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宣戦布告

「…え?…幽霊?」


「そうだ…、どんな状況で見た、どんな姿だった」


「…っと、いきなり言われてもなぁ…。確か…」


記憶の網を手繰り寄せながら、老女に出会った時の状況を語ると、政宗は時折ときおり細かい事を聞き返しながら耳を傾ける。


「じゃあ、最初に天守に幽霊が出ると言ったのは、その女なんだな?」


「うん、だから天守には登らない方が良いって…」


「だがその女は天守へ登って行った」


「そう、だから変なのって思って。人には行かない方が良いって言っといて、自分は平気で行っちゃうんだもん」


「…それで?幽霊だと確信した理由は何だ?」


「え?」


言われている意味が分からず、柚月が一瞬きょとんとした顔をすると。


「それだけじゃ変わった奴だと思うだけだ、幽霊だと確信した理由が他にあるだろ?」


「あ…あぁ、その…」


それを説明するには、弓から聞いた祖母の話をしなければならないが、既に小十郎から弓の話を否定されていた柚月は、どうしたものかと口をつぐむ。


「…ただ、何となく」


正直に話せば、今度は何故弓が嘘を吐いたのかと言う、当然の疑問が出てくるだろう。


ただでさえ、自分が毒薬を盗んだ犯人だと疑われている中、弓にまで容疑の目を向けたくはない。


結局、弓の話をせず、何となく幽霊だと思ったのだと主張し続けると、政宗は諦めた様に首を振った。


「…そうか、納得は出来ねぇが仕方ねぇ」


頑なに主張を覆さない柚月に、これ以上話を聞いても新しい情報は出ないと分かったのか、政宗は諦めた様に立ち上がる。


「邪魔したな。…新しく何かを思い出したら、いつでも良い…俺に話せ」


「…うん、分かった」


心配しているのであろう政宗に感謝しつつも、先ずは弓に話を聞いて、自分に嘘を吐いた理由を問い質したかった柚月は、部屋を出て行った政宗の後ろ姿に心の中で頭を下げる。


(ごめん、政宗…言えなくて…)


しばらくの間、政宗が出て行った襖を見つめていた柚月は、覚悟を決める様に深呼吸すると、襖を開けて廊下に顔を出した。


「誰かいませんか?…いますよね?」


軟禁状態は終わったものの、未だ監視はいるはずだと確信していた柚月は、誰もいない廊下に向かって声を掛ける。


すると、一人の兵士がおずおずと廊下の角から姿を見せた。


「あ…あの…お呼びでしょうか?」


「弓さんを呼んで下さい」


気が弱いのか、及び腰で聞いて来る兵士に用件を伝えると、兵士は困った様に辺りに視線をさ迷わせる。


「あ…あの…、申し訳ありません…、その…彼女は柚月様とお会い出来ません」


「…?どうしてですか?」


弓は自分に付けられた世話役のはず。

その弓が柚月に会えないとは、どういう了見なのか。


兵士のおどおどした態度も手伝い、つい苛ついた様に聞き返すと、兵士は泣きそうな顔で頭を下げた。


「か…片倉様よりの仰せです、申し訳ありません…」


やっとの様子でそれだけを言うと、兵士は柚月の言葉を待たずに逃げる様に姿を隠す。


兵士のいなくなった廊下を茫然ぼうぜんと眺めていた柚月は、ふつふつと怒りが込み上げるのを感じ、悔しそうに拳を握る。


(…アイツ…!とことん私を疑ってる訳ね!!…良いわ、やってやろうじゃない…)


このまま小十郎に事件解決を任せていたら、確実に犯人にされてしまう。


そう感じた柚月は、危険な行為だと理解しながらも、自ら真相解明に乗り出すのだった。












翌日、最初に柚月が起こした行動は、政宗に会いに行く事だった。


細かな説明は敢えて省き、弓に会わせて欲しいと頼むと、政宗は不思議そうに柚月を見返した。


「…弓に?」


「そぅ、話したい事があるの。でも片倉さんが会わせない様にしてるみたい」


昨夜の事で小十郎に対し敵対心があった柚月は、歯に衣を着せる事もせずに、刺々しく小十郎の名前を口にする。


その様子を見た政宗は、やれやれと言った様子で肩をすくめると、大した事もなさそうに頷いた。


「なら此処に呼んでやる、おい!誰かいるか!?」


「あッ!待って政宗!」


此処ここに呼ばれては、政宗に秘密にしている意味がなく、家臣を呼ぼうと声を上げた政宗を慌てて止めると、柚月は大きく首を振った。


「えっと…実は弓さんとは、二人きりで話したいんだ…けど」


「俺には聞かせられねぇ内容か?」


「いやその…」


ここで政宗が考えを変え、弓を呼んでくれなければ話が進まない。


何と答えたら良いかと目を逸らすと、政宗はしばらく柚月を見ながら黙り込む。


「…まぁ良い、だったらお前の部屋に行く様にしてやるよ。それなら良いだろ?」


「ほ…本当?ありがとう政宗!」


嬉しそうに手を叩くと、柚月は時間を惜しむ様に立ち上がった。


「じゃあ私は部屋に戻るから、お願いね政宗」


「…柚月」


「…ん?」


部屋に戻ろうと襖を開けた柚月が名前を呼ばれて振り返ると、政宗は溜め息混じりに息を吐く。


「何を考えてんだか知らねぇけど、無理はするなよ?その…俺はお前の味方だ」


「政宗…」


「…行けよ」


驚いた様な顔で名前を呼ぶ柚月から顔を逸らすと、政宗は短く言い捨て、犬猫を追い払う様な仕草を見せる。


柚月はお礼の言葉の代わりに、しっかりと頭を下げると、それ以上は何も言わず、襖を閉めた。


ちょうど廊下に出ると、タイミング悪く小十郎がこちらに向かって歩いて来ており、柚月は何となく小十郎を見つめる。


見つめられている事に気が付いたのか、小十郎は柚月に視線をやると、あからさまに眉をひそめつつも頭を下げた。


「ご機嫌よう、柚月様」


「……」


「政宗様の部屋の前で何をしてらっしゃるのですか?」


「…別に…、片倉さんに弓さんに会わせない様にされたので、政宗に会わせて貰える様に頼みに来ただけですけど?」


嫌味を込めてそう言うと、小十郎は薄く笑いながら顔にかかった長い髪をかきあげる。


「何の話をしているのやら…」


「さぁ…?何の話でしょうか…、片倉さんに分からない事が私に分かるはずないですよね」


「……」


「じゃあ、私は部屋に戻るんで」


何か言いたげな小十郎の視線を無視すると、柚月は話は済んだと言いたげに踵を返す。

だが背中に小十郎の刺す様な視線を感じ、柚月は振り返らずに立ち止まった。


「…片倉さん、覚えておいて下さいね。私を犯人にしたいなら、確かな証拠を持って来て」


そこまで言うと、柚月は振り返って真っ直ぐな視線を小十郎に向けた。


「証拠がなければ、例え拷問されても認めない。身に覚えのない事の濡れ衣は絶ッ…対に着ないから!」


強い意思のこもった柚月の言葉に気圧されたのか、小十郎は言葉を失った様に無言で柚月を見つめる。


そんな小十郎に頭を下げると、柚月は改めてその場を立ち去った。

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