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④令嬢と人形、啖呵を切る


「お父様、あなたの罪…ここで暴きましょう!」

『年貢の納め時よ!!』


アタシ達は会場のど真ん中で、王族とともにルワーノを断罪するため、宣言する。


…といっても、アタシはコハクのドレスの飾りに擬態できるドレスに、またいるだけなのだけど。


そう、あれは、一か月前のことだった。


■■■■


「コハク!大変よ!」

「おじい様、おばあ様。どうしたのですか、そんなに慌てて。」

「実は…!今、王室からの使者がきて!それで、あなたに城へ来るようにって!コハク、あなたは王国の招待されたのよ!」


「えぇー?!」

『ほわー?!』


何がどうなってそうなったかはわからなかったけど、アタシとコハクはただただ驚いた。


喜ぶ祖母の傍らで、祖父が執事から小声で何かを言われていた。

祖父は一瞬凍りつくと、すぐいつもの優しい顔に戻って、コハクに言った。


「コハク、すぐにここを離れ城に行こう。私達も共に行く。」


祖父の提案に祖母は驚き、言った。


「え、今から?そりゃあ早くてもいいと…思うけど…」


祖父の表情は、さっきと同じ表情のままだが、祖母は何かを感じたのだろう。

すぐにコハクへ向き直った。


「…そうね!それがいいわね!

さっ、すぐ支度してちょうだい!コハクも準備を始めて!私も手伝うから!」


それからは慌ただしかった。

長期旅行するのかと思うほどの荷造りをして、コハクは祖父母とともにすぐ馬車へ乗った。


コハクはそんな中でもアタシを持って行ってくれて、アタシはコハクの膝の上にちょこんと乗った。


後から聞いたところ、あの時もうすでにルワーノが手配した刺客が来ており、イズモからその伝言を聞いたシユが祖父母にディンとともに掴んだルワーノの悪事の証拠とともに、すぐ知らせたらしい。


イズモを含めた護衛達が刺客を撃退している間、コハク達は逃げ出し、シユとディンはルワーノを欺くためアリバイ工作をする。


そして、ルワーノが雇った刺客に、イズモ達護衛が変装し成り代わり、虚偽の報告とダミーの遺体をみせる。


その時はそんなことアタシ達は知らなかったので、祖父母とともに馬車に揺られた。


(ちなみに王室にコハクが招待されたのは本当だった)



「コハク」


祖父はゆっくりと語り出した。


「今からお前に話すことは、酷かもしれない。けど、聞いてくれ。」


コハクは頷いた。


■■■■■■


「王よ、どういうことですか?!」


状況が呑み込めていないルワーノは困惑する。



「うん?


ああ、貴殿の御息女が書いたレシピ本が素晴らしかったので、王国の食文化確立に協力してほしいと思って、しばらく城に滞在してもらっているのだ。


貴殿や皆に何も言わなかったのは悪かった。


なにせ…貴殿は王である我を、長年欺いてきたのだからな。

シユ・デュモッセ伯爵夫人とともに時間をかけて調べあげ、証拠が揃うまで慎重に事を動かしたかったのだ。


貴殿の罪状は次の通りだ。


一つ、王室直属の輸入商である立場を利用して、本来王室に納めるべき品や税を不正に隠し、私的に利用したこと。


二つ、我が王国の友好国である島国所有の会社の機密情報を、敵国に漏洩していたこと。


三つ…我が従兄の婚約者であり、貴殿の姉を毒殺したことだ!」



王の言葉に会場がどよめく。


ルワーノがコハクを暗殺しようとしていたことは、コハクの今後を考えて王はふせてくれた。


王様グッジョブ!


会場がざわつき、その場にいる全員がヒソヒソと話し始めた。


「え…たしかデュモッセ伯爵夫人って、友好国の島国の出身よね?

