表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/90

指輪の行方

市に出ると、嫌な予感を消し去る喧騒が響き渡っている。


アクセサリー類がありそうな小物屋を見て回っていた柚月は、指輪を探しながらも、気に入った小物を見付けては楽しそうに眺めていた。


今までは可愛らしいデザインが好きだったが、この世界に来て以来、龍を型どったデザインに目を奪われる様になっており、自ら苦笑してしまう。


「おッ、可愛いコレ」


龍のモチーフにしては珍しく、可愛らしいデザインの扇子を見付けると、思わず手を伸ばす。

広げてみると、龍が月を目指して夜空を駈けている絵が描かれていた。


(月と龍…)


描かれた月は満月であり、上弦でない事が残念だが、月と龍のモチーフは、政宗を思い浮かばせる。

柚月はこっそりとポケットを探り、政宗から貰った金を全て出し、店主に見せた。


「この扇子なんですけど、…足ります?」


手に持った扇子を見せながら聞くと、今までムスッとしていた店主は、接客向けの愛想笑いを柚月に向けた。


「毎度」


思ったよりも安かったのか、ジャラっと釣りを返され、柚月は小銭をそのままポケットに突っ込む。

キョロキョロと辺りを見回すと、政宗は茶屋で一服している様だ。


買った扇子を制服の上着の内ポケットに隠す様にしまうと、柚月は政宗に駆け寄った。


「政宗!!」


名前を呼びながら隣に座り、茶屋の奥にいる店主に茶を注文する。


「ねぇ、そっちどうだった?」


暗に自分が見て回っていた方には指輪はなかったと言うと、政宗も黙って首を振る。


「こっちも外れだ」


「…先に買われたのかな」


指輪を見付けている時は、見付からないで欲しいと心の何処かで思っていたが、いざ見付からないとなると、今度は不安が脳裏のうりよぎる。


(我が儘だな、私…)


見付かって欲しいのかいなか。

正直自分でも分からないのだ。


元の世界…家族の元にも帰りたいが、政宗とも離れたくない。

家族と政宗。

どちらも大切な存在であり、どちらかを選ぶ事は、どちらかを捨てる事になる。

今はまだ、どっちを選びたいのか自分で分からないのだ。


生まれて初めて好きになった政宗と離れたくはない。

だが大事な家族に一生会えなくなると考えるだけで、今すぐ会いたくなる。


(…恋に全てをかける…どんな気持ちだろう)


ちらりと政宗を見ると、何かを考える様に遠くを見ている。


ドラマの恋愛の様に、一人の男の為に全てを捨てる覚悟は、まだ柚月にはなかった。













あれから数刻、今度は二人で目ぼしい店を回ったが、結局指輪は見付からず、柚月は疲れた様に溜め息を吐いた。


「無理だね、見付からないや」


「…もしかすると、指輪の情報自体が間違っていたのかも知れねぇな」


「どういう事?」


「俺が兵から聞いたのは、正確には市に出されるモンと言うより、盗賊が手に入れ、市に出されるかも"知れない"モンだ」


「…つまり?」


回りくどい言い方に柚月が理解出来ずに首を傾げると、政宗は何かを考える様に黙り込む。


「ねぇってば、政宗…」


今朝から、政宗は時折ときおりこんな難しい顔をする事が増えた。


それが柚月にどれほど不安を与えているのか、気付かぬ政宗ではないだろうが、それほどまでに深刻な事でも起きているのだろうか。


不安げに見つめていると、政宗はハッとした様に柚月を振り向いた。


「あー、えっとつまりだ。指輪を見付けても、市に出されない可能性もあるって事だ」


「…?金儲けの為に盗賊なんてやってるんでしょ?売らずにどうするの?」


盗賊なんて野蛮な連中が、指輪をつけているとは考えにくい。

だとすれば、指輪は何処へ行ったのか。


そんな事を考えていると、政宗も同じ懸念けねんを抱えていたのか、深刻そうに息を吐く。


「指輪を森で見付けてない…って可能性は?指輪なんて小さいもの、見つけられてない可能性の方が高いんじゃない?」


「否定は出来ねぇな、だがあの森は盗賊の縄張りだしな…、金目の物に目がない盗賊が毎日うろついてんだ。盗賊が見付けて持ち去ったと考える方が無難だろ」


「持ち去った…って、でも何処へ…」


「問題はそこだ」


そう言うと、政宗は再び黙り込む。

表情から察するに、政宗は、指輪が何処へ行ったのか心当たりがありそうな気がする。


(聞いても教えてくれないんだろうな、どーせ…)


