静かにハンドガンのセーフティを解除した。その様子を見た兎が今更ながら自分の命の危機を感じ取り、懇願するような鳴き声を出し始める。しかし、その鳴き声に俺の心を揺さぶる力はない。当然だ、自分の命よりも襲ってきた獣の命を大事にする奴なんていない。もしいたとしても、俺は違う。

俺は泣き喚く兎の声を聴きながら、右手の人差し指に力を込めていった。

―パンッ

乾いた銃声が辺りに響き渡り、それと同時に、兎の声も鳴き止んだ。静かになった兎からは、赤い血が滴り落ち、地面に小さな血だまりが出来ている。兎の息の根を止めた銃からは、さも仕事終わりの一服のように白い煙が立ち昇っていた。

少ししてから俺は、ハンドガンのセーフティをかけなおし、ホルスターへとしまった。そして、地面に置かれたままのバックパックを背負ってから、M4を手に取り、ガンスリングを肩にかける。

「…よいしょ」

その場で軽く跳び跳ね、バックパックの位置を整えた俺は、兎の死骸を背に歩きだした。しかし、数歩踏み出したところで引き返し、兎の死骸へと向かう。そして、兎を瓦礫から引き抜き、地面に横たわらせる。それから、俺は片膝を地面につけながら、兎に向かって手を合わせた。

「…できれば、天国に行けますように」

そして、祈った。どちらかと言えば、自分に対する気休めのような願いだったが、できるだけ精いっぱい祈った。もしも、何もせずこの場を去っていたなら、俺は人として何かを失っていたような気がするからだ。

数秒の沈黙の後、俺は立ち上がり、再度バックパックの位置を整える。

「よしっ、行くか」

自分を鼓舞するように、わざわざ掛け声を口に出した俺は、それを合図に一歩を踏み出す。そして、地面に横たわる兎を背にして、歩を進めていく。それは今までの日常との決別のようでもあった。

数時間前に目を覚ましてから、2度、いや、3度も死を目の当たりにした。これほどまでに、死を間近に感じたのは、両親が死んだとき以来だ。なんとなく、なんとなくだがこう思う。

―もう今までの日常に戻ることは無い、と。

この先の未来は、平和で安定したものではなくなった。俺はそれを、3度の死から教わったのだ。自分やこの世界の未来が、どうなるかはもう誰にも分からない。そんな不安を心に抱えている俺がいる、その一方で、絶対生き延びてやると強く心に誓う俺もいる。

まず目指すは、茜の通う中学校。唯一無二の家族との合流を目標に、俺は前へ前へと進んでいく。

異世界と言えば、角の生えた兎かなと…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