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時空を越えて

     




        うつりゆく日々の中で

        星の数ほどの出逢いと別れ


        別れを悲しむよりも

        素敵な思い出が増えた事を喜びたい


        時が過ぎて

        いつか"今"が思い出になっても


        それはきっと

        誰にも負けない勇気と笑顔を

        私にくれるはずだから









──20年後、東京。

渋谷から少し離れた住宅街。


そんな何処にでもある一軒家のキッチンに、買い物帰りの柚月の姿があった。


柚月は「よっこいしょ…」と、買い物袋をテーブルの上に乗せると、中身を冷蔵庫や棚の中に仕舞っていく。


この16年、毎日のように繰り返した動作である。


(さて…、今夜の夕飯何にしようかなー)


買い物に行ったデパートで、やたらと買い込んでしまった。

これだけあれば、どんなメニューでも作れそうだ。


何処から手をつけようかと買い物袋を覗き込んだ柚月は、ふとテーブルの上にある卓上カレンダーを見て手を止めた。


「…あぁ、もう今年もそんな時期なのね」


毎年、冬のこの時期になると、高校時代に過ごした異世界の事を思い出す。


(あれから…もう20年、か。早いものね)


悪魔の悪戯か、それとも神の采配さいはいか。

柚月が戦国へ行った運命の日から、既に20年の月日が流れていた。


最初のうちこそ、異世界で出会い、そして愛した男の事が忘れられず、毎日のように渋谷へ足を向けたが、それも成人する頃には無くなっていた。


もう二度と、異世界へ行く事は出来ないのだと、だんだんと気付き始めていたからだ。


諦めではなく、それを現実として受け入れる事に、さらに4年を費やした。


今では良き夫と、16歳になる娘に恵まれ、幸せに暮らしている。


就職した職場で出会った、かなり年上の上司が現在の夫だが、結婚する事には、かなり迷いがあった。


だが、穏やかで人の良さそうな雰囲気と、情けないほどに必死な求婚に、結局柚月も首を縦に振ったのだ。


(最初会った時は、太ったオジサンにしか見えなかったのにねぇ…)


だがその小太りの容姿こそが、人の良さを表現しているようだった。


まだ二十歳という若さでの結婚ではあったが、良い選択だったと思っている。


結婚して直ぐに、娘が生まれたからだ。


異世界から戻ったばかりで、精神的に不安定な自分を心配していた両親の、あの孫を見る嬉しそうな顔は今でも忘れられない。


一つしか年の変わらない妹は、当時「19歳でおばさんか…」と嘆いていたが、それでも娘を可愛がってくれている。

これで良かったのだ。


政宗への気持ちがなくなった訳ではなかったが、二度と会えない人への気持ちは胸の奥底に秘め、今を生きなければならない。


きっと政宗もそれを望んでいるのだと、最後の言葉でも分かる。


それから、ずっと持ち歩いていた簪を思い出と共に封印し、今を大切にしてきた。


(…懐かしいわ)


ふと、戦国へ行っていた時の高校時代に気持ちが巻き戻る時がある。


結婚して幸せに暮らしている今も、政宗への気持ちは消えた訳ではなかった。


勿論当時とは違い、胸を焦がす様な恋心はないが、良い思い出として、思い出す度に胸が熱くなる。


「…ふぅ」


柚月は小さく息を吐くと、昔に馳せていた思いを胸に抑え込んだ。


(夕飯作らなきゃ…)


時計を見ると、あと一時間もすれば、娘が学校から帰ってくる時間だ。











予想通り、娘が帰って来たのは一時間後だった。

ただいま~と、気だるげな声が聞こえる。


居間でテレビを見ていた柚月は、部屋に入って来るなり、鞄をソファに放り投げる娘に視線を送った。


「鞄は自分の部屋に持って行きなさい」


「後でー」


「そんな事ばかり言って…」


この面倒臭がりな性格は一体誰に似たのかと、自分の若い頃を思い出すと忸怩じくじたる思いがする。


(…私か?)


