狙う理由
小十郎が紅孩児と対峙している頃、政宗は道真との鍔ぜり合いを続けていた。
今すぐにでも柚月の元へ駆け付けたい政宗にとって道真は邪魔者でしかなく、手加減は一切していない。
だがそれは柚月を手に入れたい道真も同じ様で、力の均衡が全く変わらないのだ。
「くそ…っ!!」
道真の言葉…、まるで"自分の他にも柚月を拐いに来ている者が居る"かの様な言葉を思い返すと、不安で堪らなくなる。
もしはったりでなく本当に来ているのなら、それは間違いなく魔王の息子、紅孩児だろう。
運良く小十郎に出会えていれば良いが、一兵士では確実に歯が立たない。
何とか焦りと不安を隠して刀を奮うが、この菅原道真という男は、迷いのある刃が通じる程、楽な相手ではない。
少しでも隙を見せると、容赦なく左右から長刀が降り下ろされて来るのだ。
一瞬でも気を抜けば、あっという間に真っ二つになるだろう。
政宗は床を削りながら腹部を狙って来る刀を避けると、持っていた刀の切っ先を道真に向けた。
「…魔王が柚月を欲しがる理由は何だ」
視線を外さずに、隙を窺いながら問い掛けると、道真は刀を振って背中に回す。
「死んでくれたら教えてやるよ」
「ふざけんな」
飄々と質問をはぐらかす道真に、じり…と間合いを詰めながら再び問うと、政宗は刀を構え直した。
情けない事に不安材料があり過ぎて、道真に精神的優位に立たれている。
それは本人も分かっているのか、道真は余裕の様子で再び長刀を振り上げた。
「まぁ良いや、冥土の土産に教えてやるよ。平天大聖が…お前のお姫さんを手に入れ様としている理由…」
話しながらも刀は変幻自在に動き、政宗の急所を狙って来ており、政宗はその刃を刀で受けると、鬱陶しそうに弾き返した。
「冥土の土産に…ってのは頷けねぇが、せっかくだ…聞かせて貰おうか?」
刃を弾いた刀を、そのまま道真の頭上に振り下ろしながら答えると、今度は道真がそれを避ける。
「指輪の情報が欲しいんだよ」
「…だろうな。…だが俺が知りたいのは、指輪と柚月の接点だ」
そんな事は分かりきっている、政宗は苛つきながら地を蹴ると、刀を真横に薙ぎ払う様に斬り掛かる。
「確かに指輪の持ち主は柚月だが、柚月に拘る理由はそれだけじゃねぇ…そうだろう!!」
「おっとっと…流石だな、じゃあそれも教えてやるか。平天大聖は、この国だけじゃねぇ…この世の全てを地獄にするつもりなんだよ」
政宗の振るった刀を避けながらそう言うと、道真は距離を取る様に背後に跳んだ。
「…全てだと?」
「平天大聖の所へ指輪が献上された時…俺は目を疑ったぜ、当然だろ?光ってんだもんよ」
「……」
距離を取った道真との間合いを詰めつつ、政宗は柚月の語った指輪の特徴を思い出す。
光る指輪…、今さらだが間違いないだろう。
「あれはいつの事だっけなぁ…、陰陽師が戦の吉凶を視た時があったんだよな」
「陰陽師…」
「たかが指輪が、戦の明暗を分けるっつーんだよ。何言ってんだこいつ、ってその時は思ったぜ?さすがの俺もな」
「今になって、それらしい指輪が手に入ったって事か…!」
刀の切先を道真の眉間に突き出しながら、政宗は同時に一歩踏み出して、離された距離を詰める。
「その陰陽師が言うには、その指輪さえありゃ天下どころか、この世の全てが手に入るだろうってよ」
さらりと眉間に突き出した刀を避けながら、話を続ける道真の顔面を目掛けて蹴りを繰り出した政宗は、わざとらしく鼻で笑う。
「何が陰陽師だ、怪しげな占いだぜ。そんなもんを信じるとは、魔王も大した事ねぇな」
「何とでも言えよ、あぁ…そうそう。お前のお姫さんを攫う理由だったよな。実は元の持ち主を探せって言ったのは陰陽師なんだよ…。元の持ち主の命を以て指輪の力はさらに強くなるってよ」
そう言うと、道真は「この意味が分かるか?」と薄気味悪く笑う。
「生贄って事か…」
「せいかーい!褒美に死と絶望を贈ってやるよ!」
獲物を狙う蛇の様な目には、既に遊びとは違う、確かな殺意が光っていた。




