11話 衝突
11話目です。
少し短いかもしれません
はやる気持ちのままモービルに乗っていると、時間の流れがとても遅く感じる。目的地である家までは数分で到着するはずだが、俺にはその数十倍もの時間に感じられた。まだかまだかと、心の中でつぶやいていると、モービルの速度が緩まった。
「着いたか!?」
俺は顔を上げて、窓から周囲を見渡す。すると、我が家の前の見慣れた景色が広がっていた。
『目的地に到着しました』
俺が窓の外を見ていると、モービルのアナウンスがそう告げた。その直後、モービルの動きが完全に停止し、ドアが開いた。
『警報が発令されています。安全な場所に退避してください。繰り返します……』
モービルの警告を背に受けて、俺は急いで外へ出る。一目散に玄関に向かった俺は、焦る気持ちを落ち着けながら、鞄から家の鍵を取り出した。
「くそっ、落ち着け!」
焦りから手が震え、鍵が鍵穴に入らない。電子キーであれば、鍵をかざすだけで開くことが出来るが、あいにく我が家の鍵は物理キー。こんなことなら電子キーに変えておくんだったと、俺は心の中で意味のない後悔をする。そんなことを考えているうちに、やっと鍵が刺さった。急いで鍵を回し、ドアを開く。
俺は靴を乱雑に脱ぎすてると、急いでリビングへと向かった。目的地は、キッチン。俺はそこにたどり着くと、勢いよく冷蔵庫の扉を開けた。すると、冷たい空気が冷蔵庫から漏れ出る。いつもだったら、早く締めろと妹の茜がうるさいが、今はそんなことに構っていられない。
俺は、肩から鞄を降ろし、チャックを開けて中身をすべて出した。次に、俺は冷蔵庫の中にあったペットボトルを手に取ると、鞄に詰めていった。ペットボトルを詰め終わった俺は、食料を詰めようと冷蔵庫の中を見るが、日持ちしそうなものが見当たらない。俺は諦めて冷蔵庫を閉めると、キッチンの棚を探し始めた。しっかり者の妹のことだから、どこかに缶詰とかの保存食があると考えたのだ。
「あった!」
三つ目の棚を開けると、そこには缶詰やレトルトのパックが置かれていた。俺はそれを鞄に入るだけ詰め込むと、チャックを閉め、肩にかけなおす。
「重っ!?」
予想外の重量に体が振られそうになるが、何とか踏ん張り、態勢を崩さずに済んだ。
「あぶねっ」
俺はそう言いながら、キッチンを飛び出した。鞄に振り回されそうになりながら、俺がたどり着いたのは死んだ父さんの部屋。目の前のドアを開け、部屋に入る。この部屋に入るのは、父さんが死んでから初めてだ。俺は一年前から何も変わっていない部屋を見て、懐かしい気持ちになった。
「いや、感傷に浸ってる場合じゃない」
俺は頭を振り、意識を切り替えると、肩から鞄を降ろし床に置く。そして、俺は部屋の真ん中に敷かれたカーペットを勢いよく両手でめくった。
すると、そこには四角形の小さな扉があった。それが地下シェルターへの扉だった。それは人が一人通れるかといったくらいの大きさで、収納式の取っ手が付いていた。俺はその取っ手に手をかけ、上に引っ張る。すると、扉がゆっくりと開き、下に降りるための梯子が見えた。
「よしっ」
俺は鞄を扉の近くに寄せた後、梯子に足をかけ、ゆっくりと降り始める。俺は、頭が床に隠れるくらいになると、鞄を肩に乗せ、片手と両足で梯子を下りる。少しすると、足が地面に付いた。
俺は鞄を床に置き、周囲を確認しようとするが、真っ暗で何も見えなかった。俺はポケットから携帯端末を取り出し、それに備え付けられたライトをつけて周囲を探す。すると、梯子の近くにスイッチのようなものを見つけた。試しにそれを押してみると、地下室の明かりがついた。
「うぉ、眩しっ」
俺は眩しさから、目を細めるが、少し時間が経つと目が明るさに慣れてきた。
そうして視界が確保できた俺は、再び梯子を上って、地下室への扉を閉めた。すると、扉の内側についていたバルブのようなものが自動で回転し、鍵がかかった。
「多分これでいいはず…」
幼い頃、父さんに教えてもらったことを思い出しつつ、そう呟く。このシェルターに来るのは、今回で二度目だ。一度目は、父さんに連れられてこのシェルターに入った。その時の俺はまだ幼かったため、何歳だったかまでは覚えていない。おそらく、小学生の高学年くらいだろう。そこで父さんにこのシェルターの使い方を教わった。と言っても、父さんはただ自分の作ったシェルターを自慢したかっただけなのだと、今になってそう思う。
記憶はうろ覚えだったが、その時教えてもらったことが役に立ってよかった。
「あとは祈るだけか……」
俺はシェルターの壁にもたれかかり、床に座り込んだ。やれることはやったはず、後は父さんのシェルターが壊れないことを願うだけ。しかし、心残りが一つだけあった。
「茜も避難できてるといいけど……」
俺は無機質な天井を見上げながら、そう呟いた。俺が家に着いた時、鍵は閉まっていたため、茜が帰ってきていないことは分かっていた。ということは、茜は学校にいるか、もしくは帰宅途中のどちらかだろう。あの警告の後、ビークルの中で何度も茜に電話をかけたが一切繋がらなかった。おそらくは、回線の混雑が原因だろう。
「もう一回だけ、かけてみるか」
