第2話「春の匂いがした日」
春桜は、明るい。
よく喋り、よく笑い、誰とでもすぐ仲良くなれる。
でもそれは、“弱さを見せないため”でもあった。
加入してから2年。
後輩が増え、後ろから「先輩!」と呼ばれるようになった。
「春桜さんって、いつも元気でいいですよね」
「ほんと、全然落ち込んだりしなさそう」
そんな言葉に、心が少しだけ痛む日もあった。
だって、本当は――
笑っている日より、不安でいっぱいな夜のほうが、多かった。
そんな春桜のことを、梨乃茅は見抜いていた。
「無理に“元気キャラ”やらなくていいんだよ。」
ある日、撮影終わりの帰り道。
車内で、梨乃茅が何気なく言った。
「……でも、ファンは“笑顔の私”が好きだから……」
「“本音のあなた”が嫌いな人を、ファンって呼ばなくていい。」
その言葉に、春桜はぽろりと涙をこぼした。
「ごめん……なんか、泣いちゃうの久しぶり……」
「泣きな。泣けるうちは、まだ頑張れるから。」
その夜、春桜は日記アプリにこう書いた。
『私は今日、初めて“春桜”としてじゃなく、“私”として人に甘えた。
明日も笑っていたいと思えたのは、誰かが“私”を受け止めてくれたからだ。』
次の日、リハーサルスタジオにて。
「今日の春桜、声が柔らかいな」
「表情もいい感じ!」
スタッフの声が飛ぶ。
「えへへ、なんか春の匂いがした気がして。」
そう言って笑った春桜の笑顔は、どこか前より“本物”だった。
その様子を見ていた梨乃茅は、小さく微笑みながらこう呟いた。
「……ようやく、芽が出てきたかな。」




