狂暴処理班:シガミ
「波ァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
青空に向かって伸びていく青い光線と、
どこかの格闘家のごとく道着を身に着けた男の姿。
私はあの技を知っている。まぎれもなくヤツは転生者だ。
「ッ、いったん下がれ! コイツは強さのレベルが違う!」
「んおぉ? まーだ始まったべかりじゃねぇか??
ほらかかってこい! おめーたち俺とたたけぇてぇんだろ?」
「バ、バケモンだぁ……!! 逃げろぉ!!!」
「んじゃ、オラからいくぞ!!!!」
どこかで聞いたような訛りで、彼は兵士たちを蹴散らし始めた。
誰から見ても圧倒的な戦力差であり、これは戦いとは呼べない。
一方的な殺戮で、周辺にはぐちゃぐちゃになった肉片が転がっている。
彼の放つパンチは兵士の体を砕き、まるで花火のように血が飛び散る。
みたところ、いつものように兵士は転生者を確保しようとしたが、
理不尽さによって怒りが湧き、暴れ、それを静めようと手を出したものの、
それが逆に彼のワクワクにつながり、返り討ちにあっているのだろう。
「も、もう駄目だ……この世界はもう……。」
近くには、惨状を目の当たりにし絶望に浸った住民が、頭を抱え地面に伏していた。
「大丈夫だ、私が何とかする。あなたはここを離れた方がいい。」
私はその住民の前に座り込み、優しい声で彼の頭をなでる。
少し落ち着いたのか、頭を上げて私の顔を見つめてきた。
だが途端に表情が青ざめ、その場で飛び上がったと思えば、
死に物狂いで遠くへと走り去っていった。
「お? 強そうなやつみーっけ!!! おめぇとなら楽しめそうだ!!」
気づけば彼しか気配を感じなくなった。
先ほどまでいた兵士たちは皆、死んでしまったのだろう。
私は立ち上がり、黙とうをささげた。
彼らだってやりたいことがあったのだ。
彼らは平和のために生きていたのだ。
私たちと変わりはない。その事実だけは忘れてはならない。
「……楽しそうだね。そんなに人と戦うのが好きなのかい?」
「おお! おらつぇーやつと戦うとワァクワ______」
私はすかさず、自分の武器である鎌を振り下ろした。
身体ではなく口を動かしていた彼には隙が見えた。
こんな戦闘狂は騒ぎになる前に決着をつけた方がいい。そう思ったのだが。
「おっめぇやるなぁ! あやうくおっちんじまうとこだったぞぉ!」
やはり、瞬間移動を使うみたいだ。
私は彼のパンチを背後から喰らい、近くの壁にたたきつけられる。
そのまま地面に落ちるかと思ったら、素早く彼からアッパーをもらった。
空へと飛んだ私は鳥の気分になったが、
彼は自分の両手を握り、まるで私の腹にナイフを刺すかのように鋭く殴る。
内臓が悲鳴を上げながら、私は勢いよく地面に落下。
くぼんだ地面に埋まる私を、彼は空でニヤついていた。
「んだぁもうおわりか? おっめぇまだ本気出してねぇだ____」
油断していた彼の横腹に、私の鎌が突き刺さった。
空に飛ばされたときに手放していた鎌を警戒をしていなかったみたいだ。
鎌はいわば私の半身で、意思通り自由自在に動かせる。
殴りや蹴りが効かない私をエサにできてよかった。
「____あッ、お、おめ、きたねェぞ____」
『やられた!一本取られた!』ではなく、単純な憎しみを強く感じる顔だ。
私は憐れみながら、鎌と、鎌に突き刺した彼の魂を引き抜く。
彼は操り人形の糸が切れたかのように、変な体勢で落下する。
起き上がりながら土ぼこりを払って、鎌を掴んで彼の魂を覗き見た。
「……強く、なりたかったのかな。」
なにかのキャラになりたい、という理想は危険だ。
元々の自分とキャラを折り合わせた、別の何かになってしまう。
その通りに創作されたものは完璧だが、自分たちは完璧なんかじゃない。
文字通り自分を見失う。その結果、人格が壊れる。
憧れたものにそのままそっくりなれるわけがない。
どうがあがいても”自分”が混ざってしまうものだ。
「悪いけど、これは君には似合わない。」
私は魂に手を突っ込み、彼の理想を引っこ抜いた。
強いオレンジ色だった魂は、すこしか弱い水色になる。
抜いた理想は神々しく光っていたが、すぐさま蒸発して消えていった。
それを確認した私は、魂を刺したまま彼の横腹に鎌を突く。
彼は息を吹き返した。過呼吸になりながら空を仰ぎ見たと思えば、
「お、俺は……いったい、なにを……。」
自分のしたことに後悔を感じ始めたのか、すぐに気絶してしまった。
大量殺人、建造の破壊、そして自分の喪失。
認めたくない記憶が押し寄せると疲れてしまうもんだ。
私は彼を抱きかかえ、その場を後にしようとする。すると。
「!? あ、アイツは……!! 死神が出たぞォォォ!!!」
事態の状況を確認しに来たであろう兵士が、私を指さし叫んだ。
叫ばれるたび前世の学生時代を思い出し、発言者に応える。
「魂、抜き取られたいの?」
笑顔を見せると兵士は恐怖し、背中を見せて逃げて行った。