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1 運命の出会い


「あなたの余命は、残り半年です」


 重い病室の中、医者から余命宣告を出され、私はただ頷くことしかできなくなった。

手の震えが止まらない。自分は、死ぬのか。残り半年で。

隣を見るとお母さんは、もう意を決したように泣かなかった。自分に対する愛がそこでプツンと音を立てて切れてしまったような気がした。

 その予想は当たっていて、それ以来、家族はここに来なくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺ー高島結留たかしまゆいとは、家の近くの総合病院に来ていた。

「はぁ、マジで最悪」

俺は、包帯で太くなった左腕を見る。今日、高校でサッカーをしていたら、サッカーが得意な先輩のボールが左腕に当たってしまった。それで、もしかしたら骨折かもしれないからなるべく早く、病院に行くように言われた。

そんな大袈裟な話ではないような気がするが、病院に行かずにより悪化したケースもあるようで、まあ一応という感じで来てみた。

でも、今でもジンジンとは痛む。初めて先輩のボールを受けて正直とても痛かった。

それもそのはず、シュートだったから気合の入ったものだったはずだ。

俺はもう一度ため息をついた。

この病院に来るのは本当に、久しぶりだ。小3以来といったところか。

となると、今は高1だから6年ぶり?結構、時は早いものだ。

ほんと言うとこの病院にいい思い出はない。だが、他に家の近くの病院はないので、ここしか行けないのだ。

ちなみに、さっきからずっと待合室で待っている状態だ。

毎日こんな感じなのかは、わからないが、なんだか今日は患者さんが多い気がする。

そのせいで、良くも悪くもさっきからずっと待ちっぱなしという感じだ。

一体、何時に帰れるのだろうか。幸い父さんが今日は八時には帰れるそうなので、もし万が一電車がもう、なかったとしても、車で迎えに来てもらうことができる。

あ、言っておくけどここは、家の近くといってもそんな近所ではなく、電車で二駅のところだ。

『25番のお客様、診察室にお入りください』

アナウンスが入り、テレビにも映し出される。それは、俺が今、右手で握っているくしゃくしゃの紙に書かれた番号だった。やっと呼ばれたと思い、急いで、診察室に入る。

診察室には、陽気そうな明るい病院の先生がいた。俺は、息を呑んだ。

その先生のことは、一番知っている。まさかその先生が当たるとは・・・。

もしかしたら、俺のことはもう忘れているかもしれない。そのことを信じて、椅子に座った。

「ふむふむ、左腕だね。見せてもらえる?」

先生は、いろいろ書かれた紙を眺めて、そう言った。それに従い、包帯をとって腕を見せる。

腕は、とても赤く腫れていて、見るだけでもっと痛みが増した気がした。

先生はじっと腕を見て、「腫れてるなぁ。骨折の可能性があるね」と呟いた。

俺は、どんどん不安になってきた。なんだか、思ったよりすごい怪我なのかもしれない。

骨折なんてなったことがないから、骨折なのか俺にはわからない。

でも、もし骨折だったらギプスをはめることになるだろう。今まで、何人か骨折してギプスをはめていた子は見たことがある。気の毒だと思った。そんなことに自分もなるなんて。

