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桜舞う少女が吹奏楽部に入部したら… 全国優勝してしまった話  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第2章『新たな旋律(調べ)、揺れる心(想い)』
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第3話「名前を呼ばれなかった日」



夏の暑さがじわじわと校舎に染み込み、吹奏楽部の練習は日に日に熱を帯びていた。

全国大会へ向けての選抜メンバーが発表される日、部室の空気は張り詰めていた。


私は緊張で手が汗ばんでいた。

去年の成功もあり、今年もソロパートを狙っていた。自信はあった。


しかし、名前が読み上げられる度に、胸が締めつけられていく。


「クラリネットのソロパートは、結城蒼真さんに決定しました。」


その声が響いた瞬間、私の心は凍りついた。


周囲の部員たちの祝福の声が遠く聞こえる。

でも、私はその声に答えられず、ただ静かに目を閉じた。


「なぜ、私じゃないの?」

心の中で何度も問いかけた。


後日、蒼真は私のところに来て、こう言った。

「先輩の音は素敵だけど、今は僕の声を聴いてほしいんです。」


その言葉は優しく、でもどこか鋭く胸に刺さった。


私は自分の音を探す旅の始まりを、痛感していた。


ソロパートを奪われたことは、正直悔しかった。

でも、それ以上に胸に刺さったのは、蒼真の言葉だった。


「先輩の音は素敵だけど、今は僕の声を聴いてほしい」


その言葉はまるで、私に「今のままじゃ足りない」と告げているようだった。


その日から、私は自分の奏でる音を見つめ直す時間を増やした。

毎日の練習で、ただ音を出すだけでなく、一音一音に意味を込めることを意識するようになった。


部活の帰り道、夜空を見上げながら思った。

「私の音は何だろう? ただ綺麗なだけじゃ足りないのかもしれない」


自問自答を繰り返す中で、ふと、姉の梨乃茅のことを思い出した。

彼女はいつも自分の音に誇りを持ち、そしてそれを武器にして輝いていた。


でも、彼女は私の姉であることを、学校では誰も知らない。

姉の存在は秘密のまま、私は一人、音の道を探し続けるのだ。


その夜、眠れずに吹奏楽部の部室を訪れた。

そこには蒼真が残っていて、またクラリネットを吹いていた。


「先輩、聴いてください」

彼の音が、私の心の壁を少しずつ溶かしていった。


そう、私の新しい旋律は、まだ始まったばかりだったのだ。


翌日の練習で、私は新たな決意を胸に臨んだ。


蒼真の音に触発され、自分の音をもっと深く、もっと強く表現したい。

競争や順位ではなく、自分自身の心に響く音を。


部長の相川遼が私に言った。

「梨奈、君はもう十分に強い。だけど、強さは音の大きさじゃない。心に届くかどうかだ」


その言葉に背中を押され、私は静かにうなずいた。


「私、自分の音を探す。絶対に見つけるんだ」


桜の花びらが風に舞う中、私は新しい一歩を踏み出した。


音楽は、私の人生そのもの。

これからも揺れる心と共に、奏で続けていく――。


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