表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/38

とある同級生


「相沢、ちょっと来い」


 俺は担任の男教師に呼ばれ彼と共に職員室へと向かっていた。


 この担任の教師は体育教師をやっているせいか、かなり体格が良くゴツい。

 うちのクラスが先生に弱いのも、この教師に威圧感があるからだろう。


「何で呼ばれたかは分かるか?」


 見た目に反し、彼は穏やかに俺にそう問いかけた。


「……いえ」

「お前、進路希望先は京都自衛指導高校だったな?」


 京都自衛指導高校……要は俗にいうダンジョン高校だ。


 一流高校とも呼ばれ、全国各地にあるこのダンジョン高校に入れるかどうかで、かなり将来は変わってくるとも言われる。



 他の有象無象の高校よりダンジョン高校の価値が圧倒的に高くなっているのは、一重にシミュレーションルームを所持しているからである。



 今や、国が所持するシミュレーションルームの数が国力の強さに繋がる、と言われるほどシミュレーションルームは貴重なものである。過去には実際にシミュレーションルームを奪い合う戦争が起きているほどだ。



 まず、値段は数十億は下らないし、そもそも個人がシミュレーションルームを所持するのは法律で禁止されている。その為、かなり厳しい審査を通らなければシミュレーションルームは所持できない。



 まあ現在開発が進めれている小型シミュレーションルームはシミュレーションルームとは比べ物にならないほど価値は低いものの、個人も所持できるようになっているのだが。


 さて、ともかく。

 シミュレーションルームが使えると言うのはかなりのメリットは多岐に渡る。



 軍事利用、民間が迷宮災害時などに自衛できる手段、その他諸々である。



 日本では高校の時に、シミュレーションルームで自衛試験を突破しなければならないという義務がある。

 


 が、その為の訓練をしたくてもシミュレーションルームを所持していない学校では、そんな事は授業内容に組み込めない。



 そのため、ダンジョン高校以外の生徒達は試験を通過する為に数ヶ月ほど週末を奪われ、シミュレーションルームを借りる為に他校や公用施設に先生と出向かねばならないという苦労があるのだ。


 当然、その一定期間の間は生徒や教師にとっては地獄である。しかも授業の一環で高校を卒業するにも必須のことからサボれない。



 その為、ダンジョン高校への入学はとんでもなく倍率が高い。



「はい、確かに俺の進学希望は京都自衛指導学校ですが……何か問題でも?:

「 ああ、問題だぞ。お前が二年の頃だったら支持できたかも知れないが……お前、最近成績が落ちてるだろ」

「……はい」

「少なくとも成績だけ見れば、お前では厳しいぞ?」


 ダンジョン高校には、筆記試験だけでなく実技試験も項目に入る。


 とはいえ、筆記試験の影響は多いし実技試験の為にダンジョンに潜る人など稀なので、殆どの人が成績を上げようと努力している。


「分かっています」

「まあ、お前は運動も出来るし勉強も巻き返せるかも知れないが……進学先は京都だろう? どうするんだ? 寮に入るつもりか?」

「……そうしようと思っていますが」

「なら、より厳しいぞ。何せあそこは上位者から優先的に入寮していく。枠にも限りがあるからな。……考え直した方が良いんじゃないか、相沢」



 厳しいことを言われたな、と浮かない頭で思いながら、俺はその言葉を聞き届けた後職員室を後にしたのだった。




**


「おはよ〜」


 寝不足の目を擦りつつ、俺は教室へと入っていた。


 昨日は探索していたので、体が未だに軋む。筋肉痛で痛む体に耐え、俺は席に座った。迷宮に潜り始めてから一ヶ月半。計九回か、とふと感傷に耽った。

 

 迷宮の中では命の危機を何度も感じたのに、楽しかった。

 

 だからこそ、今が退屈で仕方がない。

 

