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光った指輪、別れの時

激しい炎の中、指輪が光りだした瞬間、まるで守られているかの様に熱さが和らいだ。


「指輪が…光っ…」


今まで、何度試しても光らなかった指輪が、今確かに輝いている。


柚月は眩しい程の光の中、政宗の顔色に血色が戻っているのを見て息を飲んだ。


「政宗…!!」


意識もはっきりとしたのか、政宗はゆっくりと目を開けた。


「…?」


あまりにも想像を超えた状況だったのだろう。

目を見開いて辺りを見回している。


「…炎が…」


指輪が守ってくれているのだろうか。

二人を避ける様に燃える炎に、政宗は驚いた様に身体を起こした。


そして、不思議そうに身体を見下ろす。


「痛みが引いてる?」


腹の傷を撫でながら呟いた政宗は、思わず強く触ってしまったのか、顔を歪めた。


「…ッ!」


「政宗!触っちゃ駄目!一時的に痛みが引いているだけで、治ったわけじゃないから…!!」


「柚月…この状況…、一体どうなってる?その指輪の力か?」


説明しろと言わんばかりの政宗に、柚月は自信なさげに頷いて見せる。


「た…多分…、さっき急に指輪が光りだして…」


そこまで言うと、柚月は言葉を止めた。


(さっき…?そうだ…指輪が光るのは…元の世界の事を考えた時…?)


今も、道真との戦いの前も同じだ。


指輪が光ったのは、元の世界にいる家族を思った時や、帰りたいと本気で思った時だった。


(つまり…元の世界へ帰るのは、私の気持ち次第…って事?)


柚月は政宗と指輪を見比べ、胸に手を当てた。

政宗の傷の痛みが引いているのは、指輪の光の中にいる間だけだ。


だが顔色を見る限り、完全に傷が癒えていなくとも、体力は回復している様に見える。


今の政宗なら、多少傷が痛もうとも、火焔城から自力で脱出出来るだろう。


(で…でも…)


しかしそれは、自分が元の世界へ戻り、政宗が"一人だけ"という前提だ。


胸が痛くなる選択に、柚月は即断出来ず、指輪を握りしめる。


(政宗と離れるのは嫌…。でも…政宗が死ぬのは、もっと嫌…)


だとしたら、選ぶべき選択肢は一つしかない。

自分と政宗の、永遠の別れを意味する選択肢だ。


「……」


心臓が破裂しそうなくらい、鼓動が早くなる。


そんな柚月の様子に気付いたのか、政宗は無言のまま、柚月の手を取った。


優しく、まるで絵本の中の王子様のような、らしくない政宗の仕草に、柚月は状況を忘れてどぎまぎしてしまう。


政宗が取ったその手では指輪が輝いており、何を思ったか、政宗は皮肉に口角を上げた。


「…野郎の言ってた事が、こんな形で証明されるとはな」


「え?」


何を言い出すのかと政宗を見ると、政宗は柚月を真っ直ぐに見つめ返してきた。


「お前は…元の世界へ帰れ」


「ま…政…宗…?」


「傷の痛みが引いているのは、指輪のおかげだと言ったな。だとしたら…指輪の力が無くなれば、俺はお前を守れねぇ。…自分の身体だ、よく分かる」


「何を…言っ…」


こんな弱気な姿など見たくはない。

だが違うなどと、簡単には言えない。


実際、政宗の命を長らえさせているのは、指輪の力だからだ。


下手な事を言って、無理をさせる訳にはいかない。

返事に窮していると、政宗はもう一度、同じ事を言った。


「お前は元の世界へ帰るんだ」


「ま…政宗…、私はずっと政宗と…」


一緒にいたい、そう言い掛けるが、自分がいては、政宗が死んでしまうかも知れないと思い出して口をつぐむ。


すると政宗は、柚月を優しく抱きしめた。


「分かってる…、だが俺が望むのは、お前と一緒にいる事じゃねぇ」


「…?」


政宗もずっと、自分と同じ気持ちでいるのだと思っていた柚月は、怪訝な顔を政宗に向けた。


だがそんな柚月に、政宗は「勘違いするなよ」と付け足した。


「俺の望みは…、お前が幸せになる事だ」


「…政宗」


「俺の望みを叶えられるのはお前だけだ、分かるな?」


優しく、子供に言い聞かせるような声色に、柚月は涙が出そうになる。


政宗の気持ちは、嬉しくもあり悲しくもあった。


何よりも自分の幸福を思う政宗の気持ちは嬉しい、だがその為なら永遠に会えなくなっても平気なのか…という悲しさ。


元の世界へ戻った後も、指輪さえ持っていれば、また来られるのかも知れないが、その保証はどこにもないのだ。


迷い、返事が出来ずにいると、政宗は軽く息を吐いた。


「柚月…頼む、俺を…惚れた女一人守れねぇような男にしないでくれ」


「でも…でも私…」


どうしても離れる覚悟がないのだと言いかけた柚月は、状況を思い出して言葉を止める。


そう、離れたくないというのは自分のエゴだ。


政宗を助けるには、元の世界へ帰るしかない。

そして当の政宗も、それを望んでいる。


「…帰るしかないの?二度と会えないかも…知れないのに…?」


言っているうちに、堪えていた涙が溢れてくる。

そうだ。最初から、その選択肢しか、選ぶ余地はなかったのだ。


「私何でこんな所に来ちゃったんだろ…。何で…政宗を好きになったんだろ…」


そう一人言のように呟くと、政宗は初めて辛そうに眉を寄せた。


「柚月…」


「別れるしかないなら、最初から会わなければ良かったのに…」


そうすれば、こんな胸を引き裂かれるような、別れも悲しみもなかった。

嗚咽混じりに言うと、政宗は目を細めて首を横に振る。


「柚月…、生きる場所が違っても、気持ちが変わる訳じゃねぇ、そうだろう?」


「…綺麗事だよ」


政宗の言っている事も分かる。

だがそんな精神論で頷けるほど、柚月は大人ではなかった。


頷く事すらせずに、政宗の胸に顔を埋める柚月を、政宗は優しく抱きしめ返す。


「分かってるはずだ、な?柚月」


諭す様に言う政宗の声は、心なしか震えているように聞こえる。


政宗も本当は辛いのだ…、そう気付いた柚月は、指輪を見つめて目を細めた。


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