死神の奸計
どれくらい眠っていたのかは分からないが、廃坑で意識を手離した柚月が目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。
「ん…む…?」
どうやら猿轡をはめられているようで、声が出せない。
(ここは…?)
しかも、かなり狭い場所に四肢を縛られた状態で寝転がらされている。
麻布を被せられているのか何も見えない上、ほんの少し身体を動かすだけで、四方八方に身体がぶつかった。
(狭い…ここはどこ…?どうなってんの?)
何とか今の状況を理解しようとするが、麻布に視界が塞がれ何も見えない。
分かるのは、手足を縛られた状態で布袋に入れられ、狭い場所に閉じ込めれている事だけだ、
朝なのか夜なのかすら分からないが、耳を澄ますと、無数の規則正しい足音、そして馬の蹄の音が聞こえてきた。
(揺れてる…)
少しずつ状況が掴めて来る。
道真は火焔城へ向かうと言っていた。
おそらく廃坑で意識を失った後、火焔城へ向かう軍隊の荷台か何かに乗せられているのだろう。
(どうしよう、火焔城…?って何処…?)
最初に捕らえられていた地下牢は、奥州からさほど離れていない様ようだったが、全く知らない場所へ連れて行かれてしまっては、例え逃げ出す事に成功しても路頭に迷ってしまう。
しかし火焔城に到着するまで、この縛られた状態のままでいる訳にはいかない。
火焔城に到着するまで、休まずに軍隊を進めるとは思えず、逃げ出すチャンスがあるとすれば、途中軍隊が止まった時だ。
こうして自分を生きたまま連れていくと言う事は、死なれては困ると言うこと。
おそらく途中で食料や水くらい、与えてくれるだろう。
(逃げ出すならその時…)
まさか捕虜である自分に、道真直々に食料を与えに来るとは思えない。
一般兵なら、隙を見て逃げ出せる。
(…チャンスは一回)
一度失敗すれば、次からは警戒され、監視の目が強くなるはず。
それに、奥州を遠く離れてからでは意味がない。
今は大人しくしているしかない。
(…あいつの話からすると、火焔城へ向かう軍は少ないはずだよね)
今回、何故自分が拐われたのか、ふと考えてしまう。
(政宗の城を攻めてる真っ最中に、何であいつは戦場を離れて火焔城へ向かうわけ?しかも私を連れて…)
道真の言葉を思い返すに、火焔城へ向かっているのは道真の軍隊だけのはず。
たった一軍だけを率いて、火焔城で何をしようというのか。
(平天大聖は軍のほとんどを奥州攻めに使ってる。たった一軍だけで火焔城に行く理由は何?)
それを考えると、不吉な予感に背筋が凍る。
何か目的があって、軍隊を火焔城へと動かしているのだろうが、道真の事だ、政宗を諦めたとは思えない。
だとしたら、こうして火焔城へ向かっていながらも、道真は政宗を狙っているだろう。
(火焔城…政宗…)
今まで生きてきて、一番頭を使っているのではないかと思う程に考える。
(火焔城へ向かっていながら、政宗を諦めてないと考えるなら、政宗を火焔城へ誘き寄せるはず。でもいくらなんでも、戦の最中に政宗一人を火焔城へ誘き寄せられる…?)
政宗は仮にも一国の主である。
いくら道真との決着を望んでいたとしても、戦の最中に一人で誘い出す事は難しいはずだ。
(…もし私なら行かないわ、それに政宗は国の人達を大切にしてる。国を放って、個人の決着を優先させる人じゃない…)
そう考えた時、柚月は道真の考えが分かった気がし、ドクンと胸が跳ね上がる。
(だから…私?)
政宗がどれだけ自分を大切にしているのか、身に染みて分かっている。
自分とて、逆の立場なら全てを放って、大切な人の元へ向かうかも知れない。
(いや…、いくら私を大切に思ってたって、政宗はちゃんと自分の立場を分かってる。それに小十郎さんもいるんだから、そんな無茶はしないはず)
本当は助けて欲しい。
今すぐに来て、抱きしめて欲しい。
だがそれを政宗に望むのは酷だ。
柚月は、身勝手な感情を抑えるように首を振った。




