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山間の攻防

さっき兵士が言っていた言葉は、小十郎の心の声そのものだった。


助けに向かった政宗も、さらわれた柚月も、小十郎にとって何よりも大切で、命をけて守らなければならない存在。


その二人を、自分の力不足で危険におちいらせているのだ、辛くない訳がなかった。


(政宗様…)


今頃、政宗は少しでも菅原軍との距離を縮めているのだろうか。

小十郎は祈る様な想いで目を閉じた。












菅原軍が最後に夜営やえいをとった場所に政宗が到着したのは、城を出て十五日ほど経ってからだった。


政宗は明らかに夜営の跡と思われる辺りを見渡しながら馬を下りた。


「まだそんなに経ってねぇな」


ろくに休まずに馬を走らせた甲斐を、ようやく感じる。

やっと菅原軍に追い付いた証拠だ。


(だがせねぇな、菅原の奴は俺が追い掛ける事は分かっていたはずだ…)


火焔城かえんじょうで待つと言ったのは、他でもない菅原道真本人である。


追撃があると分かっていながら、何故夜営を取りつつのんびりと進んでいるのか。

政宗は妙な不安を感じて辺りを見渡した。


(…ここから先は伏兵や奇襲に絶好ぜっこう盆地ぼんちがある)


まさか自分で追い掛けて来るようにうながしながら、妨害しようと言うのか。


普通なら頭をひねる所だが、相手は菅原道真。

常識が通用しない男である。


(…さて、突っ込むべきか、慎重に進むべきか)


小十郎なら、間違いなく慎重に進めと助言するだろう。

だが今は小十郎はおらず、何より一気に距離を詰めたい。


ここさえ越せば、国境は直ぐそこだ。

政宗は再び馬に乗ると、歩を進めた。


すると、山間に入った瞬間、どこからか火矢が高く打ち上がった。

直後、激しい太鼓と笛の音が聞こえる。


辺りを見回すと、山間の崖の上から弓隊が姿を見せ、政宗に向かって一斉に弓を構えた。


「やれやれ、伏兵のおでましか?相変わらずいやらしい戦い方をする奴だぜ」


何の為に兵を配置したのか、理由は分からないが、ここで足止めを食らっている訳にはいかない。


「それにしても、まったくこの俺もナメられたもんだよな。弓隊なんかで俺の足止めが出来ると、本気で思っていやがるのか…」


政宗は苛立たしげに吐き捨てると、馬の腹に蹴りを入れて、自分の兵士達を振り返った。


「一気に走り抜けるぞ!」


兵士達の返事を合図に、馬を走らせると、頭上から雨の様に矢が降って来る。


刀を抜き、向かって来る矢を叩き落としながら先へ進むと、急に道が狭くなった。


(…ここで襲われたら逃げ場がねぇな)


この地形、自分なら利用しない手はない。


山間に弓隊を配置し、弓から逃げて向かう先にも伏兵を配置する。


ここなら猛攻もうこうを掛けるのに一番良い。


だが引き返したところで、弓隊の的になる事は明白だ。

政宗は覚悟を決めると、引き返さずに馬を走らせた。


そして道が一際狭くなった場所まで来ると、山間にかちどきの声が怒濤どとうの様に響き渡った。


案の定、菅原軍の伏兵が潜んでおり、政宗は囲まれた事を悟って馬を止める。


「数が多い…。八十…いや百はいるか?」


ざっと見たところ、自分が連れてきた兵の倍以上の数はいそうだ。

後から追い付いて来た兵士達も、政宗につられる様に辺りを見回している。


「政宗様、突っ切るには数が多い様ですが、どうしますか?」


「本当なら急ぎたいところだが…まぁいい。ちょうど暴れたかったところだ」


いい加減、馬を走らせ続けるのには飽きた。

溜まった鬱憤うっぷんを晴らすのに、ちょうど良い相手だ。


政宗は馬から降りると、刀を抜いた。











兵糧を取りに行かせた軍から、平天大聖軍の兵士が続々と投降している報告を聞いた後。

小十郎は物見櫓に登り、城壁の外を見ていた。


以前に見た時と、軍の編成が変わっている。


(陣を組み換えている…?何故今…)


以前の陣のまま攻めていれば、こちらは間違いなく苦戦していただろう。

それを、敢えて変えている理由は何なのか。


(攻めるなら、陣が組み上がっていない今だが…罠の可能性も…)


こちらから陣営の様子が一望出来ている事は、向こうも分かっているだろう。


それを知って尚、陣を組み換えているという事は罠か、または"やんごとなき"事情があった場合だろう。


(兵糧を取りに行かせた連中が戻るまで様子を見るか…、それとも少し叩いてみるか?)


罠であれば無謀だが、このままお互いに、睨み合いを続けていても意味がない事も確かだ。


小十郎はしばし考え込んだ後、物見櫓を後にした。


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