2 決心
『俺があなたを学校に連れて行ってあげます』
頭の中にその言葉が焼き付いて離れない。あの後、彼はとてもあたふたとしていて、結局どういうつもりで言ったのか分からずじまいに終わってしまった。
彼は、診察室B4でレントゲンを撮っているようだ。私は、戻っても良かったが、病室に戻ったところで、楽しくはないしせっかくだから、あの言葉の意味、ちゃんとスッキリさせて終わりたかった。
「でも・・・連れて行く、かぁ。無理に決まってるのに」
私は、もう病院の外に出ることはきっとない。病院の先生もダメとおっしゃっているし、それどころか連れて行ってくれるはずの家族も友達もいない。
近くの長椅子に座り、ぼんやりと彼の入っていったドアを見つめる。
ちょっと嬉しかった。こんな私の気持ちを汲み取ってくれる人なんて今までいなかったから。
多分、あの言葉は気遣いのうちだったのかもしれない。
自分にそう言い聞かせて、私は彼が来るのをじっと待っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピッピッ
色々機械が動いて、俺の腕の骨を撮っていく。
そして、それが終わるとさっきとは別の先生が、画面に映し出された少し薄みがかった水色の骨をみながら、深く考え込みはじめた。そんなに難しいことなんだろうか。
俺は、緊張で動けなかった。
「ええっと高島さん。左腕ですが・・これは骨折ですね。とりあえず、ギプスをはめて安静にし、また一週間後ここにきてください」
どうやら、この先生は新米だったようだ。近くに表情の厳しいさっきの先生もいることに今更気がついた。
動作が少し緊張気味だし、すぐに答えが出てこない。
しかもなんとも言えない、ちょっと気味の悪い作り笑いが、顔にびっしり貼られており、正直怖い。
「はい、わかりました」
俺がそう言った瞬間、先生は自分の役目は果たせたと言わんばかりの安心した顔になり、肩の力が抜けた。
その様子に俺もどう対応すればいいか分からず、とりあえずここは早く出たほうがいいと判断し、ギプスの使い方などの説明を受けたら、そそくさギプスをはめた左腕を持ってこの診察室を出た。
「はぁ怖かったー。入った時は、鬼かと思ったわ」
俺は、心の底に溜めていた気持ちを爆発し、帰ろうと歩き出した。でも、その時だった。
目の前にさっき案内してくれたあの子がいたのだ。
「あの、案内します・・・」
彼女は控えめにそう言った。まさか待ってくれているとは思わなかったので、申し訳なさすぎて、もう一回謝りそうになった。その言葉をグッと堪えて、「えっと・・」とどうしようか本気で悩んだ。
本当は、ありがたい話だが、流石にずっと案内してもらう訳にはいかない。
それに彼女はここの病院の患者さんだ。看護師さんでもない。
だから、そんな患者さんにばかり頼るのは、よろしくない気もするのだ。
「あっすみません。ずっと待っててなんか変態みたいですよね。じゃ、じゃあ私は帰りますね」
「あっ待って。名前、教えてもらえませんか?今度何かお礼したいし・・・それに、俺はあなたの夢を叶えるっていう重大任務を見つけてしまったので」
一度言ってしまったからには、もう引き下がらない。それが、男のプライドっていうものだ。
彼女にとってはすごく迷惑な話かもしれないが、鶴の恩返しのように恩人に恩返しをしたいのだ。
「ほ、本気ですか?」
彼女は、俺が言っていたことはただのでまかせだとでも、思っていたのか驚いたように瞬きをした。
そして、透き通った瞳で俺の言葉の意味を読むようにじっと見る。
「本気です。まだ、具体的なことは考えてないんですけど・・。これから考えます!」
「え、あ、はい?」
拍子抜けしたように彼女は、床に崩れ落ちた。目を丸くして、俺を見つめる。
でも、その瞳は少し輝いているように思えた。
ちょっとは興味を持ったようだ。それだけで、今日は十分。
それより、肝心の名前を教えてもらわなきゃ、これからの行動がしにくい。
「えっと・・俺はこうこう・・いえ、今年で16の高島結留です」
高校一年生と言いかけたのをぐっと飲み込んでできるだけ、笑顔で自己紹介した。
これで、彼女の名前もすんなり聞ける気がした。
「あなたの名前、教えてもらえませんか?」
俺は、座り込んでいる彼女に手を差し出して、立たせながら聞いてみた。
彼女は、少し気恥ずかしそうにしながらも、「あさくらさり・・・です」と口にした。
そして、立ち上がるともう一度今度は俺の目を見て言ってくれた。
「同じく今年で16の朝倉紗里です。えっとよろしくお願いします」
彼女も俺と同じようににっこりと笑ってくれた。
美人の笑顔は、迫力が案外強かった。俺は、少しその迫力に驚きながら、「よろしくお願いします」と言った。
それから、一通り話が終わり、最終的に連絡先を交換することになった。
俺は今まで、女子との連絡はとったことが無かったので、少し新鮮な気持ちだった。
男子ばかりの名前の行に新たに「朝倉紗里」という女子の名前が追加される。
「えっと・・最後にもう一度、確認します。本気ですか?」
「本気です」
俺は、もう迷いなくはっきりとその言葉を口にした。そのはっきりした雰囲気に確実だと悟ったのか、彼女は安心したようだった。
「その、もし本当に私の願いを叶えてくれるんだとしたら、見せたいものがあります。今日は遅いですから、また今度でも良いですか?」
彼女は躊躇いがちにそう聞いた。「あ、えっとすみません。学校のことだけでしたよね。少し欲張っちゃいました」
と後で付け加えた言葉を聞いて、決心した。
「良いに決まってますよ」
俺は、この子の今まで閉ざされた全ての願いを叶えるお手伝いがしたい!と。
これは、恩人だからとかじゃなく、俺自体の希望だ。
だって、願いが叶わずに死んでいくのを見るのは、もう懲り懲りだからーーー。
今回、この物語に目を向けてくださり、本当にありがとうございます。
もし少しでも心を動かされたり「面白い」と思ったら、評価やいいねをやってくださるととっっっても嬉しいです。
今回お話が若干短かった気がしています・・・。
三日かけているので、すみませんが許してください!
もう、本当は今すぐにでも最終回の内容を考えたい気持ちが山々なのですが、流石に始まってすぐに終わるのは面白くないので、頑張ります!
皆さんの思いが私の支えになりますので、応援よろしくお願いします!