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さよならの手紙

政宗の部屋から感情のままに逃げ出し、自室に戻った柚月は、弓が運んで来てくれた火鉢の前にしゃがみ込んだ。


「弓さん…、もぅ…会えないの?」


こんな事になるなら、あの時にきちんと話を聞いておけば良かった。

何故話す気になった弓を部屋から追い立ててしまったのか…。

今更ながらに後悔ばかりがつのる。


いつも柚月を第一に考え、心配してくれた弓を何故信じてやれなかったのか。


この世界にきて、心細かった気持ちを癒してくれたのは弓だった。

他愛無いお喋りや笑い話など、友人のように接してくれた。

弓は柚月にとって、この世界で初めて出来た大切な友達だったのだ。


「…話…聞けば良かった…弓さん…、あの時何を話すつもりだったの…」


既に火を入れてくれる者のいなくなった火鉢を何気なく眺めながら呟いた柚月は、火鉢の中に丁寧に折り畳まれた紙切れが入っているのに気付いて首を傾げた。


(…火種?いや…何か書いてある)


紙を拾い上げて開いてみると、柚月に宛てて書かれた手紙である事が分かる。


だが昔の言葉で書かれている文章は全く理解出来ず、柚月は手紙を胸に抱きしめると、気が急く思いで政宗の元へ戻る為に走り出した。


焦っていたせいか、廊下を走る途中で何度も転びそうになりながら、政宗の部屋まで戻った柚月は、声を掛ける事すら忘れ、乱暴に襖を開け放つ。

すると室内にいた政宗は、呆れた様に柚月を一瞥した。


「本当に落ち着きのない女だなお前は。どうした?気が変わっ…」


「政宗!これ読んで!!」


話している途中だった政宗の言葉に被せる様に怒鳴りながら、火鉢の中に入っていた手紙を突き付けると、柚月は政宗の前に座り込む。


「部屋にあったの、読めないけど…弓さんからの手紙だと思う」


「……」


無言のまま柚月が差し出す手紙を受け取ると、政宗はちらりと柚月の顔を見てから手紙の内容に目を落とす。


手紙を読む政宗を見つめていた柚月は、急かす様にジリジリと政宗へ距離を縮め、その顔を覗き込んだ。


「…なんて書いてあるの?」


内容が知りたい柚月は眉をひそめながら問い掛けるが、政宗は柚月から目を逸らすと手紙を閉じる。


「政宗!!お願い内容を教えて!読めないの!」


手紙を持つ政宗の手を握り、必死に頼み込むと、政宗は柚月の顔を見つめた。


「分かった、読んでやるから落ち着け」


「……」


読んでくれると言う政宗に安堵して頷くと、柚月は政宗の前に正座して身を正した。


そんな柚月を見た政宗は、再び手紙を開くと書いてある内容を読み始めた。





[ 柚月様

最後の挨拶がこの様な形になってしまいました事、心よりお詫び致します。恥を忍んでこうして筆を取ったのは、先ず片倉様の事でございます]





そこまで読むと、政宗はちらりと柚月を一瞥してくる。





[おそらく片倉様は私に暇を出したと言うでしょう。

ですがそれは違います。

私が自分の意思でお願い申し上げたのです。

私はこれから、祖母の面倒を見ながら田舎でのんびり暮らそうと思っております]





『…祖母の面倒?』


面倒を見ると言う言葉は、普通生きている者に対して使う言葉であり、既に亡くなっている者に対して使う言葉ではない。


やはり祖母がこの城で死んだと言うのは嘘だったのか…と、柚月が胸の痛みに目を閉じると、政宗は早く先を聞かせたいかの様に手紙を読み進めた。






[ですが、その前に柚月様に本当の事を自身の口から申し上げられなかった事が、悔やまれます。

柚月様のお優しさに付け入り、祖母の死の真相を知ろうとした事、あんなに良くして頂いたのに、その恩をあだで返そうとした事。

どう償えば許して貰えるのか分かりません。

ですが、これだけは信じて下さい。私は柚月様にお仕え出来た事を誇りに思います。

どうかこの不忠な私の事など忘れ、お心穏やかにお過ごし下さい。

お優しい柚月様が、私の事で心を痛める事の無い様、心より願っております]






手紙はそこで終わったのか、政宗はそう締めくくると手紙を丁寧に畳み直し、柚月に差し出した。


「…政宗、本当の事って何なの?書いてないの?」


「…手紙の内容は読んだ通りだ」


「で…でも…これじゃ何の事だか…、弓さんのお祖母さんは生きてるの?ねぇ、政宗…」


多くを語ろうとしない政宗だが、全てを知っているだろうと推測し、説明を求める様に見つめると、襖を挟んだ廊下から小十郎の声が響いた。


「政宗様」


「…入れ」


「失礼します」


姿を見せた小十郎から、顔を逸らす様に柚月が俯くと、小十郎は柚月の隣にしゃがみ込んだ。


「…馬の用意が整いました」


「分かった。…どうするんだ柚月。行くのか、行かねぇのか」


「……」


間が悪く…いや、政宗にとっては間が良かったのか、小十郎が来た事で話を終えようとしている政宗に恨めしそうな顔を向けると、隣に座った小十郎が口を開いた。


「柚月様…、そんなに知りたいのでしたら、僭越せんえつながら私がお話しいたします」


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