朝から考え事をしているのは、指輪の事なのだろうか。

指輪を探す事を、そこまで親身になってくれるのは有り難いが、柚月はふと寂しくなる。


指輪を見付ける事、それはすなわち、別れを意味するからだ。


指輪が見付かるまで城に居ろと言ったのは政宗であり、その事に気付いていないはずはない。


それでも指輪を必死に探してくれていると言うのは、自分と別れる事が辛くないと言う事だろうかと、柚月は複雑な気持ちで政宗を見つめた。


「…城に戻るか、指輪がない以上、ここに居ても意味はねぇもんな」


「ふりだしに戻る…か」


「そんな顔すんなよ、何とかする。指輪は必ず俺が見付けてやる。安心しろ」


「…うん」


不安な気持ちを隠す様に俯いて返事をすると、政宗は柚月の前髪を上げて額に口付けた。


「お前の望みは、全て俺が叶えてやる」


「政宗…」


名前を呼びながら顔を上げると、今度は抱きしめられ、唇に深く口付けられる。

柚月は考える事を止めると、政宗の背中に腕を回した。













行きと違い、帰りは寄り道をせずに馬を飛ばし、城に戻る頃には、くたくたになっていた。


湯を使う事すら諦めて布団に入ると、疲れきった様に目を閉じる。


「はぁー…、結局見付からなかったなぁ…」


残念に思いながらも、どこか安心している自分がいて、柚月は溜め息混じりに息を吐く。


(今頃、皆どうしてるかな?死んだ事にされて、お葬式とか済んでたりして)


まだ来てそう経っていないが、随分と長いことこちらで暮らしている気がする。

順応性が高いのは良い事だが、あまり高すぎるのも考えものだ。


(とりあえずは政宗に任せるしかないか…、私じゃ探せないしね)


今出来る事は、何とかすると言ってくれた政宗の言葉を信じる事だけだ。


ごろりと布団の上で寝返りをうつと、柚月は失った体力を取り戻す様に深い眠りについた。












柚月が自室で眠りについた頃。

政宗は責務室で小十郎と顔を付き合わせていた。


話の内容は主に市で見付からなかった指輪の事と、政宗不在時の事である。


「そうですか、やはり指輪は見付かりませんでしたか…」


「…あぁ、嫌な予感はしていたんだがな」


そう言って政宗が眉をひそめると、小十郎は辺りの気配をうかがう様に視線を動かす。


「…平天大聖へいてんたいせい牛魔王ぎゅうまおうの事ですね」


「そうだ話が早くて助かるぜ。最近、陣地を広げて、ここへも手を伸ばそうとしている事は知ってるだろう?」


「えぇ、もちろんです」


斥候せっこうに出していた奴等の話では、付近の盗賊は殆ど壊滅かいめつ状態だそうだ」


「はい、おそらく生き残った者はいないかと」


「だろうな」


「ですが政宗様、牛魔王の仕業だと決め付けるのは早計では?」


「他に誰がいる」


「探っております」


「時間の無駄だな」


あくまで慎重な小十郎と、大胆な政宗とでは考えが合わず、こうして話が平行線になる事がある。


折れるのは大概、小十郎の方であり、今回も自分が折れる事は最初分かっていたのか、小十郎はしつこく進言せずに話題を指輪に戻した。


「おそらくですが、柚月の探してる指輪は、牛魔王への献上品の中にある可能性が高いかと」


「俺も同じ事を考えていた。指輪を手に入れた盗賊を潰したのが平天大聖軍へいてんたいせいぐんなら当然だ」


「そうなると、指輪を取り返すのは至難でしょう」


「だから何だ?諦めろとでも?」


「…いえ」


「欲しいもんは必ず手に入れる、必ずだ」


そう言うと、政宗は脳裏に浮かぶ柚月の姿に胸が痛くなる。


欲しい物は必ず手に入れる。

口ではそう言ったが、では本当に欲しい物とは何なのか。


それはきっと、指輪でも天下でもない。


だがそれを口に出来る立場でない事は、誰よりも政宗自身が分かっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