蔑まれた竜の名
両手に血まみれの刀を持ちながら走り寄って来た道真は、口元に歪んだ笑みを浮かべ、両手の長刀を振り上げた。
だがその刀が下ろされる直前に、政宗は身を翻して後方に跳んだ。
そのまま刀を突き出すが、道真には上体を後ろに反らしながら避けられてしまう。
「…チッ」
お互い最初の一撃目は、空振りに終わったようだ。
だが間を置かずに、政宗は刀を道真の頭上に振り下ろす。
しかしこれも読まれていたのか「おっと…」と、まるで遊んでいるかの様に、長刀の柄で刀を弾かれ、避けられてしまう。
「おぉー、すげーな独眼竜。殺気がみなぎってんじゃねーかよ。ククク…本当に殺されちまいそうだ」
「今さら命乞いか?」
休ませる間を与えぬよう、次から次へと攻撃を繰り出しながら言うと、道真は「まさか」と大袈裟に驚いて見せた。
「こんなに愉しい時間、簡単に終わりしたら勿体ねーだろ?」
「おあいにくだな、俺は楽しくとも何ともねえ」
「つれない言葉だなー、命のやり取りは、生きてる事を実感出来る至福の時間だっつーのに」
防戦に飽きたのか、道真は長刀で的確に急所を狙いながら、楽しそうに顔を歪めさせた。
政宗の刀が鋭く風を斬る音とは違い、道真の攻撃は実に緩慢である。
だがまるで、生き物の様に変幻自在に動く長い刀は、なかなか予測がつかない。
政宗は右から袈裟懸けに下ろされる刀に気を取られ、左足に向けられた長刀に気付くのに数秒遅れた。
気付いた時には遅く、左足に痛みが走る。
長刀が振られた動きに合わせ、本能的に足を引いたおかげで、大事には至らなかったが、先に傷を付けられたのだという事実が、足以上に政宗の自尊心を傷付けた。
一瞬だけ頭に血が上り、大振りな攻撃をしてしまう。
勿論そんな攻撃など当たらず、道真に長刀で刀を受け流される。
「…ちっ、冷静さを欠いたな」
自分の浅はかさに舌を鳴らすと、政宗は冷静さを取り戻す為、深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。
「それがお前の限界か?お前には竜よりも、地を這う蛇の方がお似合いだな」
「んだと…?!誰が蛇だクソ…!」
冷静になりかけたはずが、道真のあからさまな挑発で、再び頭に血が上る。
頭に血が上ったまま、隙の多い突きを繰り出すと、道真を見据える視界の端に、ちらりと柚月の姿が入り込んだ。
真っ青な顔で道真を指差している柚月は、必死に口を動かし、何かを伝えようとしている。
だが激しい戦闘の最中に、外野の声など聞こえるはずもなく、政宗は柚月が指差している方を注意深く見た。
そこには長刀を両手に、政宗を待ち構える道真。
(しまっ…)
道真の安い挑発に、まんまと嵌まってしまった自分が情けない。
道真はわざと怒らせ、一撃必殺に近い技を促したのだ。
この一撃を避けられてしまったら、完全に無防備な状態になってしまう。
政宗は突きを繰り出していた右手を引き、真一文字に刀を構え直した。
それは道真には予想外だったらしく、逆に無防備な状態に見える。
突きを受けようとしていた長刀の位置を避け、政宗は道真の下腹部に向かって、刀を右から左へ斬り付けた。
逆に隙をついた攻撃だと思ったが、惜しくもギリギリで避けられてしまった。
政宗は道真から距離を取って、改めて構え直す。
「反射神経がいいみたいだな」
「お互い様だっつーの、まさかあの攻撃が、途中で軌道を変えるとは思わなかったぜ」
「お褒めにあずかり光栄だ」
わざと棒読みで言うと、政宗は刀を構え、今度は自ら攻撃を仕掛けた。