俺の頭が混乱しているうちに色々検査が始まった。

バタバタと先生や看護師さんが動き始める。

その動きをぼうっと見ながら、もう自分ごとのはずが、他人事のように思えてきた。

「高島くん、向こうにある診察室B4っていう所に一人で行けるかな。そこで、レントゲンを撮るようになるんだけど。」

一人の看護師さんが申し訳なさそうにそう言った。きっとこの後が詰まっているから場所を変えたいんだろう。

それは、俺にだって伝わってきた。だから「はい」と言って診察室を出た。

さっきまで、自分がいた待合室は、さっきよりも人が増えていた。

早めに来といて良かったと思いながら、廊下に入って、診察室B4を探した。

「B4・・B4・・・ないなぁ。ここら辺はAが多いから、もっと奥か?」

正直、子供みたいなことだが、地図を見ずに探すのは冒険のようで、楽しかった。

だから、迷路のような病院の中の奥へ躊躇いなく進んでしまった。それがいけなかった。

いつの間にか俺は、薄暗い病室の集まりに来ていた。少し不気味だ。

そこで初めて、俺は迷ってしまったと思った。

地図があった所まで、戻ろうとしたが、どこに地図があったか思い出せない。

素通りしたせいだ。もっとちゃんと見とけば良かった。

頭の中が、楽しいから後悔に変わってゆく。

「えー本気で迷子?嘘でしょ」

高校一年にもなって、迷子になるのは少し恥ずかしかった。

俺はキョロキョロと見回して、看護師さんや先生がいないか探したが、静かすぎるこの廊下にそんな人など現れなかった。

「やばい、どうしよ。戻れるか?」

「どうしたんですか。迷子にでもなりましたか?」

その時だった。後ろから女の人の声がした。一瞬幽霊かと思ってびっくりしたが、そんなはずもなく、ただここの病室の患者さんだったようだ。

振り返って見ると、中学3年生くらいの女の人が立っていた。

髪は茶髪で長く、とても目を見張るほどの美人だった。

「え、えっと・・・診察室B4に行きたくて」

ちょっとだけ、ここは強気になって「いいえ」と言うべきか迷ったが、ここの患者さんということは、ある程度道を知っているかもしれない。

するとやはり、そうだったようで「あぁ、あそこに」と頷いた。

「ついてきてください、その場所はこっちです。」

俺は、素直に従った。本当は、カッコ悪いし、男のプライドってやつが崩壊しそうな感じがしたけど、探したところで、見つからない気がする。

「今日は、どう言ったご用件でここに?」

俺の態度から緊張と読み取ったのか、女の人は緊張をほぐそうと色々質問をし始めた。

「えっと学校で、その骨折したかもしれなくて」

「あぁ、なるほど。ちなみに何歳ですか?私は、今年で16です」

「あっ俺も。じゃあもしかして、高校一年生ですか?」

まさかの同学年かもしれないと思い、歩く足を止めて聞いてみた。

すると彼女はなぜか少し悲しそうな顔で俯いた。着ていた白いセーターをぎゅっと握っていた。

なんか悲しませることを言ってしまったのだろうか。俺はあたふたしながら「すみません、すみません」と何回も謝った。女子を悲しませるのは初めてでどう声をかければいいかわからない。

ましては、さっき会ったばかりで、親切に場所を教えてくれた恩人なのに・・・。

「ふふっそんなに謝らないでください。知ってます?謝るのって一回にしないと、どんどん一つのゴメンの価値が少なくなって、結果的に小さくなった形で相手に届くんですよ。だから何回も謝らないほうがいいと思いますけどね」

ずっと謝っていた俺をみて、小さく笑った。それで、少し気が軽くなった。

彼女は、ふっと目を伏せて、微笑んだ。本当に美人だ。

「高校、どころか小学校、中学校にも行ったことがないんです。幼稚園の時に私、高熱で倒れたんです。一瞬死にかけました。難病だったそうです。でもなんとか生きれて、入院になって。だから、幼稚園も最後の方は行けなかった、です。」

その言葉は、彼女の思いが全て入っていたように感じた。それくらい重みのある話なんだとわかり、どうしていいのか分からなくなった。でも一つだけ彼女が、少しでも学校に行けた気分になる方法を思いついた。

「あっすみません。こんな赤の他人の話を聞いていても暇ですよね。進みましょう。こっちです」

進み始めた彼女の姿を見ながら、どうしようか迷った。

こんな俺の提案に彼女は乗ってくれるか分からないからだ。もしかしたら、他人の俺から急に言われれば幻滅されるかもしれない。でも、俺はどうしても聞いてしまったからには動きたかった。

勇気を振り絞り、俺は「あのっ」と進んでいく背中に向かって叫んだ。

静かなこの廊下に俺の声が響く。

「俺が、あなたを学校に連れて行ってあげます」

「え?」

驚いたように彼女は、目を見開いて俺を見た。困惑、という表現が一番ぴったりのように感じた。

「もし俺でよければ、あなたの学校に行きたいという夢、叶えられるかもしれません」

その言葉に、まるで雷に打たれたように彼女は、固まったのだった。

俺も、言ってしまったからにはやるしかないと、意気込んだ。


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今回、この物語に目を向けてくださり、本当にありがとうございます。

もし少しでも心を動かされたり「面白い」と思ったら、評価やいいねをやってくださるととっっっても嬉しいです。


また、実は私、男の子視点が苦手なんです。「もっとこうした方がいい」というようなことがあれば、ぜひぜひアドバイスしてください!


皆さんの思いが私の支えになりますので、応援よろしくお願いします!

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