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ピックアップ・ボーン


________________________________


転生者を確保し、どこかに連行しているアリティ王国だが、

ついに、その連行場所を突き止めることが出来た。

彼らはテレポート魔法を用いてどこかへ移動していたのだ。

跡も残さず光も出さず、まるで神隠しのような独自の魔法により、

死角の多い場所や、故意に密室を作っては追跡者の目を欺いていた模様。

兵士の持つスタンガンのような形状の道具がトリガーだ。

転送範囲は意外にも広く、張り付くように追っていた自分も転送された。

兵はまだ自分のことに気づいていない。

この場所の詳細などが分かり次第、また連絡する。

________________________________


無事に戻れるかが問題だが。


メールを送りながら、頭で不安をぼやいた。

いまのところ誰にも気づかれずにいるものの、

あのスタンガンを盗み元の場所に戻ろうものなら、

兵の中で騒ぎが起こるはずだ。

誰も入り込めなかった王国の秘密に入ろうとしているんだ。

もし気づかれたら、警備も強化され中枢の侵入も難しくなるだろう。

なおかつ転生者が侵入したという事実により、

本格的に彼らも、自分たちの組織を突き止めようと動くかもしれない。

ハチの巣に忍び込んだような気分だ。

見つかれば終わり、跡を残せば終わり、慎重に行動せねば。


「……あのぅ、ここ、なんなんですか?」

「口を慎め。」

「えっ、あ、あの……。」

「黙れ。」


目の前で連行されている少女は不安そうな顔をしている。

そりゃそうだ。転生して早々、兵士に捕まるなんて困惑するだろう。

かわいそうに。

だが、自分は君を助けることはできない。君はおとりのような物だから。


「えっ、こ、これは……。」

「さぁ、入るんだ。入れッ!!!」

「あのっ!? 私なにかしましたか!?」

「転生者は全員、国家反逆罪の容疑がかけられている。

 しばらくそこでおとなしくするといい。脱走など考えるなよ。」


牢にぶち込まれる彼女を横目に、自分は他の牢の様子をうかがう。

やはりというか、この牢獄は転生者を収容する場所のようだ。

服装といい、転生したてのヤツは分かりやすい。

そのせいでコイツらの餌食になってしまっているのだが。


「鈴木コウスケ、これよりウソ発見器を使い貴様の審議をする。」

「は、はぁ……。」


彼女が入れられた牢の対から男が連れ出される。

ウソ発見器。尋問にはちょうどいい代物ではあるが、

もしそのウソ発見器が正常に機能しているのなら、

彼らも含め、この国に転生者が解放されていると思うのだが。

疑問に感じた自分は、兵士たちについて行き、事の成り行きを見守る。


中世の世界とは思えぬ白い廊下をしばらく歩き、

彼らは重い扉を開け、妙な機械が置かれている部屋に入った。

中心には、ヘルメットのような何かと、電気椅子。

拷問部屋にしては大きすぎる間取りで、大げさな機械がおかれている。

どう見ても、この世界の技術ではない。


「……あの、これどうみてもウソ発見器じゃないんですけど。」

「我々がやっとの思いで完成させたのだ。さぁ座れ。」

「は、はぁ……。」


彼は椅子に座らされ、手足を拘束される。

そして頭にヘルメットのようなものを被せられた。

今から拷問でもされるのだろうか、あるいは処刑だろうか。

それにしては手が込みすぎているように見える。

間違いなくよくないことが起こると確信していても、

自分は主人公などではないので、助けようとは思わない。

今回は調査が目的だ。救助ではない。


「それじゃ始めますよ。

 ちょっと痛いかもしれませんが我慢してくださいネ~。」


白衣を着た老人がやってきて、

機械から離れた操作盤の赤いレバーを降ろす。

椅子がバチバチと電気を帯び始め、機械が動き始める。

彼は苦痛の悲鳴を上げながら、動かない体を震えさせる。

周りにいた兵士や老人は機械の様子をジッと眺めていた。

まるで公園の噴水を眺めるかのように、静かに。

彼の叫びに耳を傾けるだけの異様な光景がそこにはあった。


しばらくすると、機械がゴウンゴウンと音を立て始めた。

何かのメーターのメモリの上昇と共に蒸気が噴き出す。

なにが起こっているのかと機械ばかりに目を取られ、

彼のヘルメットに水色の粒子がまとわりついていることに気が付かなかった。

それと、彼は動きもせずにぐったりしていることも。


「こちら”分離”できました。」

「ほう、意外と根性無しのようじゃな。」


兵士と先ほどの老人の声が聞こえたと思えば、

機械の音は徐々に小さくなっていった。

操作盤を見れば、赤いレバーが上げられている。

まて、分離ってなにを分離したんだ?

そう思い機械の傍を見ると、ピンク色の水晶を眺める彼らがいた。


「うーむ、やはり弱弱しい。コイツの能力は?」

「取り調べによると……モテモテになる力を得たとか何とか。」

「なんだそれは!! ぜんぜん惚れもしなかったぞ!!!

 まぁいい。状況下によって発動するものかもしれん。鑑定にまわしておけ。」


……まさか。

そんなことができてしまうのか。

自分の考えが正しければ、彼らはとんでもないことをしている。


「まだ息があるな、よし。こいつを教育係へまわせ。」


兵士が椅子に座っていた彼のヘルメットを外すと、

涙にぬれた彼の瀕死の赤い顔がうかがえた。

目を虚ろにしながらも生きているようだが、動く気配がない。

コロコロと音が聞こえると思えば台車がやってきて、

兵士は彼を転げ落ちない程度に雑に乗せ、扉の外に連れ出されてしまった。


「兵士を増やすために出力を抑えているとはいえ、

 一人にここまで時間を費やしていると牢の数が足りんぞ。」

「まぁまぁ、そこは上がうまくやってくれますよ。」

「ふん、アリを水を突っ込ませるような真似をする奴らは信頼できん!」

「そのおかげで転生者の世論は下がるわけですし、いいじゃないですか。」


彼らは何を話しているんだろう。

いったい、なにをたくらんでいるんだろう。

言葉の欠片を拾い上げ、彼らの目的を突き止めようとする。

だが、それが致命的なことだった。

自分は耳を傾けすぎて、気が逸れていた。

そもそも、それは見つかるはずもないと思っていた自分の慢心だった。


「やぁ侵入者。まさか君が見えないとでも思ったのかい?」


背後から聞こえたその声を最後に、自分の視界はまっくらになった。


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