友好の証としての婚姻だったでしょうに…あろう事か、夫人のご実家が経営している会社の情報を敵国に売るなんて、最低だわ!」


「いや…それはあちらの国の会社に落ち度があったんじゃないか?」


「違うな。我が国の輸入品は、あちらの国の会社のものも多い。それらを私的に利用していることを誤魔化すために、あちらの会社の輸出品なか過失があったよう装い、敵国に情報を売って細工していたんだろう。」


「私的に利用って…まさか、愛人やその子どもに貢いでいたってこと?!」


「というか…レーナ令嬢暗殺の疑惑の噂って本当だったの?」


会場は憶測で溢れていった。

まぁ…だいたいあたっているけれど。


「貴殿が私的に利用していた金銭の用途に、ユーリ・デュモッセ伯爵令嬢へ買い与えていたものが入っていたのは本人にも確認済だ。


その事に気づき、デュモッセ伯爵夫人に相談した勇気を讃えて、ユーリ・デュモッセ伯爵令嬢は辺境の地へ追放処分とする。」


ユーリの処分を聞き、ルワーノは青ざめる。


「そんな!ユーリは関係ありません!私が勝手にやったことです!」


「いいえ…お父様。お父様が私とお母様へ与えてくれた様々な品が、不正に入手されたものとは知らなかったとはいえ、私にも罪があります。」


ルワーノの弁明を、ユーリは一蹴した。


ちなみにアタシが今転移しているロップイヤー人形は、奇跡的に不正に入手されたものではなかったし、真っ当なお金で買われたものだったらしい。


『ロップイヤー人形のプイは没収されなくてよかった〜』


アタシがそう言うと、コハクはアタシをそっと撫でてくれた。


一方王は従兄に目配せをし、従兄はルワーノに詰問した。


「…デュモッセ伯爵よ。なぜ、私の婚約者レーナを殺したのだ。」


王の従兄はゆっくりとルワーノに問う。


「ご、誤解です!姉のレーナは、病死で」

「王室の調査を信じられないと…?」

「い、いえ…その、なぜ今になってと思いまして」


『んも〜白々しいやつ!!』


アタシも昨日コハクとともに、馬車の中でルワーノの悪事の証拠をつかんだこと、そして叔母の病死が毒殺だったことを聞かされた時は驚いた。


これから王室に向かうから…ということで、そのまま祖父母は、シユから聞いた自分の息子の悪事、娘が毒殺された証拠をコハクに話したのだ。


王の従兄は、ルワーノに告げた。


「前から不思議に思っていた。


病弱だったとはいえ、レーナは死ぬ数日前まで元気だった。

それなのに…突然死んでしまって…

王室直属のものに調べさせても、不審な点が見つからない。


それでも…ずっと調べ続けた。



貴殿への疑惑が強くなったのは、レーナの生き写しのコハク令嬢に会いたいと冗談で言った時に、不自然すぎるほどはっきり断った時だ。


周囲に聞けば、コハク令嬢には辛くあたるという。


貴殿は怖かったのだろう?

死んだ姉が自分の娘として生まれ変わって、自分に復讐したのではないかと、そう思って。」


そうなのだ。

王の従兄の言う通り、何度もコハクを暗殺しようとしたのは、ルワーノがコハクを恐れていたのだろう。


王の従兄は続ける。


「いやはや、貴殿には出し抜かれたよ。

まさか、王室内部の人間を使うとはね。


私とレーナの婚約に反対していた父を言いくるめてアリバイ工作や証拠隠蔽の協力者になってもらった上に、今回の王室献上品流出にも、そのことをネタに脅して協力させられたと父から聞いたぞ。…笑えるじゃないか。


