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プロローグ

「うわあぁぁぁあっ!!」


 自分でも驚くくらい、大きな声が出てしまった。しかし、私にそんなことを気にする余裕なんてない。


 推しが、死んだ。

 

 私の頭は真っ白になった。



 その本に出会ったのは、1年ほど前だったと思う。

 それは、よくある「異世界転生系」というジャンルの本だった。


 今までそんな本に興味がなかった私だったが、なぜかその本には、無性に惹かれていた。

 表紙がものすごく美しかったからかもしれないし、帯に「女性人気No.1!」と書いてあったからかもしれない。


 いつの間にか手に取っていたその本を、私は無意識に買っていたのだ。

 今思えば、それはある意味、運命だったのだろう。


 買ってしまったものは仕方ないし、読まないのも勿体ない気がしたので、とりあえず開いてみることにした。


 表紙には、銀髪にルビーみたいに輝く瞳をした美しい少女と、金髪とタンザナイトのような瞳の男の人が描かれていて、それはそれは幻想的だった。


 大体のあらすじはこうだ。

 百年ぶりに『赤の魔力』を発現させたヒロインが、優秀な兄と比べられ心を閉ざしてしまった第二王子であるヒーローを救い、ふたりで力を合わせて困難に立ち向かうラブストーリー(笑)。みたいな感じ。


 正直、かなりドハマりした。それはもう、全巻集めてファンブックやグッズを買ってしまうくらいには。

 

 この流れでいくと、私の推しはこのふたりの内のどちらかと思われるかもしれない。しかし私が推したのは、別の人だった。


 第一王子として生まれて、周囲からは優秀だと言われ、ヒーローの劣等感を生み出した本人、つまりヒーローの兄が私の推しだったのだ。

 一見、恵まれた人生のように思われる彼だが、本当はヒーローの何倍も悲しい人生を持つ人だった。


 まず一つ目。甘ったれな双子の弟に母を取られ、愛を知らないまま育ってしまった。

 もちろん母は、ふたりを平等に愛したつもりだった。しかし、しっかり者の兄と一人で何もできない弟とでは、無意識に偏りができてしまうもの。

 悲しいことに、推しは自分が愛されていないのだと思ってしまう。ううっ、可哀想ぅぅっ!


 二つ目。彼はヒロインが好きだったのに、弟に奪われてしまった。

 ヒーローはヒロインに一目惚れだったが、推しは時間をかけてゆっくりヒロインを愛していった。

 どちらかというと、私は後者のような恋が好きなので、何だかこう、萌えた。

 なのに、ヒロインの心はヒーローの方へ傾いた。ヒーローなので当たり前だろう。けれど、私のふたりへの好感度は一気に氷点下まで下がった。


 もっとたくさんあるのだが、悲しくなるのでここまでにしよう。

 これだけでも哀れな運命を辿った推しだが、もっと最悪な運命が降りかかる。


 それは、冒頭の話。彼の死亡だ。


 推しはヒーローに奪われても尚、ヒロインを愛し続けた。彼にとってヒロインは、心の支えだったのだ。

 一方ヒロインは、魔物の討伐に出ていたヒーローの元へ走っていた。想定を遥かに超える量の魔物が出現し、壊滅状態にあるという報告を聞いたからだ。


 しかし、どんなに魔力が豊富とはいえ、ヒロインは女だ。力にはどうしても劣ってしまう。

 危険な状態に陥ったヒロインは死を覚悟し、目を瞑ったその時――――。

 現れたのはヒーローではなく、推しだった。


 咄嗟にヒロインを庇った傷が致命傷になり、彼はヒロインの幸せを願いながら亡くなってしまう。


 何で彼だけこんな目に、と思い、続きを読む気力がなくなっていた。

 私は泣き疲れ、いつの間にか寝てしまっていた。



 次に目を覚ますと、私は知らない場所にいた。

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