保護担当者:シノブ
この世界における転生者は、嫌われている。
ウワサによれば、今世間を脅かしている魔王は転生者で、
誘拐や窃盗、建物の破壊や殺人などの犯人の内7割は転生者で、
世界を裏から支配しようとしているのが転生者とのこと、らしい。
アリティ王国、この世界で一番権力を持つこの国は、
今日も危険分子になりかねない転生者を捕獲している。
捕獲された後の転生者に関しては、誰も分からない、らしい。
だが、連れていかれた転生者が数年経っても姿を現さないことから、
王国のどこかで、処刑されているんじゃないかというウワサである。
……。
どうしてそんな世の中になってしまったのか、私は知らない。
この世界のことをよく知らないまま、私は今日も仕事をしている。
「シノブさん、今日も転生者の保護、おつかれさまでした!」
「……ああ、ありがとう。」
「……シノブさん? どうかしたんですか?」
「どうしたら私たちは自由になれるんだろうかと、考えていた。」
「てっとり早いのは、この世界にいる人たちを消し去ることですけどね。」
「君も、アイツらと同じことを言うんだな。」
「ええ、魔王とその連中はともかくとして、
善悪関係なく消し去ろうとするのは許されないことですからね。
私たちの存在そのものが『罪』みたいな扱いになっちゃってますし。」
存在そのものが罪、か。
なぜ私はこんな世界に生まれて来たんだろうか。
ここが死んだ先に生まれる世界であることが受け入れられない。
これならまだ地獄の方がましだった。
明確に罪が裁かれるのならいい、ここはそうじゃない。
先に生まれて来た奴らの罪滅ぼしなんてしたくない。
だが、このままでは私たちは嫌われてばかりだ。
嫌わらないようにするためには、生きるためには、
この世界に元から居た人たちに許されなければならない。
「……私たちは、なにも悪くないのにな。」
「はい。何も悪くないです。悪いのは悪いことした人だけなので!
何も悪くなく生まれて来たみんなを、また明日も保護しに行きましょう!」
スマホの中に映る"ハジメ"は今日も笑顔だった。
「ああ、明日も頑張ろう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……オッホウ……悪くない……。」
コイツはたぶん、悪い奴だ。
この男、先ほどから私の胸ばかりを見つめている。
状況がマズくなり抱きかかえて逃げているものの、
なんだかその辺に放り投げたくなってきた。
「逃がすなァ! 組織の連中だァ!!!」
後ろからはアリティ王国の兵士たちが走ってきている。
道を歩く住民のおかげで乱射はせず、一発で仕留めようとしている。
自分の素早さで回避できているためいまのところ問題はない。
あとは、今日の保護スペースまで移動さえできれば_____
「待っていたぞ! 忍者女め!」
道幅に大きく兵士が広がっており、
その中心にはいつものゴツイ男が仁王立ちで立っていた。
このままでは後ろからの兵士で挟み撃ちになってしまう。
なので私は屋根の上まで跳躍して、家々を駆け始める。
「なっ、オイ!! 逃げるな卑怯者がッ!!!」
今日は簡単に追手を撒けそうだ。
毎度、私にとって回避しやすい作戦を練ってくれてどうも。
「あの、ずっと疑問なのですが、
どうして俺は、おひめさまだっこされているんですか?」
「……私がそうやって抱えたからだ。」
「もしかして、俺に、ひとめぼれしちゃったぁ?」
「私はしてないが、さっきの白い奴らはゾッコンだったぞ。
ハーレム気分を味わいたいのなら戻ってもいいぞ? 死ぬかもしれんが。」
「……ごめんなさい。」
鋭く睨み圧をかけ、男を黙らせた。
今日も変な奴が来たものだ。毎度、相手をするのが面倒になる。
それでも、これが私の仕事なのだ。
おかしな奴らに追われるおかしなヤツを組織に引き渡すのが、
私の仕事であり、私の、現状の、生きる意味である。