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竜と死神

「…ひ…」


恐怖で身体が動かなくなり、震えながら道真を見上げると、道真はにやっと笑いながら唇を舐める。


自分を狙う刀の切先きっさきが月に反射してきらめいている。

もうこれ以上は我慢出来ない。

今にも刀が振り下ろされようとしている気がする。


(死ぬ…!!)


全身を支配する恐怖に逆らわぬまま、大声をあげようとした時。

道真は、柚月に向けていた刀を自分の背後に向けて振り上げた。


「…?」


酷く大きな金属音が響いたと思った瞬間、柚月は誰かに腕を引かれて立ち上がる。


「…ッ?」


誰だと思いながら振り返ると、そこには刀を構えた政宗の姿があった。


「政宗!」


腕を引く政宗を見た柚月が安心して名前を呼ぶと、政宗は柚月を後ろに押し退けて道真の前に立った。


その様子は今までにない程に殺気立っており、柚月はピリピリと皮膚が痛む程の鳥肌を感じる。


「まーたお前かよ、随分と殺気立ってんな。物凄い気あたりだぜ?」


空気が震えているとでも言うのだろうか。

政宗は柚月を背中に隠したまま、道真の喉元に刀を突き付ける。


「少しでも動いてみろ…、その首落ちるぜ」


「殺る気満々だな、だけど良いのかよ?そんな事を言って…。それを言うなら、お前も…お前の大事なお姫さんも同じだぜ?」


道真の言葉の通り、柚月は道真の長刀が届く位置にいる。


勿論、ただ刀を振るだけでは届かないだろうが、道真はほんの一瞬で柚月との距離をつめられるだろう。


これは距離は関係ない。

つまり、攻撃の範囲内と言う事だ。


政宗は道真から視線を逸らさぬまま、柚月をかばう様に移動する。


「走れるか?」


「…ま…政宗…」


「俺が走れと言ったら、全力で走れ」


「でも…」


「言う事を聞け、良いな?」


不安げに眉を寄せる柚月にそう言うと、政宗は刀を構え直す。

なめらかなその動きは一瞬で、政宗は床を蹴って道真に斬り掛かると同時に声を上げた。


「走れ!!」


言われるまま、背中を向けて走り出すと、背後で刀を振る音と、それを受ける刀の音が聞こえる。


おそらくは、道真が柚月に斬り掛かり、それを政宗が止めたのだろう。見なくても分かる。

柚月は政宗を信じてその場を離れる様に走り出した。











走って行った柚月の後ろ姿を眺めていた道真は、特に残念がる様子も見せずに政宗を見た。


「行っちまったな。良いのか?一人で行かせて…」


「…あぁ?」


首を斬ろうと力が込められた刀を刀で押し戻しながら、政宗は道真の真意を推し量る様に目を見つめる。


「…何が言いたい」


「俺が一人で来てると…誰が言ったんだ?」


「…何?…ッぐ…!」


隙を見せてしまったのか、刀を弾かれた政宗が手首に受けた衝撃にうめくと、道真はその首に刀をあてる。


「俺は勿論一人で来たけどな?この城に忍び込んでいるのは俺だけじゃねーぞ」


「…ぐ、くそ…!」


弾かれた刀の代わりに、新しい刀の鯉口こいくちをきると、政宗は心配そうに柚月が逃げて行った方向へ顔を動かす。


だが心配そうな顔をしたのは一瞬で、政宗は冷静さを取り戻すと、刀を抜いた。


「…まだ安心出来ねぇって事か。なら…今すぐお前を斬って、後を追うだけだ」


「出来るかよ?」


「上等だ…」


お互いに一歩も譲らずに牽制し合うと、政宗はジリ…と道真との距離をつめる。


今やるべき事は、一刻も早く道真を斬る事。

そして柚月を追い掛ける事だ。


余計な時間は掛けられない。


それは道真も同じなのか、殺し合いを楽しむ様な、いつもの余裕は感じられなかった。












政宗と道真の元を逃げ出し、無我夢中むがむちゅうで走っていたせいか、柚月は思ってもみない場所まで来ていた。


嫌な記憶しかない、道真と初めて出会った兵舎である。


たまたま走っていた方向が兵舎だったのだろうが、未だに道真の手の内にいる様な嫌な感じがしてしまい、引き返そうかと辺りを見回す。


(誰か…誰かに菅原の事を知らせなきゃ)


必死に辺りの人影を探すが、さすがに一度敵に侵入された兵舎で休む者などいないのだろう。


辺りには誰の姿もない。


(そうだ…、小十郎さん…!!)


戦を控えた前夜、小十郎が休んでいるとは思えない。


道真を相手に一般兵が役に立つとも思えず、柚月はすがる思いで小十郎の自室へ走り出した。


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