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悪夢との邂逅

光る指輪を見た事など、まるで勘違いだったように、指輪はうんともすんとも言わない。


だがそれでもいいと、柚月は本気で思い始めていた。

元の世界になど、帰れなくても構わない。


指輪を捨てられない理由は、ただ一つ。

この世界では、自分が不確かな存在である。という事を忘れない為だ。


柚月はずっと会っていない家族を思い出しながら、指輪を見た。


この世界にはカレンダーも何もなく、日にちの概念が薄れてはいたが、おそらく一年くらいは経っているだろう。


という事は、元の世界では、一年も行方不明という事になる。


遺体は見付からずとも、さすがに死んだ事にされているだろうな…と、柚月は寂しく思いながら家族を思い浮かべる。


すると、胸の奥に隠していた本音が出てきた。


「家族に会いたい」


そう心の中で呟いた瞬間、柚月は慌てて政宗を見た。

口に出してしまったかと思ったからだ。


だが政宗は柚月の声など聞こえていなかったのか、または口には出さずに済んでいたのか、真っ直ぐに前を見据えたまま振り返らない。


柚月はほっとして胸を撫で下ろした。


政宗に対する愛も本物だが、家族に対する愛も、まだ捨てきれていないらしい。


それはそうだ、自分はまだ子供で、本来なら両親や世間に守られ、苦労も知らずに、ぬくぬくと暮らせる年齢である。


それが、こんな命の危機に晒されているのだ。

政宗とは違う意味で、自分を守ってくれる家族を望むのは当たり前だ。


そんな、自分の素直な気持ちに気付いた、ほんの一瞬。指輪が光った。


「え?」


見間違いではない。一瞬ではあったが、確かに光った。

柚月は慌てて指輪に顔を近付けた。


「…あれ?光んない、さっき確かに…」


辺りを見回すが、反射するほど明るい光はここにはない。

思わず足を止めて指輪を見ていると、政宗が不審そうに近付いてきた。


「さっきからどうした?指輪がどうかしたのか」


「…え、うぅん…何でも…」


指輪が元の世界へ帰る為の鍵だとは、口が裂けても政宗には言えない。

柚月は指輪をした手をひらひらと振って見せた。


「指輪が取り戻せて良かったなって…」


「…他に理由がありそうだが、まぁいい。今はそれどころじゃねぇからな」


「……」


そうだ、今は家族に思いを馳せている場合ではない。

諸悪の根源である、魔王と死神を倒すのだ。


そんなRPGの勇者にでもなった気持ちで、目の前の戸を睨み付ける。


政宗は心の準備は出来ているかと言いたげに、ちらりと目線を送ってきた。

柚月はそれに答えるように顎を引く。


「よし。行くぞ」


そう言うと、政宗は戸に手を掛けた。












ゆっくりと戸を開くと、中は真っ暗だった。

しかもかなり広いらしい事が感覚で分かる。


あちこちに蝋燭の火が揺らめいているおかげで、完全な暗闇ではなかったが、視界はすこぶる悪い。


中に何があるか分からないまま、注意深く足を踏み入れると、後を追うように、柚月もついて来た。


すると、空気が揺れる。

暗闇の奥で、何かが動いたのだ。


政宗は柚月を庇うように背にしながら、一歩一歩、暗闇の中に歩を進めた。


だんだんと暗闇に目が慣れて来ると、室内の様子が見えるようになる。


部屋の中央には、最初に見た時のままの祭壇があり、その前に二人の男の姿があった。


一人は両手に刀を持ち、床に倒れているモノを見つめている。菅原道真だ。


そしてもう一人は、道真の足元、埃の積もった床の上に仰臥ぎょうがしている。


武器を手にしたまま、ぴくりとも動かないソレが何かは、考えるまでもない。魔王、平天大聖だろう。


やはり遅かったか…と、政宗は舌を鳴らした。


魔王もこの手で倒すつもりだったが、先を超されたようだ。

お気に入りの玩具を他人に壊された様な、そんな複雑な気分になる。


魔王で"あった"遺体を見ながら近付くと、道真はやっと魔王から顔をあげ、こちらを振り返った。


「…独眼竜か。早かったな」


そう呟く道真の様子は、心此処に在らずの様だ。

気付いたら人がいた、だから話し掛けた。それだけの様に思える。


「ご丁寧な招待痛み入るぜ、…魔王はお前が殺ったのか」


「あぁ」


だから何だと言いたげに目を細めると、道真はゆっくりと左に動いた。


まるで離れがたい恋人の傍にいるかの様に、魔王の亡骸を迂回した道真は、ちらりと魔王を見下ろす。


「もう少し…、魔王を殺した悦に浸っていたかったんだがな…」


「わざわざ会いに来てやったってのに、つれねぇな。誘ったのはそっちだろ」


敢えて、「わざわざ会いに」と言う言葉を強調して言うと、道真は唇の端を上げ「わざわざ俺に殺されに?」と答えた。


「オトシマエをつけに…だ」


つまらない言葉遊びをするつもりなど、毛頭ない。

吐き捨てるように言うと、道真は喉の奥でくつくつと笑った。


「無駄だぜ?お前は魔王と一緒に、ここで死ぬんだよ。その為に呼んだんだからな…」


「油断してると足元すくわれるぜ?魔王が殺られてたのは意外だったが…、まぁいい、手間が省けただけだ。つまり…お前の首をとれば終わる」


「大した自信じゃねーか、…出来るかよ?」


「出来ないとでも?」


真っ直ぐに道真を見据えながら低く言うと、道真は楽しそうに頷いた。


「そうこなきゃな!さぁ遊ぼうぜ?」


そう言った道真は、力なく握っていた刀を、円を描くように回して見せる。


「魔王を殺しちまった今の俺は、既にしかばねも同然なんだよ…。もう楽しみもない、欲しいものも手に入らない…」


(欲しいもの?)


道真の言葉に何か引っ掛かる様な感じがした柚月が、眉をひそめると、道真は一歩、政宗に近寄った。


「一緒に魔王の所へ行こうぜ!独眼竜!!」


「知るか、一人で逝け」


そう言って、お互いに目線を合わせた政宗と道真は、ほぼ同時に大地を蹴った。

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