 スマホで日程を確認するが、やはり何度見ても日付は変わらないし次に自分で予定を入れた探索日まで後三日もある。


 すると、足音が聞こえた。

 誰が来るのかを察しながら、俺は静かにため息をついてスマホをしまう。


「おい相沢テメェ!!課題の答えメールで送ってくれるって約束したじゃねぇか!!何で送ってくれなかったんだよ!!!」

「ごめん。寝落ちしてた」

「ざけんな!!?」


 クラスメイトの一人とやり取りを交わす。

 俺は相手の顔をぼんやりと捉えながら、どこか宙に浮いたままの心で何となく答えていた。


「あぁ憂鬱だわー。取引条件としてお前にジュース奢ったのに、約束破られるなんて思わなかったわー。相沢最低だわー」

「そうだぞ相沢」

「死ね」

「ストレートな悪口だなぁ。仕方ないからまだ時間ある内にとっとと写しなよ」


 そう言って俺はプリントを差し出した。


 それにワラワラと群がる三人。しかし光景に案外俺は呆れを覚える事もなく、ただどうでもいい程に興味がわかなかった。


「おいまさか君ら全員やってない訳??」

「そうだが?」

「だから援護射撃したのか卑怯者どもめ」


 揶揄うような演技で、嘲笑うようにそう突っ込む。

 予想通りの答えが返ってきて、ああいつも通りだと心のどこかで安心した。


 なのに酷く疲労感を感じる。


 無意味だと脱力したように呆れ返る脳内を落ち着かせ、俺はもう一度表情を作り自分を演じながら笑って言葉を返した。


「早く写しなよ。一時間目から体育なんだから、着替えの時間も必要なんだし」

「分かってるって」


 きっと、そう。

 疲れているだけだと、思いながら。


**


「アイツら裏切りやがった……」


 俺は一人、そう呟く。

 

 体育の授業の最中、俺はクラスメイトらに裏切られ一人グラウンドの真ん中で彷徨っていた。


 斉藤とアイツが好きな女子生徒をくっつける為ペアになるよう仕組んだ俺たちは、他のクラスメイトとの口裏合わせの通り、別のクラスメイト一人を省いて残りのペアを組む予定になっていた。


 だが事もあろうことか逆にあっさりと裏切られてしまった俺は、代わりの相手を探していたのだった。


 完全に出遅れた、と自覚する。これは怒っても良いのではないだろうか、なんて考えるがどうでも良いのか怒りは沸かず、どうしようかと考えるばかりだった。

 

 何せうちのクラスの男子は偶数。斎藤が女子と組んだせいで、俺は男子同士がペアを作る中余ってしまった。


 よって、あぶれた俺は女子と組む事になる訳だが……。


「あれ、篠原さんじゃん」

「相沢?」


 同じく向こう側でも余ってしまったであろう女子生徒を見て、声を掛けたのだが……相手は俺も知っている人物だった。


 篠原美香。

 小学校時代からの知り合い、元クラスメイトである。


 特段仲が悪くもない相手だ。


 まあしかし、知らない相手と組むよりはマシである。


 てっきり、クラスでもハブられがちな片山さん辺りと組む事になるかもしれないと失礼ながら覚悟していたので余計にそう思った。


 俺は気さくに彼女に話しを振った。


「珍しいね。いつもの相手は?」

「風邪で。そっちは何で?」

「まあ色々あって」

「ふーん。じゃ、軽くやろうか」


 そういえば話すのは久しぶりかもしれない、と思う。

 

 今期の体育の授業はサッカーである。


 そう言えば高校になれば男女別になるらしいが、今の所中学生である俺たちは男女混合だ。相手が篠原とはいえ女子という事もあり、俺は手加減しながらボールを篠原の元へパスした。


「最近は何してるの?」

「ずっとバイトかな」


 彼女の問いに俺は素直に答えた。


 ちなみに2050年から労働基準法で責任能力の確認など基準は厳しいものの、十三歳以上なら働いてもいい規約になっている。昔であれば考えられない事だが、2050年当時は日本もかなり苦しい状態だった為むしろこの法律は歓迎された。


「ああ。最近は私もそう。何の為に貯めてるの?」


 篠原の問いに俺はどう返事をするか一瞬迷う。

 彼女は即答しない俺に首を傾げながら、ボールを蹴った。


 昔、というか小学生の辺りは彼女ともそれなりの関わりがあったと思う。


 男女混合の誕生日会に呼んでもらえた時とか、金が溜まってクラスの男女数名で遊びに行けた時なんかは彼女ともそれなりに遊んだのを覚えている。


 が、今は友達と呼べるような関係ではない。


 なので今の浅い関係性では少し答え難い質問だったのだが、俺は濁しながら答えた。


「いや、三週間くらい前かな、全部使っちゃって。また必死に貯めてるところ」

「三週間前? あ、そういえば相沢ってその頃誕生日じゃなかった?」

「……よく覚えてたね」

「ほら三年前だっけ? 加奈ちゃんの家で相沢君の誕生会開いたじゃん。色々用意してて。ずっと気になってたんだけど、結局あれ何で相沢君の誕生会、加奈ちゃん家でやったの?」

「まあ色々あったんだよ」


 その出来事はよく覚えている。


 確か当時、誕生会に誘われることはあっても、自分の誕生日を祝われることはなかったから、当時幼馴染だった加奈がウチでやろうと言い出したのだった。


 その頃年齢的な成長もあって話す事も少なくなっていた加奈に誘われた時は意外と呼ぶ他なかった。


 勝手に決めてしまった事を怒られてはいたが、ホールケーキは彼女のお小遣いで買うと言い出したので、どこと無く暖かい目で彼女の両親は親切に許してくれたらしい。


 まあ俺の親は勝手に行ってくれば?というスタンスだったのだが。


 ささやかにも誕生日を祝ってもらった後、家に帰って感動のあまり少し泣いてしまったのを覚えている。


 まだ三年ほど前のことなのに随分と懐かしい思い出だ。


「……今アイツ何してるんだろうな」


 中学になって親の転勤が決まったらしく、もう連絡も取っていない。

 今となっては苦い初恋の思い出みたいな物で、心の隅に消えないまま残っているだけだ。


「え!? 知らないの?」

 

 独り言を聞かれたのか彼女に急に驚愕され、俺はびっくりする。


 篠原を確認すると、声の驚き具合に見合った驚愕の顔をしていた。

  

 え?


