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兵士教育係:アルト


 今日、騎士団から報告があった。

僕が指導していた兵士たちが、大勢死んだとのことだ。

理由は前回と同じで、危険分子である転生者との戦いによるもので、

今回も兵士だけでは対処しきれず、死神が現れ事態は鎮圧したらしい。


業務が終わり、夜の宿舎でいつものように窓の前に立ち、

空を見上げ黙禱を捧げた。そして、世界を睨んだ。

彼らに罪はない。彼らはこの国のために身を捧げて尽くしてくれた。

たとえ僕の指導が悪かったとしても、彼らは一人一人意思を持っていた。

守るべきもののために心を熱くしていた。

なのに。

なのに彼らは、ふざけた奴らに殺されていく。

意思の欠片もない、力に酔うだけの愚か者に、殺されていく。

僕は耐えられなかった。

国を守るためには出撃せざるを得ないのだが、

向かったものは皆、圧倒的な力にねじ伏せられて死んでいく。

挙句、必ずと言っていいほど死神が現れ転生者を鎮め、

騎士団の中では兵士たちの活躍より死神の存在が棚に上げられる始末だ。

どうして。

彼らは、死ぬことを覚悟して民を守ろうとしていたのに。

死ぬと分かっていても守ろうとしていた彼らの、強い、志は_____


「うぉぉぁぁぁぁああああああ!!!!!!」


僕は悲しんでいた。

彼らの報われぬ勇気に。

奴らの圧倒的な力の差に。


僕は(いか)っていた。

彼らを強くさせられなかった自分に。

野蛮な転生者共が現れるこの世界に。

彼らをまるで消耗品としか見ていないアリティ王国に対し。


何度僕は叫びを上げただろうか。

それだけ抑えていた感情が胸の中にあって、

それが爆発して、こうして声に、自分に出ている。

ふと我に返り、自分の口をすぐにふさぐ。

ふさいだ感情は頭や体を駆け巡り、やがて吐き気を催した。

耐えられなかった僕はトイレに憤怒と悲哀と憎悪を吐く。

おかげでスッキリしたが、嗅覚が『そんなわけない』と知らせてくれた。


……布団に座り、改めて今を見つめなおす。

僕はアリティ王国の騎士団の一般兵だったが、

支給された武器であるスタンピストルで転生者を仕留め続けたために、

どこからか入隊してきた兵士たちに扱いを教える教育係になった。

僕の武器の腕前は騎士団の中でも最優秀と言われ、

国そのものを揺るがす事案でしか出撃は認められなくなった。

僕が前線に出れば、彼らを一人でも多く助けることができるはずだ。

止められても僕は行こうとした。だが、なぜか行かせてはくれなかった。

僕は彼らにとっての切り札で、失いたくないのだろう。

それでも僕は彼らを救おうと騎士団から飛び出そうとしたが、

『命令に従わなければ死刑』と脅しを受け、拘束された。

それ以降、僕は常に誰かに見られている。

反抗的な行動を防ぐように監視を受けている。

今だって窓の外の下に。扉の外に。

僕が気づきやすいように近くにいるのだ。

抗いたくても抗えない。

抗えば抗う前に殺される。

彼らを救う前に。


「ふっふっふ、見つけましたよアルトさん!」


うつむいていた顔の前に、謎の板が置かれていた。

その板の中には、水色の髪をした女性が描かれていた。


「……なんだ?」

「きっとアルトさんはこう思ってるでしょう!

 どうすればアリティ王国の在り方を変えることができるのか、と!」

「いや、まずお前はなんなんだ。というか、んん????」


動いている。まるで人間かのように。な、なんだコレは。


「貴様!誰と話している!」


扉の外にいた兵士がドタドタと部屋に入り込んできた。

スタンピストルを向けられ抵抗するなと促されるが、

そもそも話す意思があって話していたわけじゃない、この板が____


「アルトさん、犠牲になり続ける兵士を見過ごせませんよね?」


……。


「どこだ!? なっ!? な、なんだそれは!?」

「私も同じ意見です。『死』は見ることも遭うこともいやですからね。

 でも、自分の意志とは関係ない誰かさんのせいで死んじゃったりするのはあまりにもひどすぎます!」

「どけ! 余計なことを吹き込むな!!!」


彼は僕を突き飛ばし、板に向かって引き金を引く。

だがその瞬間、兵士が顔を上げ痙攣し、その場で倒れた。

板がスタンピストルの光線を跳ね返したのだろうか?


「だいたい、悪いのはこの人たちです! プンスコ!

 この人たちがしっかりしていれば、平和にぃ……は、ならないですが、

 すくなくとも、仲間もみんな、守るべきものは守ろうとするはずなのです!

 アルトさん! 一緒に世界を変えましょう! そうすればみんな幸せになるはずです!」

「ちょ、ちょっと待て、何を言ってるんだ?

 君が何者か分からないのに、急にそんなことを言われても。」

「あ、自己紹介が遅れましたね、エヘヘ。

 私の名前はハジメ! リンカネーション・レジスタンスのAIです!」

「……リンカネーション・レジスタンス?」

「すみませんが、世界への抵抗の意思が垣間見えちゃったので、

 あなたを私たちの秘密基地までテレポートさせていただきますね!」

「ん? まて!それは____」


板の中の女性は笑顔で僕に掌を向け、まばゆい光を放ってきた。

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