そう考えると、娘の未来が不安になる。

柚月はあまり頭が良くなかった為、進学を諦めたからだ。


娘には大学まで進んでもらいたいと、自分の夢を重ねている。

自分には似ないで欲しい。


そんな事を考えていると、娘はソファに腰掛けた。


「ねぇお母さん、私さ、今日露店で買い物しちゃった」


「露店…?」


ちょうど昔を思い出していたせいか、ドキリとしながら娘を振り返る。


「露店商が…いたの?」


露店商と呟く、自分の声が震えている気がする。

だが娘は気付かないのか、話を続けた。


「そう、渋谷歩いてたらさ、値段も何も書いてない指輪を見せてきて」


指輪と聞いた瞬間、心臓が跳ね上がる。


渋谷で出会った露店商に、値段のない指輪を勧められるという話に、デジャヴを感じたからだ。


「買ったの?」


動揺に気付かれないように、声の抑揚を抑えながら聞くと、娘はさらりと頷いた。


「うん、その露店商のお兄さんがけっこう美形でさ。思わず買っちゃった」


自分が出会った露店商の顔など、さすがに覚えていないが、まさか同一人物ではないだろう。


あれから20年だ、柚月の出会った露店商なら、娘が美形と言う訳がない。


「そう言えば…お母さんも、学生の頃に露店で指輪を買ったって言ってたね。あの辺りは露店商って多いの?」


「え…?えぇ…、そうね。それよりどんな指輪なの?」


「それがさ、角度によって色が変わる石がついてて綺麗なの!えっと…鞄の中に…」


まさかという思いで聞くと、娘は買った指輪を探して鞄を開く。


「前にお母さんが見せてくれた、簪あるじゃない?あれに付いてた石に似てるかも」


鞄の中を漁りながら、娘はさらりと爆弾発言をしてくる。


「何であんな傷だらけの簪を大事にしてるの?そもそもお母さん髪短いし、使わないでしょ?」


「あれは…あの簪は、お母さんがまだ貴女くらいの年の頃に、大切な人に貰ったのよ」


「へぇー!思い出の品ってヤツ?何それ、お父さん?」


「…お父さんに会うより、もっとずっと前の話よ」


「昔の彼氏?」


「内緒」


「あらら」


ひょうきんに肩を竦めると、娘は目的の指輪を見付けて鞄から取り出した。


「これだよ、綺麗でしょ?」


そう言って差し出された指輪を受け取った柚月は、胸の奥から沸き上がってくる感情に、頭が真っ白になってしまう。


間違いない。

20年も前、柚月が露店商から買った指輪と全く同じだ。


ずっと探し続け、それでも見付からずに諦めた指輪が、今この手の中にある。


この指輪を指にはめれば、政宗の元へ行けるのだろうかと、一瞬愚かな考えをしてしまう。


だが今は異世界へ行く事は出来ない。

政宗以上に、大切な物が出来てしまったからだ。


柚月は震える手で指輪を娘に返すと、簪を思い浮かべた。


「あの簪…貴方に預けておいた方がいいかもね」


「…?何で?」


「あの簪をお母さんにくれた人に…、貴女が会うかも知れないから」


「はぁ?何それェ」


「まだ…分からないけどね」


娘が買った指輪が本当に、自分があの日買った指輪と同じ物かは分からないが、その可能性は高い気がする。


「もしかしたら…本当にもしかしたらだけど、不思議な事が…貴方に起こるかも」


「…不思議な事?さっきから何言ってんの、お母さんってば」


まるで理解できないと言いたげな顔をした娘に、柚月は笑顔を向けた。


「そうしたらきっと…隻眼の男の人に会うはずよ」


「隻眼?男?」


「そう、その人は…お母さんにとって、青春の全てだった人なの」


首を傾げる娘に一方的に語ると、娘は呆れたように肩を竦めた。


「言ってる意味が分かんないし」


そう言うと、鞄を手に立ち上がり、着替える為に部屋を出ていく。

そんな娘の後ろ姿を見ながら、柚月は懐かしさに目を細めた。


娘の通う高校は、柚月の母校であり、つまり娘は後輩にあたる。


もともと娘は自分似であり、制服を着た姿は高校時代の自分と瓜二つだ。


「政宗…あの子が私の娘だって気付くかしら」


きっと娘は、あの世界へ行くだろう。

そんな気がする。


今戦国がどんな状態なのかは分からないが、娘も自分と同じように、戦国に行き、二つとない素晴らしい出逢いと思い出を手に入れて来るだろう。


柚月は改めて、娘の若さと可能性を羨みながら、窓の外に目を向けた。


いつの間に日が暮れたのか。

すっかり夜の帳が落ちた夜空には、どの世界でも変わらないであろう美しい月…、政宗を思い出させる上弦の月が浮かんでいた。


以上で柚月の冒険は終わりです。

ここまで読んで下さった方がいらっしゃいましたら、心から感謝致します。


良かったです、途中でエタらなくて…。


なろう作家の皆さん、すごいですね。

途中で飽きずに最後まで書けるって、本当にすごい事だと実感しました。

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