流出事件を懸命に貴殿の夫人とご子息が調べていたのを知って、私も調査に協力させてもらったんだ。


貴殿の隠し事がわかるんじゃないかと思ってね。


おかげでやっとレーナの死の真相がわかった。優秀な妻と息子を持ったこと、誇りに思うがいい。」


流れるように語りかけた後、一呼吸おいて、王の従兄はもう一度問い詰める。


「さぁ いえ、なぜレーナを殺した。私の父の処分は牢獄行きと決まっている。


私は真実が聞きたい。多少無礼な言葉でも許そう。

ルワーノ・デュモッセ伯爵よ、話せ。」



王の従兄の追求に、ルワーノは観念して口を開いた。



「姉の…レーナは元々病弱で、王室の一員になるには技量不足、女としての価値も疑問視する点がございました。


いくら貴方様が社交界で一目惚れした姉を愛し、進めた婚約だったとはいえ、貴方様のお父様もレーナが王室が招き入れるのに相応しい女だとは思っておりませんでした。


だから私は…!貴方様のために!この国の未来のために!姉を処分したのです!」


ルワーノは開き直った。


「ルワーノ!お前はレーナが王室入りすることに嫉妬しただけだろう!」


神経を疑う言葉に、ルワーノの父として、祖父は叱りつける。


「父上は、レーナが本気で王室の女性になるに相応しいと思っていたのですか?」


「あの子の体はとても弱かった…けれど、教養や覚悟は人一倍あった!きっと素敵な王族公爵夫人になっていたはずなのに…!お前は!」


「戯言ですね。私はデュモッセ家の汚点を始末しただけです。王室にあの穢れが広まる前に止めることができたのですから、私は本来称えられるべきだと思いますが。」


もはや狂気だった。

ルワーノの発言に、祖父は言葉が出ないようだった。


「…私の育て方は間違っていたというの?レーナと同じくらいの愛情を与え、育てたつもりだった。

どうしてそんな考えを持ってしまったの?」


母である祖母の問いかけに、ルワーノは答えなかった。


「王よ、この者を斬首刑に処することを希望いたします…!」


王の従兄は、行き過ぎていると自覚しながらルワーノの刑を進言した。


「…デュモッセ家の領地、爵位を剥奪する。

ルワーノ・デュモッセの処分はいったん牢獄行きだ。斬首刑になる可能性は否定しない。

何かいいたいことはあるか?」


王はルワーノに尋ねた。


「私の処分については承知いたしました。しかし…私以外のデュモッセ家の人間は?一族は今後どう生きていくのです?特にそこにいる、できそこないは爵位がなくなったらなにもできませんよ?そのような処分を下してよろしいのですか?」


ルワーノはコハクを指さして言った。


『コハクを甘く見るな!』

怒るアタシをなでながら、コハクは言う。


「お父様、ご心配には及びませんわ。


私は王様の命令により、この国の食文化をよりよくするため、王室の研究チームの一員となり、国に貢献することになりましたの。


ふふ…。お父様が私を毛嫌いしてくれていて良かったです。


…お父様の罪が明るみになるまで私にできることは、お父様の気を逸らすことだったので。


実際、私の本の出版や共同著作を辞めさせるのに夢中になって、お母様やお兄様が、お父様の不正を調べていることまで手が回らなかったでしょう?」


『どうだ、まいったかー!』


長年の暴言により染みついたルワーノへの恐怖はそう簡単にぬけない。それでもコハクは、ドレスの裾を握りしめながら言い切った。


『コハク、アタシはコハクを誇らしく思うよ。』


コハクは少し笑ってくれた。


コハクの言葉に続くように、兄のディンもルワーノに宣言した。


「俺のことも心配いりませんよ。もちろん母様のことも。ご当主さまが気づかなかっただけで、デュモッセ家の人間はそんなにやわではないので。」


ディンの言葉に、ルワーノは顔を赤らめ、ルワーノの妻のシユは冷たい視線を送る。


「一族の皆様のことは私が責任を持って対応いたします。あなたは牢獄で自分のしたことを悔いてください。」


ルワーノは家族に見放された。

ならばとユーリに助けを求めるが、ユーリはルワーノの顔を見ない。


「ふざけるなよ…私はルワーノ・デュモッセだぞ。

島国の貴族風情が私に歯向かうなど…私、私はぁぁあ」


ブツブツと呟くルワーノに、なぜだかアタシは人形の身には感じないはずの悪寒がした。


『…あれ?』


アタシの言葉に反応し、コハクはアタシがいる胸元を不思議そうに見る。


ゲーム本編では、コハクは恨みを抱え怨霊になった。

娘がそのポテンシャルを持っているなら。


その父親にだってポテンシャルは、ある。


『ッコハク、逃げて!!』

「えっ」


瞬間、コハクとコハクのドレスにいたアタシは宙に浮く。



「ゔぉぉぉおおおおおお!」


気持ち悪いルワーノの雄叫びが…響き渡る。



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