青天の霹靂
どうしたのかと顔を覗き込むと、羅刹女は「謀反よ」と、吐き捨てる様に呟いた。
「む…謀反!?」
鸚鵡返す声が、思わず上擦ってしまう。
一瞬一体誰がそんな事を…と思うが、柚月が思い浮かべるのは、たった一人だ。
「菅原道真ですか?」
生唾を飲み込みながら聞くと、羅刹女は一瞬だけ眉をひそめた。
「何故それを…いえ、…そうね。考えれば想像がつく事…」
そう言うと、羅刹女は強い視線で柚月を見つめた。
「のんびり話をしている暇はないわ、このまま此処にいたら危険なの、分かるわね?」
「は…はい…」
まだまだ聞きたい事があったが、羅刹女の真剣な様子に、柚月は素直に頷いてしまう。
頷いた柚月を見た羅刹女は、思い出した様に胸元に手を入れ、袷から指輪を取り出した。
「これは貴女の物でしょう、持って逃げなさい」
「こ…これ…!!」
羅刹女が出した指輪を見て、思わず絶句する。
見る角度により不思議な色に輝く指輪。
間違いない。
今まで探し抜いて来た、あの指輪だ。
「ど…どこでこれを…」
何故羅刹女が持っているのか、柚月は何度も、羅刹女の顔と指輪を見比べる。
「この指輪を何処で…?」
一体どういう経路で、この女が持っているのかが気になり、指輪を受け取りながら聞くと、女は首を横に振った。
「言ったでしょう、話している暇はないの」
確かに、こんな所で長話などしていたら、あっという間に火に飲まれてしまうだろう。
何より、早く政宗を探さなければならない。
その為に戻って来たのだ。
柚月は二度と無くさない様に、指輪をしっかり指にはめ込んだ。
「羅刹女さんはどうするんですか?」
立ち去る前に、二度も自分を救ってくれた女を振り返ると、女は優しげに微笑む。
「私の心配はいらないわ、私は逃げる訳にはいかないのだから。道真を討ち取らなければ…」
そう言って、燃える火焔城を睨み付けた羅刹女の表情には、何らかの覚悟がある様に見える。
それが死の覚悟だと、何故か柚月には分かった。
羅刹女と別れ、政宗を探す為に火焔城の敷地内を走り回っていた柚月は、ふと足を止め、自分の手を見た。
そこには、確かにあの怪しげな露店商から買った指輪がはまっている。
(そう言えば…)
あの日、この世界へ飛ばされた時、指輪は光っていた。
だが今は、光っているどころかボロボロで、あちこちに傷が付いている始末だ。
(指輪は取り戻せたけど…どうすれば元の世界へ戻れるんだろ?)
露店商から指輪を買った時の事を、必死に思い出す。
(確か指輪を買って、指にはめたら光りだして…)
指にはめた以外は、特に何かをした覚えはない。
(光らなきゃ駄目…だよね。傷だらけだから力が出ないとか?)
何とか光らないだろうかと磨いてみるが、指輪はうんともすんとも言わない。
露店商の言葉を思い出してもみたが、指輪を無くさない様にしろとしか言っていなかったはずだ。
どうすれば指輪が光り、どうすれば現代へ帰れるのか、見当もつかない。
「…なんだろ、指輪が光らなくて少しほっとしてる…」
現代に戻りたいと言う気持ちは確かにあるが、実際に指輪が光り出したら、きっと帰りたくないと願っていただろう。
(私も大概わがままだな…、どっちだっつーの)
頭の中に、家族や友達の姿が浮かんで消える。
勿論会いたいと思ってはいるが、その気持ちは政宗を思う程ではなかった。




