第2話「君の音を、聴いた」
春休みの終わりが近づき、部室には少しずつ新しい緊張感が漂っていた。
新入生たちの練習も本格的に始まり、私はそんな彼らの成長を見守りながら、自分自身の心の揺れと向き合っていた。
ある日の放課後。
部室に残っていたのは、私と結城蒼真だけだった。
彼は黙々とクラリネットの練習を続けていた。
その音色は、どこか切なくて、そして力強かった。
音の一つ一つが、まるで彼の心の奥底を語っているようで、私は思わず聴き入ってしまった。
「蒼真くん、その曲、なんていうの?」
思わず声をかけると、彼は少し驚いたように顔を上げた。
「『桜舞う日』です。自分で作った曲です。」
「自分で?」私は目を見張った。
「はい。吹奏楽部に入って、いつかみんなに聴いてもらいたいと思って、少しずつ書いてきました。」
彼の言葉には真剣さが込められていて、私は自然と胸が熱くなった。
「すごいね。君の音は、本当に心に響くよ。」
彼は照れくさそうに笑った。
その時、ふと感じた。
彼の音は、ただの音楽じゃない。誰かのため、何かのために奏でる心の叫びなんだと。
私は知らず知らずのうちに、自分の中の何かが変わり始めていることに気づいた。
彼の音に、私は導かれているのかもしれない――。