転生 2
推しを救う計画を決め、掛け声を上げた数分後。
扉の向こうから、ドタドタと慌ただしい足音が近付いてきた。
何だろうと思って扉に向かおうとした瞬間、勢いよくそれが開いた。
「アリスティア! どこか怪我をしたのか!?」
「……え!?」
息を切らし、凄い剣幕で私を見るのは、どこかで見たことのある男性だった。
私と同じ銀髪に、深い青色の瞳。冷酷さを感じる程整った顔立ちは、そう――――
「……お父様」
思い出した。この人はアリスティアの父で、ベルヴァルト公爵である、アレクシス・ベルヴァルトだ。
でもおかしい。確か彼は、「冷徹公爵」として有名で、実の娘にも冷たい人だったと記憶している。
そんな疑問が、思わず口から出た。
「どうしてお父様が? こんなこと、今まで一度もなかったのに……」
本当に無意識に言ってしまったので、自分が喋っていたことすら、一瞬わからなかった。
あっと口を塞いだ頃にはもう遅く、見えたのはお父様の辛そうなな顔だった。
「本当にすまない。娘への接し方がわからず、傷つけてしまう結果になった。悪かった……」
そう言って、お父様は私を抱きしめた。
私が知っている人物像とはあまりにもかけ離れていて、反応に困る。
けれど、温かい気持ちになったのも事実だった。
私は前世、幼い頃に両親を亡くし、天涯孤独の状態だった。だから、周りの優しさは感じられても、親の『愛』とやらを感じることはなかった。
だからこそ、今世での父も簡単に受け入れられたし、今も許してしまっている。
アリスティアもすでに母が亡くなっている。せめて、この不器用な父だけでも大切にしようと、心に決めた。
「……って、お父様は何故ここにいらしたのですか?」
早すぎる展開で忘れていたが、そういえば、父はここへ何をしに来たのだろう。
彼は一瞬間を置いたあと「そうだった」と呟き、私に目線を合わせるように跪いた。
「アリスティア、本当に怪我をしていないか? 例えば、頭を打ったとか」
「え? 大丈夫ですよ?」
不思議で首を傾げたが、お父様は言葉を濁してしまった。「年頃か……」と呟いたのは、気のせいだろう。だって、肉体的にはまだ7歳にも満たないから。
「まあ、何も無いのならそれで良い。……ところで」
「はい?」
言葉を切った父の顔を見つめる。それにしても、凄い美形だなと改めて思った。多分、父じゃなければ惚れていたかもしれない。
推し以外を好きになるなんて、ありえないけどね!
じっとお父様の言葉を待っているけれど、なかなか口を開かない。
……なんだか、殺気立ってきているのは気のせいなのだろうか。
「……お父様?」
声を掛けると、彼は我に返ったようで、殺気のようなものも消えた。
「……すまない」
「いいえ。それで、先程の続きは」
話を促したところ、何故か父は深呼吸した。余程意を決して言わなければならないのだろうか。ちょっと不安になった。
そしてこの不安は、見事に的中する。
「……陛下が、お前を宮廷に招待された。つまり、謁見せよとのことだ」
「……え……?」
小説にはなかった展開に、私は驚きを隠せなかった。