表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/90

Each crime

「ほ…本当ですか?知ってるの?」


驚いた様に俯いていた顔を上げると、柚月は政宗から小十郎へ向き直る。


「教えて下さい、弓さんのお祖母さんって…?死んだって聞いたのに、片倉さんは生きてるって言いましたよね?どっちが本当なんですか?」


「…私も生きているとばかり思っていました」


「…て事は…やっぱり亡くなってるんですか?なら、この手紙に書かれてるお祖母さんって?」


「それも弓のお祖母様です」


「…はぁ?」


自分の言っている事が分かっているのかと言いたげに柚月が首を傾げると、小十郎は話を聞けと言わんばかりに話を続ける。


「昨夜…弓が私を訪ねて来ました」


「…弓さんが?」


「えぇ」


「弓さんは…なんて?」


「…彼女が言っていたのは、柚月様に話したお祖母様の事…それに毒薬の事です」


毒薬と言う言葉を口にした時、小十郎はほんの一瞬だけ柚月から顔を逸らす。


「…先ずお祖母様の話ですが、亡くなったのは父方のお祖母様。生きているのが母方のお祖母様です」


「あ…」


そうだ、祖父母というのは普通、父方と母方といるもので、一人と決まっている訳ではない。


「今面倒をみているのは母方のって事ですね」


「…弓さん…手紙でお祖母さんの死の真相って言ってたけど…」


政宗が読んでくれた手紙の内容を思い返しながらそう言うと、小十郎はちらりと政宗に視線を送る。


(…政宗?)


つられる様に政宗に視線をやると、政宗は無言を貫き通したままだ。


だが、その無言は先を話せとあんに言っているかの様で、小十郎は再び柚月に向き直った。


「…弓の父方のお祖母様は…確かに、この城で命を落としています」


「…弓さんの話は…嘘じゃ…なかった?」


「…えぇ、まぁ貴女が勝手に勘違いしたのか、それともわざと勘違いする様に話したのか…弓にどんな思惑があったのかは知りませんが、嘘ではありませんね」


柚月の脳裏に、嘘を吐くなと弓を責めた夜の事が思い出される。


(私…なんて事を…)


その後、小十郎は毒薬を盗んで柚月の文台へ隠したのが弓だった事や、弓が暗に柚月を天守へ導いた事を語ったが、それは弓を責めた夜を思い返している柚月の耳にはほとんど届いていなかった。










時間は少し遡り、柚月が政宗に弓からの手紙を読み聞かせて貰っている頃。


己の故郷である村へ帰っていた弓は、薄暗い部屋で古びた布団に横になっている祖母の前に座り込んでいた。


しばらくの間様子を見ていたが、母親は特に苦しむ様子を見せずに眠っている。

今までの薬が効いていて、全快とまではいかずとも良くなっているようだ。


これなら大丈夫だろう、弓は安心した様に立ち上がる。


部屋の中の隠った空気を新鮮な空気に変えようと、閉め切っていた引き戸を開けると、冷たくも気持ちの良い風が室内を通りすぎて行く。


「…柚月様…お許し下さい…」


小さく呟いた言葉は、当然誰の耳にも届くはずがなく。

弓は懐から薬庫から盗んだ毒薬の残りを取り出すと、用意しておいた水の中に溶け込ませた。











小十郎から弓の話を全て聞いた柚月はその日、市へ行く事もせずに自室に引き込もっていた。

頭にあるのは、弓を責めた後悔だけ。


何故話を聞かなかったのか。

あの夜、弓から話を聞いていれば、弓はいなくならなかったかも知れない。


考えれば考える程に涙が止まらず、柚月は弓の残した手紙を抱きしめながら嗚咽おえつを漏らす。


「…ごめんなさい…弓さん」


動く気力も食べる気力もなく、どれ程の時間を泣き濡れていたのか。

気が付くと、既に辺りは夜のとばりが落ちきっていた。


つい数日前まで、暗くなると決まって部屋を訪れ、火鉢に火を入れていた弓を思い出し、火の無い火鉢に視線を送った柚月は、廊下を歩く足音に気付いて顔を上げた。


「…弓さん!?」


足音が部屋まで来るのを待ちきれず、立ち上がって襖を開けると、そこに立っていたのは政宗だった。


「政…宗…」


ずっと泣いていた事もあり、目の腫れた顔を隠す様に俯くと、政宗は優しく柚月を抱きしめた。


「泣いてたのか…」


自分を抱きしめる胸の温もりに安心した様に目を閉じると、柚月は政宗の背中に腕を回す。


「政宗…私ね、弓さんを責めたの、お祖母さんが城で死んだなんて…嘘だと…」


「…言うな、大丈夫だ。弓は分かってる、だからあんな手紙をお前に残したんだろう」


「政宗…でも私…あんなに優しい弓さんを嘘つき呼ばわりして…」


人間はこんなに涙を流す事が出来るのか。

そう不思議に思うくらいに涙が溢れる。


止まらない涙を拭う事すら忘れ、ひたすら政宗の胸で泣きじゃくっていると、政宗は強く柚月を抱きしめた。


「ごめんな柚月…、原因は…俺なんだ。自分を責めるな、本当に責められるべきは俺なんだから…」


「…?政宗…?」


何を言い出すのかと、真っ赤に腫れ上がった顔を上げると、政宗は柚月の腫れた瞼に口付けを落とした。


「政宗?…どうして政宗が責められなきゃならないの?」


一体何の話なのか。

涙を擦りながら問い掛ける柚月に。


「弓のばあさんを殺したのは…俺…だから…」


辺りが静まり返っていなければ聞き逃してしまいそうな程にかすれた声で、確かに政宗はそう呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