愛のカタチ
愛した男がもし魔王でなかったら、天女と呼ばれてもおかしくはない、慈悲と慈愛を持った女だったろう。
今さらながら、時代を恨めしく思う。
小十郎は飛んできた矢を、微妙な角度で弾く事で軌道をずらすと、羅刹女の腕の洋弓銃に矢を跳ね返した。
「…く…ッ!?」
直接あたった訳ではなくとも、さすがの威力は洋弓銃を通して腕に伝わったらしく、羅刹女は呻いて片膝をついた。
その隙を逃さずに駆け寄ると、小十郎は洋弓銃を刀で叩き壊し、羅刹女の首筋に刀を押し当てた。
「…くっ」
まだ諦めるつもりがないのか、羅刹女は衝撃で痺れているらしい手を震わせながら、腰に付けた短刀へ手を伸ばす。
だが痺れて力の入らない手では短刀を握れず、結局諦めた様にへたり込んだ。
「…認めるわ。私の…負けね」
「……」
「命乞いはしない、殺しなさい」
欺く言葉ではなく、本心からの言葉だと分かり、小十郎は羅刹女の首筋から刀を離す。
「…?…」
「無意味に命を奪うつもりはありません。負けを認めたのなら殺しはしません」
「ずいぶん甘い…。そんなんじゃ、いつか足元を掬われるわよ」
そう自嘲気味に笑うと、羅刹女はよろめきながら立ち上がった。
小十郎は刀の柄を強く握り、羅刹女の次の行動に注意するが、羅刹女は素早く着物の袷から小刀を取り出すと、自分の首筋に刃を当てた。
「…ッ!?」
自害する気だと気付き、小十郎はとっさに羅刹女の背中に刀の峰を叩き込む。
「…!…ぁ…、牛魔…王…様…」
一瞬の動作は小十郎の方が早く、羅刹女は背中を打たれた衝撃にうつ伏せに倒れ込む。
小十郎は気を失い、倒れた羅刹女を片腕で抱き止めると、ゆっくりと大地に寝かせた。
意識を失い、閉じられた瞳からは、涙が溢れており、小十郎は目を細めると、指先で羅刹女の涙を拭った。
「哀れですね…、平天大聖などに心を奪われなければ…」
戦いのせいで乱れた羅刹女の着物を簡単に直すと、刀を鞘に納めて息を吐く。
この女とは、もっと早く…、出来れば魔王と出会う前に出会いたかった。
そんな無意味な事を考え、小十郎は馬鹿げた妄想だと首を振った。
道真に会った後、火焔城の敷地内にある小院へ連れて行かれた柚月は、またしても狭い一室に監禁されていた。
今までの馬車の荷台に比べれば遥かに良いが、監禁されている以上、気分が良いはずがない。
馬車と違い、広いせいで、見て回る分には飽きないが、逆に広すぎると抜け道を見付けるのが困難だ。
閉じ込められているとは言え、ここは牢獄でも地下でもなく、外の様子が分かる窓がある。
出入りの出来ない飾り窓だが、そこから外を見ると、出入口に二人の兵士が配置されているだけだった。
出入口からでなければ、逃げられると思い、身体が通れる窓を探していたのだが、残念ながら窓は飾り窓だけの様である。
柚月は諦めて、飾り窓の真下に座り込んだ。
(これからどうなるんだか…)
殺されるんだろうか。
だとしたら、どんな方法で?
柚月は、想像できる限りの拷問を思い浮かべて身震いする。
(やだやだ、死ぬなら簡単に、首をこう…バッサリと一刀両断に…)
そこまで考えて、ふと政宗の姿を思い出す。
「…政宗…」
もう会えないのだろうか。
二度と会う事なく、こんな寂しい場所で命を落とすのだろうか。
諦めにも似た気持ちが沸き起こる。
せめて一目だけでも良い。
政宗に会いたい、抱きしめて貰いたい。
寒さに自分の身体を抱きしめると、柚月は身体を見下ろした。
もしここで死んでしまったら、遺体を政宗の元へ返して欲しい。
そうしたら、きっと魂も迷わず政宗の元へ帰れるだろう。
そんな事を考えながら、柚月は蹲って目を閉じた。