繋がる可能性は低いだろうが、もしかするかもしれない。俺は、ポケットから携帯端末を取り出し、妹に電話をかけた。端末から聞こえるコール音が、一回、二回、三回と過ぎていく。
「ダメか…」
十回目のコール音が鳴ったところで、俺は諦め、通話を切ろうと耳から離した。そして、俺の指が通話終了ボタンに触れようとしたその時、コール音が途切れた。
「…い…ちゃ…」
携帯端末から、小さな声が微かに聞こえた。それま紛れもなく、妹の声だった。俺は慌てて、スピーカーに切り替え、携帯に向かって声をかけた。
「茜!聞こえるか!?茜!?」
すると、すぐに返答が返ってきた。
「お兄ちゃん?聞こえる、聞こえるよ!良かったやっと繋がった!」
携帯から聞こえてきた声はとても元気そうな妹の声で、俺は少し安心した。どうやら、茜も俺に電話をかけようとしていたようだった。
「茜、今どこにいる!?学校か!?」
「うん、今は学校のシェルターに皆で避難してる!」
「そうか、良かった…」
茜が無事に避難できていると聞いて、俺の胸が安心感で満たされる。これで一安心だ。
「特に怪我とかもないんだな?」
「うん!全然元気っ!あ、でもシェルターが思ったよりも狭くて、暑苦しい!」
それを聞いた俺は少し笑ってしまう。こんな状況なのに、茜はいつも通り元気いっぱいだったからだ。
「それくらい我慢しろ」
「はーい。ていうか、お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「俺も大丈夫。今は父さんのシェルターにいる」
「え、それって大丈夫なの」
俺の言葉を聞いた茜は、少し心配そうな声を出す。俺はそんな妹を安心させるように答える。
「多分大丈夫。父さん曰く、核にも耐えられるって言ってたし。…それに、ここより安心できる場所もないしな」
「そっか、それもそうだね」
どうやら、茜も安心できたようだ。
「ありがと、お兄ちゃん」
「ん?なんでだ?」
「ううん、ただお兄ちゃんと話せて元気出てきたから。…ホントのこと言うと、さっきまでめっちゃ不安だった」
茜は少し照れながら、そう言った。携帯の向こうで照れ笑いしているのが、想像できる。
「そういうことか…それなら俺だって一緒だ。めっちゃ安心したぞ、お前の声が聞けて」
「そっか、ならよかった!」
嬉しそうに声を弾ませる茜。俺は茜の笑顔を思い浮かべながら、笑った。すると、茜が何か思いついたように話し始めた。
「あ、こんな状況だし、ちょうどいいかも」
「どうした?」
こんな状況、という言葉に少し引っ掛かりを覚えたが、俺は気にせず話を促した。
「お母さんから聞いたんだけどね。実は…」
少しもったいぶりながら話す茜。俺はその言葉の続きを待っていたが、次にスピーカーから聞こえてきたのは、通話の切断を示す機械音だった。
「茜?…茜!?」
電話が切れたのだと頭が理解するのに少し時間がかかった。単純に電波障害などで、切れただけだろうと自分に言い聞かせつつ、再度電話を掛ける。先ほどと同じく、一回、二回とコール音が鳴り響く。そして、三回目でコール音が途切れた。
俺は、良かった繋がったと安心し、端末に向かって声をかける。
「茜?大丈夫か?」
「…」
「おーい、聞こえるか?」
「…」
何度呼び掛けても声が返ってこない。あ、スピーカーになってないから聞こえないだけか、俺はそう思った。俺はさっきと同じようにスピーカーにしようと端末を触るが、反応がない。画面も真っ暗で、どのボタンを押しても反応がない。
「くそっ、こんな大事な時に…」
壊れやがって、俺はそう言おうとしたが、その言葉は出てこなかった。なぜなら、突如地面が揺れたからだ。
「うおぉっ!?」
俺は突然の揺れに驚き、携帯を手放す。手から離れた携帯が嫌な音を立てて、床に転がった。しかし、それを拾いに行く余裕がないほどにシェルターが揺れていた。それに加え、シェルターの天井からは轟音が聞こえる。
「隕石かっ」
おそらくは、落下してきていた隕石が地球に衝突したのだろう。俺は、揺れに耐えながら心の中で、こう祈った。
(頼む、もってくれ!!)
しかし、その祈りは数秒と続かなかった。
「うがぁっ、頭がっ」
なぜなら突如、原因不明の頭痛に襲われたからだ。その痛みは、俺の人生で経験したことがないようなレベルのものだった。
「あ゛あ゛ぁぁぁ!?!?」
俺は想像を絶するその痛みに、頭を抱え、床に倒れた。痛みに耐えるように体を縮ませ、目を瞑る。それでも自然と声が出てしまう。どれだけ続くんだ、と思っていた時、頭痛に加えて新たな痛みが俺を襲った。
「あづっ!?」
それは、胸の痛みだった。その痛みは、頭痛とは異なり、焼けるような痛みだった。例えるなら、胸に熱湯をかけられているような痛み。人生で味わったことのない二つの痛みに襲われた俺の意識は、段々と遠のいていった。
徐々に狭まっていく視界の中で、落ちている携帯に手を伸ばす。しかし、俺の手は携帯に触れることなく、地に落ちた。
そうして、激しく揺れ、轟音が鳴り響くシェルターの中、俺は意識を手放した。
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