意図せず語られた真実
相変わらず視界が悪い。
まるで心臓が目元に移動して来たのかと思う程に、どっくんどっくんと、重く鋭い痛みを感じる。
だがそれを表に出していては戦いにはならず、政宗は霞が掛かっているような視界の中で、道真の姿を見つめた。
ぼやけた視界の中、道真は自分の腹を見ている。
だが痛みを感じていないのか、それとも同じように堪えているのか、顔色を変えていない。
「く…くくく、アハハ…!!」
「!?」
急に笑い始める道真に、政宗は眉をひそめた。
だが道真はそんな政宗に背中を向けると、堪えきれないかの様に笑っている。
「どうした菅原道真、気でも違ったか?」
背中を向ける道真の姿は隙だらけだが、攻撃せずに問い掛けると、道真は背中を向けたまま、ぐるんと首だけを向けてきた。
「…なァ、興も乗ってきた所だが…、一つ面白ぇ話を聞かせてやろうか?」
「あ?」
この状況で、一体何を言い出すのか。
まさか本当に気でも違ったのか。
政宗は警戒を怠らない様に、注意深く道真の動きを見ながら、目を細めた。
「悪いが、お前の話になんざ興味はねぇな」
この男は口先だけで人を惑わし、動揺させる。
話など聞いても、百害あって一利なしだ。
話を聞かずに攻撃をしようと構えると、道真は政宗から柚月に視線を移動させた。
まさか柚月を手にかける気かと、身の毛が総毛立つ。
だが道真は、再び政宗に視線を戻した。
「興味なしか、お前のだーいすきな柚月ちゃんの話だぜ?」
「何?」
ちらりと柚月を見ると、同じく予想外だったのか、柚月も不安そうに眉を寄せている。
「…柚月の事…だと?」
「気になるだろ?」
傷付いた腹を撫でながら、からかう様に言われ、馬鹿にされている気がした政宗は、ギリ…と奥歯を噛みしめる。
聞くべきか、聞かざるべきか。
まるで見当もつかない。
黙ったまま次の言葉を待つと、道真は床に倒れたままの魔王、平天大聖の骸へ歩み寄った。
「…平天大聖に献上されたはずの、珍しい指輪が消えた」
「…だったらどうした」
分かりきった事を確認するなと、ぶっきらぼうに言うと、政宗は柚月の持っていた指輪を思い出す。
不思議な色に輝く石がついている以外は、何の加工も施されていない指輪である。
だが確かに、普通とは違う印象を受けた。
あの指輪が何なのだと、政宗は道真を睨んだ。
「そこの柚月ちゃん…ここじゃねぇ、別の世から来たのは知ってるか?」
「知ってたら何だ?俺の動揺を誘おうとしているのなら無駄だ、ちゃんとあいつの口から聞いた」
それが何だと吐き捨てると、道真は「そうかい」と仰々しく頷いた。
「じゃあ…柚月ちゃんがこの世界へ来たのは、その指輪が原因だって事は…どうだ?」
「…?」
心臓が鷲掴みされた様に跳ね上がる。
この男は今、ずっと持ち続けていた疑問に答えようとしている。
聞いてはいけない様な、漠然とした不安が広がった。
道真は政宗から柚月に視線を動かすと、わざとらしく片手を差し出した。
「ずっと指輪を探してたんだよな?」
そう柚月に問うが、柚月は俯いたまま返事をしない。
「見つかって良かったじゃねーか」
返事をしない柚月に一方的に話し掛けていた道真は、愉しそうに笑うと、政宗を見ながら口を開いた。
「これでやっと…、元の世界へ戻る事が出来るよなぁ?」
その言葉を聞いた瞬間、政宗は頭を強く殴られた様な衝撃を受けて、目を見開いた。
柚月が異世界から来た事も、指輪を探している事も知っていた。
だがそれを、組み合わせて考えた事が今までなかったからだ。
探していた指輪が手に入れば、城を出るかも知れないという懸念はあった。
もともと、「指輪が見付かるまで城にいろ」と言ったのは政宗自身なのだから当然だ。
だが指輪を探している理由が、元の世界へ戻る為とは、全く考えなかった。
否、考える事を拒否していた。
柚月が目の前から…いや、この世界から居なくなるなど、考えたくもなかったからだ。
刀を握る手が小刻みに震えだす。
何とか力を入れようとするが、拳に力が入らなかった。