 あの、えっと、その。


 もしかして自分だけ連絡ないって感じですか????


 あー。


 ショックでゲボ吐きそう。


「いや多分相沢が考えてること、勘違いだと思うよ? ま、いいか。そのうち分かるでしょ」

「え、気になるんだけど??」


 俺はそう言うが、彼女が話を続ける気配はない。

 そうなると自然とその話題も途切れてしまった。


「あ、ごめんズレた」


 ボールを蹴った彼女はあらぬ方へ飛ばしてしまい、謝っている。


「オッケーオッケー」


 俺は気にする事なくボールを走って追いかけて、拾い上げた後篠原へパスを渡す。

 彼女もピタッとボールを足裏で止めて、俺が戻るのを待ってから口を開いた。


「ところで相沢」

「何?」

「放課後、大事に話があるから校舎裏に来てくれない?」



***


 放課後。校舎裏。


 恋愛漫画でよくありそうなセリフを吐かれ、俺は少し浮ついた心のまま校舎裏で待っていた。

 

 それなのに酷く先ほどよりも現実を生きているかのような気がする。

 踏みしめた地面の感触が鮮明で、視界から伝わる景色の色彩がいつもより色鮮やかに見えた。

 

(……どうせそう言う意味はないけど!)


 一人、何度も自分にそう言い聞かせる。


 手は髪を確認するように何度も触っており、変じゃないかと心はどこか不安で一杯であった。


 勿論変じゃないのは社会に馴染む為面倒臭いと自覚しつつも、朝出かける前にいつも鏡を確認して身なりを整えている自分が一番分かっているはずなのだが、それでも不安なのだ。



「あ、ごめん待った?」


 到着し早々に、そう声をかけた彼女に、俺はどこか心が落ち着いた気がした。

 彼女から色っぽい気配はなく、どことなく俺もやっぱり彼女の言い方が紛らわしかっただけだと何となく察する。


「まあ、うん」

「そこは待ってない、って否定するところでしょ」

「いや、二十分は遅刻だし。それで、本題は?」

「やー、本当ごめん。で、本題だけどさ……相沢今探索者やってるでしょ?」

「……そうだけど。何でそう思ったの?」

「だって子供の頃から迷宮の話はめっちゃ詳しかったし、バイトしてたのもそうなんじゃないかなって。割と憧れてた節あったじゃん」


 当たりだから何も言えない。

 俺はまさかバレていたとは思わず、驚いた顔をしていたと思う。


 だが俺はまだ彼女の意図が見えず、続けて話を促した。


「それで?」

「私ほら、二日前誕生日だったじゃん?」


 そう言われるが、俺は彼女の誕生日を忘れていた為少し気まずい気持ちのまま目を逸らす。


「で、やっぱり中々話せる友達とかいなくてさ。一人で行くのも怖いし、相沢に手伝って欲しいんだよね」


 篠原は、上目遣いで遠慮気味に呟いた。



 昔は遊び感覚で迷宮に潜り始める学生たちへの風当たりは死ぬほど強かった。


 現在こそ、多くのインフルエンサーなどの活動によって薄まりつつあるが、それでも尚メディア等からの報道もあって、あまり良い目で見られることはない。


 結果的に、真面目な生徒は迷宮に憧れる同級生たちを下に見てるし、あくまで一回どんな物か経験したいとか、度胸試めしの代わりだとか、そういうのもある。


 故に、信頼のおける相手以外なら迷宮関連の話題は避けられがちだ。


 だからこそ、俺は打って付けだったのかも知れない。


「まあそれくらいなら全然良いよ」

「本当? ありがとう!」


 俺が迷った末そう結論を出すと、彼女ははにかむような笑顔でお礼を言った。

 

「あ、ただ今後は紛らわしい言い方で俺を呼び出すのはやめてくれ」

「?」


 え?

 何故彼女は本気で俺が何を言っているのか分からないというような顔をしているのだろうか……。


 まさか天然ということはあるまい……。

 俺はそう考えながら自分のスケジュールを思い返しながら彼女に時間を聞いてみる。


「じゃあ明日は週末だし、明日の十時頃からで良いか?」

「うん、了解。あ、ていうか連絡出来ないからラ○ンかイ○スタかツ○ッターかディ○コでいいよ」

「あ、そう言えば持ってなかったっけ。てか、選択肢多いな。じゃあラインで」


 後でグループラインからフレンド申請しておく、と伝えられ俺たちは解散する運びとなった。


「じゃ、明日ね」

「おう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